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第3話 やっぱりあなたを信じたい

 婚約破棄騒動から一夜が明けた。

 私は部屋に籠り、やる事も気力もなく、寝台の上にただ寝転がっていた。


 コンコン


「どうぞ…」


「失礼致します、お嬢様。アフタヌーンティーをご用意いたしました」


「……何もいらないわ…」


「…お嬢様…昨日からろくにお食事をされておりません。せめてお飲み物だけでも口にしていただけませんか?」

 パトリアが心配そうに私にお願いした。


「……じゃあ…ミルクティーだけ…」


「はいっ 只今お入れいたします」


 私はパトリアが入れてくれたミルクティーをあっという間に飲み干した。

 帰ってきてから泣きどおしで、のどがこんなに乾いていた事にも気が付かなかった…


「…おいしい…」

 そしてあたたかい……パトリアの気遣いがありがたかった…

 その優しさで胸がいっぱいになり、また涙が出てきた。

 あれだけ泣いたのに…まだ出る涙に自分でも少し驚く。


「…お嬢様…シュレオ様がお持ちになられた花束…いかがいたしますか? 旦那様はすぐ処分するようにと仰っていたのですが…お嬢様に聞かずに捨てるのは…と思いまして…」

 パトリアは私の手の中にあったティーカップを受け取りながら、遠慮がちに話し始めた。


「…花束…」

 私は、パトリアが活けてくれたのであろう…ティートロリーに乗せてあった花瓶に目を向けた。

 四本のガーベラが鮮やかに咲いている。


 …そういえば……忌明いみあけが過ぎても、会えなくなり手紙が届かなくなっても、お花だけは送ってきたわ。けど…なぜガーベラなのかしら。

 そう確か…いつもガーベラの花束だった…意味があるのかな……!!……


「意味っ 花言葉!」


「え!?」


「シュレオがくれる花束はいつもガーベラだったのよっ 何か意味があるのかもしれない!」


「あっ! す、すぐに図書室から花言葉辞典を探して参りますっ」


「お願いっ」


 そしてパトリアは急ぎ足で部屋を出て行き、しばらくして花言葉辞典を胸に抱えて小走りで戻ってきた。


「ガーベラの花言葉…」

 いつもガーベラの花を送ってきたのは、もしかしたら…何か意味があるのかもしれない。

 私はパトリアから辞典を受け取ると、急いでページをめくった。


「ガーベラ…ガーベラ…」

 シュレオの気持ちを代わりに教えて…


「ガーベラッ あった!」

 私はガーベラの項目を探し出し、期待を胸に花言葉を読んだ。

 ガーベラの花言葉は………


「…神秘・崇高美……………どういう意味?」


「え…と…お嬢様をとても気高い方って思われているのでは…」

 私の言葉に戸惑いながら答えるパトリア。


「何それっっ?? 意味が分からないっっ!!」


 ばふん!

 私は本を投げ出して、寝台の枕に顔をうずめた。


 私のバカバカバカバカ!!

 また期待してしまったっ!!


 現実を見なさいっ エルナーラ・コルディア!

 シュレオには他に好きな人ができて、子供もいて、だから私たちは別れたのよ!!

 

「…もうやだぁ……ひぐぅ…」

 ああ…ひっこんだ涙がまたまた出てきた……ぐすん…


「……お嬢様……違います……」


「…え?」


 私は本を見ているパトリアに顔を向けた。


「花言葉はお花の本数で意味が変わるみたいですっ」


「本数!?」


「はいっ シュレオ様は4本贈られています…4本は…」


「4本は!?」



「……あなたを一生愛し続けます……です…」



「………………嘘っ…」

 私は起き上がり、パトリアが手にしてた本を覗き込んだ。


「ほ…本当だわ…本当にそう書いてある……あっ! きょっ、今日はたまたま4本だったのかもしれないわっ そうよっ きっとそうよ!」

 もう期待しないっ 期待してはダメよ!


「いいえ! いつも4本でしたっ 私、覚えております!」


「パトリア…」


「最初は偶然だと思いました。けど途中から毎回4本で作られている事に気がついたんです。でも4なんて不吉な数字…わざわざお伝えするのもはばかられて…そのあとは…ますます言えませんでした…まさか本数にも意味があるなんて思いませんでした」


「シュレオは今日も4本のガーベラを持ってきてくれた…こ、これって…どういう事なの?」


 じゃあ、あの女性は?

 彼女と結婚するつもりじゃないの!?


「…お嬢様…シュレオ様にお会い下さい。そして、きちんとお話をして下さい。このままでは一生気持ちを引きずる事になります。シュレオ様とお話しされた結果、やはりお別れする事になるかもしれません。けれど、きっと気持ちに一区切りつける事ができると思います」


「パトリア…」

 そうよ…私…シュレオと話をしていない…何も聞いていない…

 彼から別れを告げられるのが怖くて…両親に全て任せて逃げた…


 本当に彼が心変わりをしたのなら、きっときちんとその時に話してくれていたはず。子供は……何か事情があるのかもしれない…っ


「ああ! ここで考えたって答えなんか出る訳ないわ! 私、シュレオに会ってくる!」

 私は決意した。


「はい、それがよろしいかと存じます」

 パトリアは嬉しそうに微笑んでいる。


「パトリア…ありがとう」

 私はパトリアに抱きついた。


「とんでもない事でございます。さ、いつものかわいらしいお嬢様にして差し上げますわ」


「お願いっ」

 私は鏡台の前に座って、涙を拭いた。


 10年間一緒に過ごした時間が…ガーベラの花束に託したあなたの気持ちが…

 まだ消えていないと私は信じたかった。

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