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稲妻は二人を貫通し、男たちは「「ぎゃああああああ」」という叫びと共に、あっという間に黒焦げになり、気を失った。
僕がその光景に呆気に取られていると、扉がドンと破壊される音がして、フィル君が慌てた様子で入ってきた。
「レイ君大丈夫?!」
フィル君は血まみれになったヴィンスさんを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに視線を僕の方に移し、僕の方へとやってきた。
「大丈夫?怪我してない?」
「う、うん。ありがとう。え?でも、なんでここに?」
「団長がレイ君と電話してる時、隣に僕もいてさ、それで僕は遠隔から団長の指示を受けて動いてたんだ」
「あ、そうなの?」
「うん。僕は団長にかけてもらった幻影って魔法で存在感を消した後、空間魔法でこの建物の屋上飛ばしてもらって、しばらく潜んでたんだ。それで団長が服に仕込んだ超小型通信機から、暗号を飛ばしてくれて、犯人達がいる正確な位置をミリ単位で教えてくれたんだ。で、僕はその位置に雷を落としたってわけ」
「え?正確な位置って目視でわかるの?」
「あの人はわかるんだよ。サイコだから」
「あ、なるほど」
「うん。でも少しでも落とす場所がズレてたら、レイ君に当たっちゃうところだったから、ちょっと心配だったんだ。でも上手くいって良かった」
「うん。僕は何とも無いよ。ありがとう」
そうしてフィル君は僕の縄を解き、隣にいたアーサー君の縄も解いて、口のガムテープを乱暴に剥がした。
「アーサー、何でお前もいんのさ!」
そう言うフィル君を、アーサー君はギロリと睨みつけた。
「俺には心配の言葉は無しかよ」
「お前は図太いから大丈夫でしょ」
「死ね」
アーサー君はフィル君に任せて、僕はヴィンスさんに駆け寄った。
ヴィンスさんは平然と立っているが、足や腕から酷い出血をしていて、血まみれだった。
「ヴィンスさん、あの、大丈夫ですか?すみません。僕のせいで…」
「ううん。レイのせいじゃない。これくらい大丈夫」
「え?でも…血たくさん出てます。救急車呼んだ方が…」
「ううん。大丈夫」
「じゃあ、せめて病院に行って手当して貰わないと…」
「大丈夫。自分で治せるから」
そう言ってヴィンスさんは倒れている男たちのもとへと行き、衣服を探って、鍵のようなものを取り出した。
そして自分の手首についた腕輪を外し、詠唱した。
「治療」
その途端、ヴィンスさんの体が眩い光に包まれた。僕は眩しくて思わず目を瞑った。光が収まり、目を開けると、ヴィンスさんの出血は綺麗に止まっていた。そして血だらけだった制服も綺麗になっていた。
「これでもう大丈夫」
そう言ってヴィンスさんは眉を下げて微笑んだ。僕はヴィンスさんの傷が治ったことにホッと息を吐いた。
「レイは怪我してない?」
「あ、はい」
「首から血が出てる。念の為、治癒魔法かけるね」
「あ…す、すみません。ご迷惑を」
「ううん。迷惑じゃない」
そうしてヴィンスさんは僕にも治癒魔法をかけてくれた。そのお陰で首の傷は治り、拐われた時に殴られた頭もスッキリとした。
「治療していただいてありがとうございます」
「うん」
そうして僕はふうっと息を吐き、気持ちを切り替えた。そして僕はヴィンスさんを精一杯ジトっと見つめた。僕は忘れていない…という意思表示だ。
「…怒ってる?」
「…少し」
僕がボソッとそう言うと、ヴィンスさんは動揺したように瞳を揺らした。
「…ごめん」
謝られても、僕のモヤモヤは収まらない。
「…僕の気持ち、信じられませんか?ヴィンスさんは、僕のヴィンスさんへの思いを軽いものだと思ってるんですか?すぐ他の男に乗り換える薄情なやつだと思ったんですか?」
ヴィンスさんは焦った様子で首を横に振った。
「違う。レイはすごく誠実で優しくてとっても可愛い。でも世の中にはケダモノが沢山いるから…そういう悪い人に騙されちゃうかもしれないし…」
「…騙されません。僕はヴィンスさん一筋です」
少し強い口調でそう言うと、ヴィンスさんは視線を下げた。
「…ごめん」
「僕の気持ち、もう少し信じて欲しいです」
「うん。ごめん」
「僕もヴィンスさんの気持ちを信じるので、ヴィンスさんも僕の気持ち信じてくれますか?」
「うん。信じる」
ヴィンスさんは僕の目を強く見つめて頷いた。
「ありがとうございます。じゃあこの話はもう終わりです」
「うん。ありがとう」
