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エミールさんは一番前の台の前に立ったところで、ちょうど始業の鐘が鳴った。
「では、早速、一週間限定の特別課と治安維持室合同チームを始めたいと思います。私はこの一週間、合同チームの長として指揮を取るエミールです。よろしく」
エミールさんはホール内を軽く見渡して言う。
「では、まずは自己紹介をしましょうか。治安維持室と特別課の合同チームは初めての試みですから、知らない顔もちらほらあるでしょう。お互いの顔と名前を覚えるためにも軽く自己紹介をして下さい」
そこから特別課と治安維持室の面々が一人ずつ自己紹介していった。
治安維持室からきた面々のほとんどは前にいた時に面識があった人で、改めて自己紹介を聞いて僕はなんだか懐かしい気持ちになった。
そしてしばらくして僕の番が回ってきた。僕は大いに緊張して、声が震えてしまったが、名前と所属を言うだけの簡素なものだったので、無事に自己紹介を終えることができた。
そうして全員の自己紹介が終わり、エミールさんが再び口を開いた。
「では、この三十名で協力して特別課の仕事を分担していくわけですが、あなた方の力量と私の考えをもとに数人のチームを作りました。そのチームで私の振る仕事をこなしていく方針でお願いします」
そう言ってエミールさんは組み分けを発表した。どんどん発表されていく中、僕の名前は呼ばれなかった。
そして、最後にようやく僕の名前が呼ばれた。
「では最後にアランさんにレイ君、そしてアーサー、この三人で任務をこなしてください」
「え…」
僕とアーサー君が同じチーム…そんなの上手く行くわけない…アーサー君は僕のことをすごく嫌っているし、僕もアーサー君を怒らせてしまう自信しかない。え?本当にこのチームで行くのか…
「エミール室長、なんで俺がこいつと組まなきゃいけないんですか」
アーサー君は立ち上がり、前にいるエミールさんに抗議した。
「様々なことを考慮した結果です。何か不満でも?」
「…こんなやつと組むのは嫌なんですけど」
そう言ってアーサー君は僕に嫌悪の視線を向けた。
「それは私情ですか?」
「…まあ」
「では却下です」
エミールさんに冷たくそう言われたアーサー君は不満そうに舌打ちをして、乱暴に腰を下ろした。
「では、これから呼ぶ代表者に、今日の分の依頼書を配りますので解決してきてください」
そう言ってエミールさんは台の上に山積みになっている依頼書の束から、数枚ずつを各代表者に渡していった。そして最後にアランさんが呼ばれ、アランさんは前でエミールさんから依頼書の束を受け取った。その際にアランさんはエミールさんと何か言葉を交わしており、何回か軽く頷いていた。
そうして会議は解散し、僕たち二人はアランさんの席の前に集まった。
「レイ君にアーサー君、改めてよろしくな」
アランさんの爽やかな挨拶に、僕も慌てて口を開いた。
「よっ、よろしくお願いします」
「…よろしくお願いします」
アーサー君も不服そうにしながらも律儀に頭を下げていた。
そして早速受け取った依頼を確認すると、どれも犯罪組織の壊滅依頼や魔物の退治など、危険そうなものばかりだった。
「まあ、うちは若手三人組ってことで、依頼の中でも一番簡単なやつを回してくれたらしい。これくらいなら、そんなにハードワークにならなくてすみそうだな!ラッキー」
アランさんは嬉しそうに笑っていた。
え?これで簡単?特別課ってどうなってるんだ?普通、こういう仕事って、もっと沢山の騎士達と連携して、期間を設けてやっていくものなんじゃないのかな?こんな近所に買い物行くみたいな軽い感じで大丈夫なのかな?
「そんなに心配しなくたって大丈夫さ!俺もいるんだし、これくらいなら死ぬことはないさ!」
不安そうにしている僕に、アランさんは明るく声をかけてくれた。
…確かに、アランさんもアーサー君もいるし、大丈夫なのかもしれない。僕はこの二人の足を引っ張らないことだけを考えて頑張ろう。
そうして僕たちは、まず犯罪組織を壊滅させに行くことになった。




