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レイの弾丸  作者: ぷぷ
2章
56/63

56

マンションに着くと、豪華なエントランスに入った。そこにはコンシェルジュの人がいて、僕たちを見ると一瞬、驚いたように目を見開いた。しかしすぐに温和な笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「ヴィンセント様。おかえりなさいませ」

「うん」


ヴィンスさんは短く相槌を打った後、僕を連れてエレベーターに乗った。


最上階まで着いて、ヴィンスさんはエレベーターを降りた。僕もそれに続いて行くと、一つの部屋の前でヴィンスさんは立ち止まった。


「ここが僕の部屋」


ヴィンスさんが扉に軽く触れると、ガチャっと扉のロックが解除された。そして扉を開くと、中にはとても高級そうな空間が広がっていた。まず最初に目に入るのが立派な玄関と、大理石の廊下だ。そして廊下を進むと、その先には広いリビングがあって、おしゃれで高級そうなテーブルや、上等なソファー、大きなスクリーンなどがセンスよく置かれていた。


お金持ちってすごい…こんな部屋に住んでるのか…


「レイ、ご飯はもう食べた?」

「あ、そういえばまだです」

「お風呂は?」

「それもまだです」

「じゃあお風呂沸かすね」

「え?あ…ありがとうございます」

「うん。何か飲む?」

「あ、いえ…そんなに気を遣っていただかなくても…」


そうだ。僕は看病しに来たんだ。僕が率先して動かないとダメだ。


「あの、ヴィンスさんこそ、僕にやって欲しいことがあったら遠慮なく言ってください」

「うん。じゃあ、ソファーに座ろう」

「は、はい!」


僕は慌ててフカフカのソファーに座った。


「オレンジジュースとストロベリージュースどっちがいい?」

「あ…じゃあ、ストロベリージュースで」

「わかった」


ヴィンスさんはスタスタとキッチンへと行ってしまい、すぐに高級そうなグラスに入ったストロベリージュースを持ってきた。そしてそのグラスをソファーの前にある大理石でできたローテーブルの天板の上に置いた。


「美味しいかわからないけど飲んでみて」

「は、はい!」


僕は天板の上のストロベリージュースを手に取って飲んだ。


え、美味しい。なんだ?この濃厚なストロベリージュースは?!


「すごく美味しいです!」


僕はジュースのあまりの美味しさに思わず興奮してそう言った。ヴィンスさんはそんな僕を見て嬉しそうに目を細めた。


「そう。よかった」


そうして僕はストロベリージュースを存分に味わった。


「レイ、それ飲み終わったらお風呂入る?もうお湯沸いたよ」

「あ、はい。入ります」


僕は少し残っていたジュースを飲み終えて、ヴィンスさんに案内されて、浴室に繋がる洗面室に行った。

洗面室に入ると、まず立派な洗面台が目に入った。洗面台もまた大理石でできており、その上にはスクリーンみたいに大きな鏡があった。洗面台の上にはずらっと、何か液体の入った高級そうなボトルが並んでおり、たぶんそれは化粧水や保湿液の類だろうなとわかる。


…やっぱりヴィンスさんってイケメンなだけあって美意識高いんだな…。毛穴一つない陶器のような肌も、きちんとケアしてるからこそなんだな。…僕とは大違いだ。僕は化粧水なんて家に無いし、洗顔以外、顔のケアは特にしていない。こういうところから差がついていくんだろう。