そうして僕たちは仲直りした。
♢♢♢
「なんだあれ?キモすぎる。レイ・ベルモンドもヴィンセントも狂人だな」
アーサーは先ほどまでの二人の会話を聞いて心底ドン引きしていた。
「だいたい、好きなやつを取られたくないから、自分よりも先に死んでくれっておかしいだろ?サイコの考えじゃねぇか。あいつら、頭おかしい」
俺がそう呟くと、隣にいたフィルは怒ったように眉を寄せた。
「おかしいのは団長だけだよ!レイ君は洗脳されてるの!僕が解いてあげないと!アーサー、お前も手伝ってよ」
「なんでだよ。俺はあんな気持ち悪い奴らと関わるのはごめんだ」
「はあ?今まではレイ君にしょっちゅう自分から絡みに行ってたじゃん」
「絡みになんか行ってねぇよ。あいつが俺の周りをちょこまかすると無性にムカつくから、邪魔だって言ってただけだろ」
「…お前のそのいじめっ子癖直した方がいいよ」
「余計なお世話だ。とにかく俺はあんな気色悪い奴らとはもう関わらないからな」
そんな話がされているとは知らず、僕はヴィンスさんに言う。
「あの、ここには僕が残って騎士団にこの人たちを引き渡すので、ヴィンスさんは帰って休んでください。治療したとはいえ、とても酷い怪我をしたんですから、今日は安静にしておいた方がいいです。事情は僕から説明しておくので…」
「…僕はもう大丈夫だよ。傷は全部塞がった」
「…でも心配です」
さっきまで全身血まみれだったのだから、もう大丈夫と言われても心配だ。
「じゃあ、レイが今日一日、一緒にいて欲しい」
「え?それはいいですけど…」
「僕の家に一緒に行こう」
「…あのタワーマンションにですか?」
「うん。看病して欲しい」
確かに…今日、ヴィンスさんを一人で家に帰すのは心配だ。本人は大丈夫だと言ってても、治療が不完全で、あとから傷が痛み出したりするかもしれないし…僕がきちんと見ていた方が安心だ。
…まあ、あのマンションに僕なんかが行くのは気が引けるけど。
「わかりました。僕、看病頑張ります!」
するとヴィンスさんは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。じゃあ、ここはフィルとアーサーに任せて、僕たちは帰ろう」
「え?あ、でも、それは悪いんじゃ…」
「でも僕、早く家に帰って休みたい…傷開いちゃうかもしれないし…」
それは大変だ!早く帰らないと!
「あ、そうですよね!じゃ、じゃあ、急いで帰りましょう」
フィル君たちには悪いけど、ここはヴィンスさんの健康の方が優先だ。
「うん。じゃあ、僕からフィルに言ってくる」
ヴィンスさんはフィル君とアーサー君のもとへと行った。
「ここ、処理しといて。僕帰るから」
ヴィンスがそう言うと、フィル君の眉が吊り上がるのがわかった。
「なんでさ!あんたのせいで起きたことなんだから、あんたが責任持って片付けろよ!」
「無理。これからレイとデートだから」
あ、更に眉を吊り上げた。すごく怒ってる顔だ。
「はああ?!!そんなの許さないよ!」
フィル君の恐ろしい怒気にもヴィンスさんは表情を一切変えていない。
「へぇ。じゃあ僕は行くから」
「おい!待てよ!!」
フィル君の静止も聞かず、ヴィンスさんは僕のもとに戻ってきた。
しかし後ろからフィルくんも早足で追ってきて、ヴィンスさんを追い抜いて僕に詰め寄った。
「レイ君、これからこいつとデートすんの?!やめなよ!」
僕はその勢いに、たじろいでしまう。
「え?あ…デートっていうか…その、ヴィンスさん、さっき僕のせいですごい怪我しちゃったから、看病しようかなって…」
「看病?!そんなのこいつに必要ない!」
え?それは流石にどうなのかな?
「あ…でも、本当にすごい出血とかしてて…心配なんだ…」
「どいて。お前邪魔」
ヴィンスさんは不愉快そうにそう言って「空間移動」と言ってフィル君を消してしまった。
「え?フィル君、空間魔法で飛ばしたんですか?」
「うん。うるさいから適当に飛ばした。僕たちは帰ろう」
え…あ…大丈夫なのかな?
「あの、フィル君大丈夫ですか?」
「うん。そんなに遠くに飛ばしてないから大丈夫」
「あ、そうですか…」
まあ、ヴィンスさんが大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう…
帰り際、ヴィンスさんは振り返り、アーサー君に言った。
「じゃあ騎士団に連絡して、こいつら引き渡しといてね」
「…ああ」
そうして僕たちは地下室から出て、ヴィンスさんの住むマンションへと向かった。




