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レイの弾丸  作者: ぷぷ
2章
48/63

48 ※レイ

僕は仕事帰り、適当な店でご飯を食べようと王都の繁華街をうろうろとしていた。特別課で仕事をするようになってから、仕事終わりはクタクタに疲れてしまい、自炊をする気が起きなくなってしまって、ここ数日は毎日外で買って帰っていたのだが、たまには外食でもしようと思ったのだ。


今日は何食べようかな?昨日はオムライスを食べたから、今日はパスタを食べようかな。そう思ってパスタ屋さんを探していると、ちょうど良いところにパスタ屋さんを発見した。そのお店は幸い、結構空いており、すぐに入れそうな感じだった。

そこでお店の扉を開けて中に入ると、店員さんがこちらに来てくれた。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

「はい」

「では、もし差し支えなければカウンター席をご案内してもよろしいでしょうか」

「あ、はい。大丈夫です」


そう言うと、僕はカウンター席に案内された。僕が案内されたのはカウンターの一番端の席で、隣には既に人が座っていた。


僕は少し緊張しながらも、席に座り、店員さんに渡されたメニューを見た。

メニューをめくると、どれも美味しそうな料理ばかりが目に映った。トマトソースのパスタも美味しそうだし、チーズクリームパスタも美味しそうだ。どっちにしよう。

迷うけどここはチーズクリームパスタしよう。そう決めて僕は近くの店員さんを呼び止めようと手を上げた。

しかし店員さんは僕に気づく様子がなかったので、慌てて声をかけた。


「す、すみません」


しかし僕の声が小さかったようで結局気づかれずにスルーされてしまった。あ…


それからも何回か声をかけようとしたのだが、店員さんは他の卓に行ってしまったり、気づかれずにスルーされたりしてなかなか気づいて貰えなかった。あ、どうしよう。もっと大きな声で言った方がいいのかな?でも、少し恥ずかしいし…いや、でも、そうしないと気づいて貰えないよな…


僕が困っていると、隣の人が「すみません」と言って店員さんを呼んだのが聞こえた。店員さんもそれに気づいてこちらへとやって来た。

よし、隣の人が注文し終わった後、僕も声をかけて注文しよう。そうしよう。そう思ってドキドキと隣をじっと見ていると、店員さんが隣の人に注文を聞き始めた。


「ご注文はどうされますか?」

「私ではなく、そちらの方が注文をしようと呼んでいたみたいでしたので」


そう隣の人に視線を向けられて驚いた。僕のために呼んでくれたんだ。

店員さんは僕の方を見て申し訳なさそうに眉を下げた。


「そうでしたか。申し訳ありません。ご注文は如何されますか」


そう言われて僕は慌ててチーズクリームパスタの写真を指差した。


「あの、これで…」

「はい。チーズクリームパスタですね。以上でよろしいですか?」

「あ…はい」


店員さんが去ってから僕は隣の人に改めてお礼を言おうと隣を見ると、隣の人はとても美形な人だった。

短髪の赤髪に、少し吊り上がり気味の切長の目、彫りの深い顔立ちをしており、寡黙でクールな印象を受けた。

僕はその人に少し魅入ってしまったが、ハッと我に帰り、慌ててお礼を言った。


「あの、ありがとうございます」


僕がそう言うと、彼は僕をチラリと見て、軽く頷いた。

あ、話しかけるのは迷惑だったかな…隣の人のそっけない対応に少し気まずくなった僕は、それを誤魔化すようにチビチビと水を飲んだ。


「…その制服、騎士団に勤めていらっしゃるんですか?」


いきなり隣から声が飛んできて僕は肩をビクッとさせ、思わず水を飲むのをやめて、隣を見た。


「…あ、ぼ、僕ですか?」

「はい」


男性は眉一つ動かさず、こちらをじっと見つめて頷いた。


「あ…えっと、そうです。僕、一応騎士です」


吃りながらもそう言うと、男性は軽く頷いた。


「そうですか」

「あ、はい」

「……」


あ、会話が終わってしまった…。気まずい…どうしよう。と、とりあえず水飲んで誤魔化そう…。そうして僕は再び水の入ったグラスを持ってチビチビ飲んだ。


「…実は私の弟も騎士団に勤めているんです」


その言葉を聞いて、僕は慌てて視線を上げ、男性を見た。


「あ!そ、そうなんですね…」

「はい」

「……」


あ、また会話が終わってしまった…どうしよう。そ、そうだ。僕からも何か話題を振らないと!