僕がそんなことを考えていると、ヴィンスさんは洗面台の下の大きな収納を開けて僕にフカフカのタオルを渡してくれた。


「このタオル使って。あと洋服は適当にまとめといて。後で魔法で綺麗にしとくから」

「あ…すみません。お手間を」

「大丈夫。そんなに手間じゃないから。あと、着替えはレイがお風呂に入ってる間に置いておくね」

「ありがとうございます」


そして「ゆっくりしていいから」と言ってヴィンスさんは部屋から出て行った。僕は早速服を脱いで、浴室に入った。


浴室も洗面室と同様にとても広く高級感のあるものだった


壁も床も大理石でできており、二人か三人は余裕で入れるシャワースペースと、プールみたいに大きな浴槽があった。


僕は備え付けてあるシャンプーなどを少量使って全身を洗ったのちに、恐る恐る浴槽に入った。


浴槽は、僕がめいいっぱい足を伸ばしても余裕があるくらい広々としとており、湯船は適度に温かく、とてもいい香りがする入浴剤が入れてあった。


ああ、極楽だ…僕の寮のお風呂とは雲泥の差だな…気持ち良すぎる。

そうして、ゆっくりとお湯に浸かったのちに浴室から出ると、洗面台の上には僕の着替えが用意されていた。

とてもスベスベなシルクの上下セットの青いパジャマだ。


…パジャマまで高級そうだ。


僕はそのパジャマに着替えて、リビングに行くと、リビングには香ばしい香りが充満していた。

そして、ヴィンスさんは制服から私服に着替えて、ソファーの上で足を組み、優雅に紅茶を飲んでおり、僕と目が合うとにこりと微笑んでくれた。


「パジャマ似合ってる。可愛い」

「あの、こんなスベスベなパジャマをありがとうございます」


恐縮してそう言うとヴィンスさんは微笑んで手招きした。

僕がヴィンスさんの隣に座ると、ヴィンスさんは「待ってて」と言って立ち上がった。

そして、戻ってきたヴィンスさんの手にはドライヤーが握られていた。そして僕の背後に立ち、ドライヤーをかけ始めようとしたので、僕は慌てて振り返った。

流石にヴィンスさんにドライヤーをかけてもらうなんて恐れ多すぎる。


「あの、僕自分で乾かします」

「僕にドライヤーかけられるの嫌?」

「あ…嫌じゃないです。むしろ嬉しいですけど…でも悪いです。こんなことまで…」


するとヴィンスさんは僕をじっと見つめて言う。


「僕がやりたいの。だめ?」


ヴィンスさんのつぶらな瞳に耐えられず僕は折れた。


「ヴィンスさんがやりたいなら…」


僕がそう言うと、ヴィンスさんは少し目を細め、嬉しそうになった。まあ、ヴィンスさんが嬉しそうならいいか…そう思って僕は大人しくドライヤーをかけてもらった。ヴィンスさんは僕の髪をとても丁寧に、そして優しく触ってくれたので、僕は心地良すぎて自然と口角が上がった。

ヴィンスさん、美容師の才能もあったのか…


そうして、僕の髪はかつてないほどツルンツルンになった。ヴィンスさんは、僕の髪を乾かし終わった後、ドライヤーを戻しに洗面室に行き、洗面台の上にあったボトルのうちいくつかを持って戻ってきた。


「これ、化粧水とか美容液とかなんだけど、良かったらつける?」

「えっ、いいんですか?」


何種類かのボトルは、どれも僕でも聞いたことがあるような高級ブランドのもので、僕が使うのは気が引けるようなものばかりだった。


「うん。いっぱいあるから」

「え?でも、こんな高級そうなものを…」

「そんなに高級じゃないから大丈夫」

「えっ、そうなんですか?でも、これ、有名なブランドのやつですよね?高いんじゃ…」

「ううん。そうでもないよ。これは十万くらいで、こっちは三十万くらい」

「え?じゅ、十万?さ、三十万?」


は?正気か?こんな少量の液一つが十万に三十万?え?は?


僕はそれを聞いて、しばらくフリーズした後に、それらを丁重にヴィンスさんに返した。


「あの!僕、洗顔だけで十分もちもちスベスベになったので大丈夫です!」

「そう?」

「はい!」


僕がそう熱弁すると、ヴィンスさんは首を傾げつつも化粧水やら美容液を洗面室に戻しに行った。


そして戻ってきたヴィンスさんは、後ろにある二人掛けの大理石のテーブルを指さした。


「レイ、あっちに座ってて」

「あ、はい!」


僕がテーブル席に座っていると、ヴィンスさんがキッチンから何やら料理を運んできた。


「え?すごい…」


ヴィンスさんが運んできたのは、大きな器に入った魚介類たっぷりのパエリヤだった。


ヴィンスさんはパエリアをテーブルの中央に置いて、再びキッチンに戻り、フレッシュなサラダと、美味しそうなミネストローネを運んできた。そして最後に、先ほど飲んだストロベリージュースを持って来てくれた後、僕の向かいの席に座った。


「これ、ヴィンスさんが作ったんですか?」

「うん」


え、ヴィンスさんって料理もできたんだ…こんなご馳走作ってくれるなんてすごい…ヴィンスさんってシェフの才能もあったんだな…


「食べよう」

「は、はい!」


そうして僕はヴィンスさんの手料理を口に運んだ。

結論から言うと、ヴィンスさんの作ってくれた料理はとても美味しかった。サラダはシャキッとしていて瑞々しかったし、ヴィンスさんの作ってくれたオリジナルドレッシングがアクセントになってとても美味だった。パエリアも具沢山で、一つ一つの具がとてもジューシーで、お米にも魚介の味が浸透していて最高だった。ミネストローネも程よい酸味とトマトの濃厚な旨みがマッチしていて絶品だった。美味しすぎて、パエリアは一人で半分以上食べてしまったし、ミネストローネはおかわりしてしまった。


そして一通り料理を食べ終わってから、僕は自分の食い意地に気づいて焦った。食事中は僕が沢山食べるたびにヴィンスさんが目を細めて嬉しそうにしていたものだから気づかなかったけど、普通に二人分のパエリアを一人で半分以上食べて、その上スープをおかわりをするなんて、意地汚すぎないか?


