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しばらくそうして固まった後、フィル君は動揺した様子で口を開いた。
「…な、なんで僕が謝らないといけないのさ!」
「お前は人を傷つけといて謝罪もできないやつなの?僕は素直に謝ったのに、お前、最低だね」
確かに…前にフィル君にヴィンスさんが謝罪を求められた時、ヴィンスさんは素直に謝ってたよな…フィル君にどんなに怒鳴られようと、言い訳もせず誠心誠意謝罪してた…なのにフィル君は、なんだかんだ言い訳をつけて謝ろうとしない…なんか、今のフィル君は少しかっこ悪い気がする。
「フィル君、僕の知ってるフィル君はもっとかっこよかったよ!僕みたいなやつとも仲良くしてくれるくらい優しくて、かっこよくて、でも今は…!自分の非を認めず言い訳してるフィル君はかっこ悪いと思う!」
「い、言い訳してるわけじゃ…」
少し気まずそうにそう言うフィル君にヴィンスさんは冷たい視線を向けた。
「レイ、こいつとはもう絶交しよう」
え、それは流石にやりすぎじゃないかな?
「そこまでしなくても…」
思わずそう言うと、ヴィンスさんは不思議そうに首を傾げた。
「なんで?こいつは人に謝るっていう基本的なことができないやつだよ?」
あ、確かに…。お母さんにも、ありがとうとごめんなさいをちゃんと言える人と仲良くしなさいって言われたしな…
「あ、じゃあ、フィル君とは少し距離を置こうかなって思います」
その瞬間、フィル君は焦ったように顔を上げた。
「は?!なんで?!おかしいでしょ!」
「あ…でも、僕はお母さんからありがとうとごめんなさいをちゃんと言える人と仲良くしなさいって言われてきたから…」
「……で、でも、本当に、僕は団長から酷いこといっぱいされてて…た、確かに、暴言は良くなかったと思うけど…」
訴えかけるようにそう言うフィル君に、ヴィンスさんは冷たい眼差しを向けた。
「良くなかったと思うなら早く謝って」
そう言われたフィル君はしばらく黙って、握った拳をプルプルと震わせていた。しかしやがて諦めたように息を吐いた。
「…わかった。暴言は僕も悪かったから謝る…でもその代わりにレイ君、距離…置くのはやめてよ」
「あ…うん」
するとフィル君は苦虫を噛み潰したような顔をして「団長、色々とごめん」とボソリと呟いた。ヴィンスさんはそんなフィル君を冷たい目で一瞥した。
「色々ってなに?全部謝って」
フィル君はカッとなったように顔を上げた。
「は?!なんでだよ!」
「色々じゃわかんないから」
ヴィンスさんが平然とそう言うと、フィル君は何か言いたげな表情をしたが、僕の方に視線を向けたのちに、グッと堪えるような表情をした。
「…その、サイコパスとかクソ団長とかバイ菌とか…ひどいこと言ってごめん」
フィル君の謝罪を受けて、ヴィンスさんは静かに口を開いた。
「僕サイコパスって言われて悲しかった。傷ついた。一生消えない傷負った」
「…」
「あとクソ団長って言われた時もショックだった。一生懸命働いて得た地位をそんな風に言われて悲しくてたまらなかった」
「……」
「バイ菌って言われた時も、辛かった。胸の奥が苦しくて涙が止まらなかった」
「………」
フィル君は信じられないものを見たかのように絶句していた。まるで銅像のようだ。
でもヴィンスさんも内心辛かったんだな…僕はヴィンスさんの辛い気持ちに全く気づけてなかった。ヴィンスさんはフィル君から暴言を吐かれても平然としているように見えたけど、やっぱりひどく傷ついてたんだ…
「僕はフィルにいっぱい傷つけられた。フィルのせいで僕の心は消えない傷がいっぱいできた。毎日辛かった。悲しかった」
「ヴィンスさん…」
「でも今フィルはごめんって言ってくれた。だからこんなに最低なフィルだけど、僕はそれを受け入れて許そうって思う」
やっぱりヴィンスさんはすごい…たくさん傷つけられた相手でも寛大な心で許すなんて…僕だったらできないことだ…
「ヴィンスさん、すごいです…」
「うん。僕はフィルより器が広いから」
そう言ってヴィンスさんは微笑んだ。やっぱりヴィンスさんはかっこよくて優しくてすごい人だ
「レイ、もうフィルからも謝ってもらったし、ご飯も食べ終わったから、ここを出よう」
「あ、そうですね」
そしてヴィンスさんはフィル君に視線を向け、微かに口角を上げた。
「じゃあ、そういうことだから」
僕も帰る前に一声かけようとエミールさんに会釈したのちにフィル君に言う。
「あ、フィル君、またね」
そうして僕たちは店を出た。
帰る途中にエミールさんがフィル君に心配そうに声をかけてるのが見えた。
♢♢♢
「あの、フィル君?大丈夫ですか?」
私がそう呼びかけてもフィル君が返事する様子はない。
「ええっと、その、恋は盲目と言いますし…ヴィンセント騎士が酷いのは僕も理解しています…だから、その、元気出してください…」
励ましの言葉をかけても無反応だ。フィル君、大丈夫かな?
そしてしばらくして思い出したように蘇生したフィル君は突然叫んだ。
「クソがああああああああああ!!!!」