「え、えーと、その、弟さんと仲良いんですか?」


すると男性の顔が曇った。え、どうしたんだ?触れられたくなかったのかな。やばい、どうしよう…えーとえーと


「…弟はあまり私のことが好きではないみたいで…」

「へ?あ、そ、そうですか」

「はい」


やばい。また沈黙が起きてしまった…なんか今度はさっきよりも重い空気になってる気がする…僕のせいだよな。僕がデリカシー無いこと聞いちゃったから、変な空気になっちゃったんだ…

僕が内心焦っていると、男性がおもむろに口を開いた。


「…私は弟のことは好きですし、仲良くしたいと思ってるんですが、どうしていいかわからなくて…」

「な、なるほど…」


僕はなんと声をかけていいかわからず、曖昧な返事をすると、男性は申し訳なさそうに眉を下げた。


「…すみません。初対面でこんな話をしてしまって。リアクションに困りますよね」

「えっ、い、いえ、そんな…」


僕がキョロキョロと視線をうろうろさせていると、男性は静かに口を開いた。


「…自己紹介がまだでしたね。私はイアンといいます」

「あ、僕はレイです」

「レイさん、ですね」

「はい」

「……」


あ、また会話が終わった。僕はなんとかしないとと考える。


「あの、弟さんのことなんですけど、えっと、なんで弟さんはイアンさんを好きじゃないんでしょうか」

「…それは、弟は私のせいで辛い目にあったからです。それで私のことが嫌いなんだと思います」


それはどういうことだろう?


「あの、辛い目って?」

「…私も実は騎士なのですが」

「え?騎士なんですか?騎士団で働いてるんですか?」

「いえ、私は王族の護衛騎士をしています」

「護衛騎士?!」


僕は驚きで少し声を上げた。

護衛騎士って言えば、とても優秀な人しかなれないエリート中のエリートじゃないか。この人、そんなにすごい人だったんだ…

目の前の彼は薄手の黒いセーターに黒いパンツというラフな私服姿だったので、まさか護衛騎士だなんて思わなかった…


「ええ、と言っても、最近、体調を崩しまして、休暇中ですが」

「あっ、そうなんですね…えっと、体調は大丈夫ですか?」

「ええ。今はもう完治しています」

「あ、なるほど」


…確か、ヴィンスさんとのフィル君が王族に呼び出されたのも、護衛騎士の間で感染症が流行って、人手不足だからだと言っていた。この人がその一人だったのか…


「それで、私と弟は小さい頃から何かと比較されてきて…弟は辛い思いをしていたみたいです…」


確かに…護衛騎士になるほど優秀な人を兄に持ったら、弟さんはさぞかし大変だっただろうな…


「それで、私が気づいた頃には、目を合わせてくれなくなり、話しかけてくれなくなり、私から話しかけても最低限しか返してくれなくなりました…」


そう言ってイアンさんは目を伏せてしまった。

ちょうどその時、僕の前にチーズクリームパスタが到着した。


僕はとりあえずお腹が空いていたのでパスタを食べた。そして摂取した糖分をフル活用させて考える。イアンさんが弟さんと仲良くなるにはどうしたらいいのだろうか。でも、考えても考えても、わかることは、僕が食べてるパスタがとても美味しいことくらいしか無い。いやいや、ダメだ。今はイアンさんのことに集中しないと!

…イアンさんが仲良くなるために、何をすればいいんだろうか。あまりいいアイデアが思いつかない…

…じゃあ、僕自身が人と仲良くなるためにやってることはなんだろう?あ…でも、そういえば僕、仲良い人ってヴィンスさんとフィル君くらいしかいないな…。

フィル君は良い人だから、僕なんかとも仲良くしてくれて、ヴィンスさんも優しくてかっこよくて良い人だから、こんな僕と仲良くしてくれる。ってことはヴィンスさんとフィル君が優しいから、僕は仲良くして貰ってるんだな…。