「あの、ヴィンスさん、食べすぎてすみませんでした」

「ううん。嬉しかったよ。美味しかった?」

「はい。とっても美味しかったです!」

「そう。よかった」


僕の行儀の悪さを寛大に許してくれるなんてヴィンスさんはやっぱり優しい。


それから僕たちはソファーに移動して、大きなスクリーンで映画を見た。その映画はとても面白くて僕は見入ってしまったのだが、途中でヴィンスさんが温かい紅茶や、ちょっとしたおつまみを持ってきてくれて、終始満足感がすごかった。


「レイ、もう遅いから寝よう」


映画が終わり、ヴィンスさんにそう言われて、僕はヴィンスさんと共に寝室に行った。寝室は、大きなベッドが一つあるだけの落ち着いた空間だった。


「ここで寝てね」

「あ、はい。でも…ここってヴィンスさんのベットじゃ…」

「僕はソファーでいいから」


いやいや、それは流石に気が引ける。マンションに呼んでもらってお風呂使わせてもらってドライヤーやってもらってご飯作ってもらって映画見せてもらったのにベットまで使うなんて…


ん?というか、そもそもなんで僕はここに来たんだっけ?そうだ!ヴィンスさんを看病するためだった。なのに、看病どころか僕はヴィンスさんに手間ばかりかけさせていた…やばい。これじゃだめだ。


「あの!僕はソファーで寝るのでヴィンスさんはここで休んでください」

「レイをソファーで寝かせるわけにはいかない」

「でも、ヴィンスさんは病人ですし、ベットで寝るべきです!」

「…わかった。じゃあ、僕はベットで寝るからレイもベットで寝よう」

「え?でもベットは一つしかないですけど…」

「このベット広いから二人で寝れるよ?」


確かに…このベットは広いし二人で寝れるかも。え?でもいいのかな?僕は看病しに来たのに、病人のヴィンスさんと一緒に寝るなんて…


「僕レイに添い寝してもらえれば、傷開かない気がする」


え?そうなの?じゃあ添い寝しないと!


「あ、じゃあ、一緒に寝ましょう」

「うん」


そうしてヴィンスさんは「シャワー浴びてくる」と言って寝室から出て行った後、しばらくして戻ってきた。薄手の白いパジャマを着たヴィンスさんは妙に色気があって、僕は少しドキッとしてしまった。


ベットに軽く腰掛けていた僕にヴィンスさんは微笑んだ。


「寝よう」


そうして僕はヴィンスさんに言われるままベットに横になり、ヴィンスさんも部屋の照明を消して僕の隣に横になった。


…なんかヴィンスさんと一緒に寝るのはすごく緊張する…


そう思ってたら横からヴィンスさんの声がした。


「レイ、こっち来て」


僕が体をヴィンスさんの方に向けて、少しすり寄ると、ヴィンスさんは僕の背中に手を回し、僕はヴィンスさんの胸の中に収まった。


…やばい。こんなにヴィンスさんと密着したの、強盗事件のロッカーの中以来だ…すごくドキドキする。それにヴィンスさん、なんかいい匂いするし…。

緊張と混乱で体を縮こませていると、ふとヴィンスさんの声がした。


「レイ、嫌?僕に抱きしめられるの」


え?嫌じゃない。普通に嬉しいし、ドキドキする。


「あの、嫌じゃないです。むしろ幸せと言うか…」


顔を上げてそう言うと、僕を間近でじっと見つめるヴィンスさんと目が合った。暗くて表情はよく見えないが、それでも美しいことだけはわかった。


「そう。よかった」

「は、はい」

「僕、傷が開いちゃうかもしれないから、今日はこうして寝てもいい?」

「え?…は、はい」


確かに…傷が開くのは良くない…僕を抱きしめるだけで傷が開かないなら、存分に抱きしめてもらいたい。


「うん。じゃあおやすみ」

「お、おやすみなさい!」


そうしてヴィンスさんは目を閉じた。僕はしばらく緊張とドキドキと変なアドレナリンで眠れなかったが、やがて深い眠りに落ちた。

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