46 ※アラン
アランは夕方の仕事終わりに、王都の繁華街である人物を待っていた。繁華街は仕事帰りに飲みに来る人で少し混雑しており、アランは人混みを避けるために道路の端の方に移動した。チラリと時計を見ると、あと五分で待ち合わせの時間になるというところで、目的の人物が遠くから手を振っているのが見えた。アランも手を振り返し、相手が来るのを待った。
「ごめん。お待たせ。アランさん」
息を切らせてやって来たのは、輝かんばかりの金髪に透き通るように白い肌、キュルンとした大きな瞳を持つ、美少年フィルだ。
こいつ、いつ見ても、見た目は天使なんだよなあ。まあ、中身は意外とサバサバ系だけどな
そんなことを思いながら俺は口を開いた。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
そうして俺たちは目的の居酒屋に向かった。
居酒屋の前は仕事帰りの客で混雑していたが、俺たちは事前に予約していたおかげか、すんなりと席に通してもらうことができた。
二人用のテーブルに座り、俺たちは早速メニューを広げた。
「フィル、何頼む?」
「うーん、じゃあ、僕はラム酒」
「じゃあ、俺はビールだな」
そうして俺たちはそれぞれの酒と適当なおつまみを何個か頼んた。
頼み終わった後、早速フィルが話し始めた。
「アランさんと飲みって意外と久々じゃない?」
「そうだな。ここ最近は団長が休暇取ったり、フィルがいなくなったりでプライベートどころじゃなかったからな」
「確かに…こんなにゆったりできるの久々だね」
「うん、俺、なんか感動してきたぞ」
そっか。そうだよな。俺、団長がいなくなってフィルもいなくなってから結構頑張ったよな…。一時期は過労死寸前まで行ったけど、なんとか生きてるし、俺って偉い!
少し涙ぐんでいると、フィルが変なものを見るような目を向けてきた。
「変なところで感動しないでよ」
「ああ、すまん。ちょっと過酷な日々を思い出してだな…」
「まあ、確かに気持ちはわかるけどさ。僕だってあの団長のせいで何度も死にかけたし」
「わかる。団長はたぶん俺たちのこと同じ人間だと認識してないもんな」
「そうそう。本当にストレス溜まるんだよね!」
フィルは大きく眉を寄せた。まあ、こいつが団長の一番の被害者だからな。…でも、その内のいくらかはフィルから団長に絡んでいって返り討ちにされてるだけな気もするけど…
「そういえば王族警護ってどんな感じなんだ?順調か」
「それがさあ!ほんっとにムカつくしストレス溜まるし殺意湧くし大変なんだよ!」
フィルは心底ムカついた様子で拳を握りしめていた。
「やっぱり団長絡みか?」
「それもあるし、もう一人厄介なのがいるんだよ。まあ、団長は団長で隙あらば僕に殺気を飛ばしてくるから、普通にストレス溜まるんだけど」
「フィルはレイ君の件で団長から目をつけられてるからな…」
「ふんっ、あいつにどんなにいびられたって僕はレイ君を諦める気は無いから。あんなサイコパスに僕の大事な友達を取られてたまるか!」
…なんか、フィルってそういうところあるよな。友達を守るためなら団長みたいに怖い人にも堂々と喧嘩売れるところとか…。見た目に反して普通に男らしくてかっこいいんだよな。
「で、もう一人の厄介なやつっていうのは王子様か?」
「そうそう!あいつもあいつで団長とは別のストレス溜まるんだよね。僕もう疲れちゃって…」
フィルは以前にも王族警護の任務を受けたことがあって、その時に第二王子であるランス様に酷く気に入られたらしい。俺からすると王族に気に入られるなんて喜ばしいことだと思うが、フィルからするとそうでもないらしく、迷惑がっていた。
「どんな感じなんだ?」
気になって聞いてみると、途端にフィルはげんなりとした顔になった。
「まあ、四六時中、構ってくんの。ダル絡みってやつ?僕のことおちょくってきたり、一方的にペラペラ話されたり、唐突にわがまま言われて振り回されたり、本当に疲れる…」
こいつはこいつで大変なんだな…団長からは殺気を向けられ、王子様からは振り回され、こんな天使みたいな見た目してるのに、変な奴らに目つけられてフィルって結構不憫だよな…
そうこうしているうちに、俺たちのもとに酒といくつかのおつまみが到着した。
「じゃあ、アランさん乾杯しよう」
「そうだな」
「「乾杯」」
グラスを軽く当てて、俺たちは酒を味わった。
「うん!ここのラム酒はやっぱり美味しい!」
「ビールもよく冷えてる。うまい!」
そうして俺達は卓上のつまみをちょびちょびと食べながら、会話を再開させた。




