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ヴィンスさんが王族警護に行ってから一週間、僕は特別課での最後の仕事を終えた。来週からはヴィンスさんとフィル君が戻ってくるので、僕は市民相談室に戻る。ヴィンスさんがそう申請したらしい。僕もここ数日、特別課の任務についてみて、それなりにやりがいはあったが、やはり市民相談室の方が向いているなと感じ始めていた。特別課の任務は犯罪組織壊滅などのスケールの大きいものが多い分、とても達成感を感じることができる。しかし、市民相談室で市民から寄せられる依頼をコツコツ解決して、依頼してくれた人が笑顔になったり、喜んでくれる姿を間近で見る方が、僕にとっては嬉しいし、やりがいも感じることができた。
そのため、ここ最近エミールさんからは異動を強く勧められることもあったが全て断った。僕はヴィンスさんと一緒に市民相談室にいた時が一番楽しく仕事ができることがわかったからだ。
そんなことを考えながら僕は寮に帰る道を歩いていた。今日はとても忙しくて、早くベットに横になりたいくらい強い疲労を感じていた。
そのため、市場に寄って明日の朝食を買った後、いつもはヴィンスさんに危険だからと言われて、使わないのだが、今日はどうしても早く家に帰りたいという気持ちが強く、近道をしようと人通りが無い裏道を通っていく。もう夕方なためライト一つない裏道は薄暗く少し不気味だ。
そんなことを考えながら歩いていると、背中をぐいっと引っ張られた。
え?なんだ?僕が後ろを振り返ると、そこには眉を吊り上げたアーサー君がいた。
「あ、アーサー君?」
「お前、ふざけんなよ!この俺をパシリに使いやがって」
アーサー君はとても腹が立っている様子で僕を睨みつけてきた。
「あ、あの…どうしたの?僕何かしたかな?」
突然のアーサー君に面食らいながらもそう言うと、アーサー君は僕の胸に紙を押し付けてきた。
「お前が出した報告書に書き漏れがあったんだよ!それで室長に、今日中に処理したいから届けろって言われたんだ!俺をパシらすなんていい度胸だな?!」
「あ、ごめんなさい…。わざわざ届けてくれてありがとうございます」
「お前、職場携帯置いて帰るんじゃねーよ!お前のプライベートの連絡先なんてフィル以外知らねーんだから、何かトラブルがあった時、連絡できねえだろ。それで、俺がわざわざお前に届ける羽目になったんだぞ?!なのに、中々寮には戻ってこねーし、探すの苦労したんだからな!」
「あ…本当にごめんなさい…携帯は持ち帰ります。報告書も戻って書くので、迷惑かけてすみませんでした」
そう言うと、アーサー君はくるりと反対方向を向いてスタスタと歩いて行った。僕も寮ではなく騎士団に行くなら、裏道では遠回りになると思い、来た道を戻ろうと歩き出した時、後ろから強い衝撃が襲ってきた。
…え?なんだ、頭にものすごい痛みが…
自分に何が起こったか考える暇もなく、僕の視界は暗転していった。気を失う直前にびっくりしたような顔で振り返ったアーサー君の顔が見えた気がした。