いやいや違う!確かに二人は良い人だけど、それじゃあイアンさんの悩みを解決できない…

そう思って必死に考えると、一つだけアイデアが思いついた。


「あ、じゃあ、美味しいものを一緒に食べに行くとか」

「美味しいもの…」

「そ、そうです。えっと僕も仲良くしてくれてる人が二人いるんですけど、よく食事を食べに行きます。それで美味しいものを食べると楽しい気持ちになるし、会話も弾みます。だから、普段は上手く喋れなくても美味しいものを食べれば打ち解けられるかもしれません」

「…確かに。弟と二人で外食をすることは無かったので、今度誘ってみようと思います」


イアンさんはそう言って微かに口角を上げた。なんだか嬉しそうだ。本当に弟さんのことが好きなんだな…


「レイさん、初対面なのに親身に相談に乗っていただいてありがとうございます」


そう言ってイアンさんは頭を下げた。


「い、いえいえ!僕はそんな大したことはしてません」

「いえ。本当にどう接していいか分からなかったので、助かりました」

「それはよかったです」


うん。なんかよく分からないけど、イアンさんの悩みが解決してよかった。


「それで、もう一つ相談なのですが、その、弟と食事に行くお店のおすすめとかはありますか?」

「おすすめですか?」

「はい。実は弟はレイさんと同じくらいの年代で、私とは少し離れてるんです。なのであなたたちくらいの年齢の人が喜びそうなお店を教えていただけると嬉しいのですが」

「そうですね…少し考えさせてください」


これは責任重大だ。イアンさんと弟さんを仲良くさせるためにはとても美味しい料理が必須だ。中途半端なお店は紹介できない。僕が行ったお店で一番美味しかったお店はどこだろう。

…あ、あそこだ。ヴィンスさんに連れて行って貰ったチーズ料理のお店!あそこ名前なんだっけ?…思い出せない。でも絶対あそこがいいと思う。ヴィンスさんに聞いてみようかな…


「あの、チーズ料理のとても美味しいお店があるんですが、ちょっと名前を覚えてなくて…一緒に行った人に電話で聞いてみてもいいですか?」

「え?…そこまでしていただかなくても…」

「いえいえ!僕もイアンさんと弟さんが仲良くなって欲しいんです」


イアンさんはさっき僕を助けてくれたし、僕みたいなコミュ障と辛抱強く会話してくれた優しい人だ。だから少しでも力になりたいと思った。


「…でしたら、お願いします」


少し申し訳なさそうな表情のイアンさんを横目に僕は携帯でヴィンスさんに電話をかけた。

0コールでヴィンスさんに繋がった。え?早いな…


『レイ?どうしたの?何かあった?』

「え、えっと、今日はヴィンスさんに聞きたいことがあって…その、今大丈夫ですか?」


いつもはあまり電話をしないので、ヴィンスさんが相手とはいえ少し緊張してしまう。


『うん。大丈夫。聞きたいことって何?』

「あ、ありがとうございます。えっと、あの…前に行ったチーズ料理のお店があったと思うんですけど、そこの名前って覚えてますか?」

『一週間くらい前に行ったやつだよね?』

「はい。それです」

『確かアベリアだったと思う』

「アベリアですね。わかりました」


そうして僕は携帯から少し顔を離し、隣のイアンさんに伝える。


「アベリアってお店らしいです」

「ああ、そうか。ありがとう」


そうして僕は再び携帯を耳に当てた。するとヴィンスさんの訝しむような声がする。


『…今、誰かと一緒にいるの?』

「あ、はい」

『なんで?』

「あ、今日、僕、一人で外でご飯食べてたんですけど、それでたまたま隣の人が良くしてくれて…」

『どこ?』

「え?」

『今どこにいるの?』


なんだかヴィンスさんの声が少し焦っているような…気のせいかな?


「え、えーと、王都のロザールってお店です」

『今から行く』

「え?今から来るんですか?」


え、今から?いきなりすぎないかな?あ、もしかしてヴィンスさんもお腹が空いてパスタを食べたい気分なのかな?


『うん。待ってて』

「あ、はい。あ、えっと何か食べたいものとかありますか?良かったらヴィンスさんが来るまでに頼んでおきます」

『…お腹は空いてないから大丈夫』


え?お腹空いてないのに、なんでここに来るんだろう。ヴィンスさんって優しいけど変わった人だな…


「あ、そうですか?じゃあ気をつけて来て下さいね」

『うん』


そう言って通話は終了した。


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