第4話 真実の行方
「あの男性は誰なの…?」
私はシュレオと話そうと思い、アルカネラ家へと向かった。
屋敷の近くに差し掛かると、門の側で人が固まっているのが目に入った。
少し手前で馬車を止めてもらい、私はその人たちの様子を見ていた。
シュレオの腕の中で寝ている、シュレオそっくりのあの小さな男の子。
そしてシュレオの視線の先には、金髪の隠し妻と…その彼女の隣に栗毛色の髪をした男性が立っていた。
隠し妻の腰に手を回して…って……………どういうこと?!?!
何で栗毛の男性がシュレオの隠し妻の腰に手を回しているの!?
そしてなぜ、シュレオはそれを咎めないの!?!?
見えてないのかしら?
あの至近距離で見えない方が問題よ!
それにあの密着度自体、許容されるべきではないでしょ!?
私はたまらず馬車から降り、シュレオへと突進して行った。
「エ、エルナーラ!?」
「…………コノジョウキョウハドウイウコトナノ!?………セツメイシテイタダケルカシラ?…………」
焦る彼を後目に、私は囁くように彼に問い質した。
シュレオの腕の中で寝ている子を起こさないよう……注意を払いつつ…
◇◇◇◇
通された応接室には私とシュレオの二人きり。
男の子は別の部屋で寝かせ、隠し妻は………
「今日はこの子を送り届けに参りました。私は伯爵様とは何の関係もありませんし、その子は私の子供ではありません。お嬢様に不安な気持ちと不愉快な思いをさせてしまった事を心からお詫びいたします。ただこれには事情がありました。あとは…伯爵様からお話しされると思います」
そう言うと隠し妻と思っていた女性は、丁寧に私にお辞儀をして、栗毛の男性と去っていた。
そしてシュレオは、今まで見た事もないような緊張の面持ちで、私の目の前に座っている。
見合ったこの状態で、十数分が経っていた。
「………ほっぺ…大丈夫?」
とりあえずこの沈黙を破るために、私から話してみる。
父に殴られた左の頬が、少し赤黒いあざのようになっていた。
「あ、うん…全然平気だよっ…それに…………殴られて当たり前だから……」
最後の方は消え入りそうな声だった。
「…今日はきちんと話をしたくてきたの。私、あなたから何も聞いていなかったから…。あの金髪の女性はシュレオの隠し妻ではないの? だったらあの男の子の母親は別の人? 別の女性との子供なの?」
「……彼女とは何の関係もないし、他に関係を持った女性もいない。もちろん隠し妻なんていないし、隠し子もいない。君を裏切るような事は一度たりともした事はないよ」
「で、でも…だったらあの子は? あの男の子はシュレオにそっくりだわっ 他人の子供とは思えない!」
「あの子は……他人ではない……あの子は…ジョイドは……僕の甥なんだ…」
「甥…!? 甥って…あなた一人っ子でしょ? 兄弟はいないじゃないっ」
「僕もずっと一人っ子だと思っていた。けれど兄弟がいたんだ………双子の弟が…」
「双子!?」
昔…お祖父様に聞いた事がある。
お祖父様の時代は、双子は“忌み子”として不吉な存在とされていた。
だから生まれたら片方を養子に出すか…時には命を絶つ事があったと…
その話を聞いた時は衝撃だった。
ただ双子というだけで、自分の子供を捨てるか殺すかなんて…
そんな残酷な習わしがあった事に恐怖を覚えた。
でも今ではそのような因習はもちろんなく、双子の方を時々街中で見かける事もある。
シュレオと私と共通の友達の中にも双子がいるわ。
隠すような事ではないはずよ。
なのにシュレオ自身もご兄弟がいた事を知らなかったなんて…どういう事なのだろう…