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男たちは入ってくるなり、僕の携帯を乱暴に床に投げた。
そして僕たちにナイフを向けて言う。
「ヴィンセントにはもう連絡済みだ。お前を助けたければ、一人で来いとな。仲間を連れてきたり、武器を持ってきたり、魔法を使う仕草を見せたら、お前を即殺すとも言ってある」
やはりアーサー君の言う通りだ。この人たちは僕を盾にヴィンスさんを殺すつもりだ。
「あと、お前らに余計なことを喋られたら困るからな。口止めさせて貰うぜ」
男たちは、持っていたガムテープを見せ、僕たちの口に乱暴に貼り付けた。
それから、一分も経たないうちに、部屋の扉が開き、ヴィンスさんが現れた。
ヴィンスさんは縛られ、首にナイフを当てられている僕と目が合うと、大きく眉を寄せた。
二人組のうちアーサー君の方にいた男が、アーサー君にナイフを向けたまま、ヴィンスさんに何やら投げつけた。
「まずはこれをつけろ」
それは銀色の腕輪だった。腕輪は魔力変換を出来なくさせる魔消石という鉱物でできた腕輪で、あの腕輪を付ければ、ヴィンスさんといえど、魔法を使うことはできなくなってしまう。
まずいと思って声を出そうとするが、ガムテープで塞がれているので、変な呻き声しか出ない。
「大人しく付けないなら、こいつは今すぐ殺すぞ」
そう言って、僕にナイフを向けている男は少し力を込め、ナイフは僕の首元に食い込み、血が滴り落ちた。そんな僕を見て、ヴィンスさんは躊躇うことなく腕輪をつけた。
「レイを傷つけるのはやめて。次は何すればいいの」
淡々とそう聞くヴィンスさんに、二人は視線を合わせてニヤリと笑った。
「てめえには恨みがあるからなあ、とことん苦しんで貰うぜ」
「ああ、俺たちにしたこと、後悔させてやる」
そう言って僕にナイフを向けてる男は、懐からもう一本のナイフを取り出してヴィンスさんに投げた。
「これで、お前の太ももを刺せ」
僕は耳を疑った。
は?何言ってるんだ?太ももを刺すって…
「右?左?」
「両方だ」
それを聞いたヴィンスさんは、無表情のままナイフを右の太ももに突き立てた。グニョっと変な音と共にヴィンスさんの太ももにはナイフが深く突き刺さり、ヴィンスさんがナイフを抜くと、白い制服が真っ赤な血で染まった。
なっ…!
「んー!んんっ!」
思わず呻き声を上げると、ヴィンスさんは僕の方を向いて、微かに目を細めた。
「レイ、そんなに慌てなくても大丈夫。痛くないから」
…痛くないって…そんなわけない。だって、ヴィンスさんの太ももからは夥しい血が流れている。こんなに血が出てて、何を言ってるんだ…!
「次は左だ」
ヴィンスさんは左の太ももにもナイフを突き刺した。
「次は両腕」
そう言われてヴィンスさんは右と左の腕にも淡々とナイフを深く突き刺していく。
「次は両肩」
無表情でグサグサと自分を刺すヴィンスさんを見て僕は思わず絶句した。
は?なんなんだ?この光景は…ヴィンスさんがどんどん血で汚れていく…ヴィンスさんの制服はほとんど赤い血で染まっていた。なんで立っているのか、いや、なんで生きているのか不思議なくらい流血していて、僕は思わず目を瞑った。
…もう嫌だ。もう見たくない。やめてよ。そんなに出血したら、ヴィンスさんが死んじゃう…
「次はそうだな…胸に刺せ」
ーは?
胸なんてダメだ。そんなところに刺したら確実に死んじゃう。僕が耐えきれなくなって、再び声を上げようとした時、ヴィンスさんが口を開いた。




