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それから、総督は僕に視線を向けた。
「ああ、あと、レイ君」
「は、はい!」
いきなり話しかけられて、少し緊張気味に返事をした。
「エミールから聞いたんだが、君は最近魔法銃を使えるようになったらしいね?」
「あ、はい」
「じゃあ、ヴィンセントたちがいない間、当分市民相談室ではなく、ここに残って特別課のメンバーと共に仕事をこなして欲しい」
いきなりの提案に僕は驚いた。
「え?で、でも、僕の部署は市民相談室じゃ…」
「まあ、そうなんだが、ヴィンセントとフィル君がいないとなると、少しでも戦力が欲しいんだ。それに、君は元々治安維持室にいたらしいじゃないか。異動の原因となったトラウマも治ったようだし、エミールも君のことを高く評価していた。できれば君も貴重な戦力としてここに残って貰えると助かる」
「それはダメ」
話を遮るようにヴィンスさんが口を開いた。
「お前に言ってないだろう。私はレイ君に頼んでるのだが?」
「ダメ。レイは可愛いんだから、そんな危険な仕事はしちゃダメ」
「レイ君、こいつのことは無視していい。お願いできないかね?」
「え…」
てっきりヴィンスさんがいない間は市民相談室に戻るのかと思っていたので、僕は困惑していた。
トラウマを克服したと言っても、最近は市民相談室で軽い魔法を使う依頼しかこなしていなかったから、魔法銃を上手く扱える自信はないし、そもそも、こんなエリート部署の役に立てる実力も持ち合わせていない。僕なんているだけでお荷物になるだけだ。
「レイ、そんなの受けなくていいよ」
ヴィンスさんは不安そうな顔をしているであろう僕に心配そうな視線を向けてくれた。
…そうだよな。ヴィンスさんもそう言ってるし、やっぱり断ろう。僕みたいな大して実力もないやつが、中途半端に手伝ったりしたら、逆に足を引っ張って迷惑をかけるだけだ。
「あの、僕の実力は、たいしたことないですし、皆さんの足を引っ張るだけだと思うので…」
「そんなことない。エミールも君のことを高く評価していたよ。トラウマを克服できた君をもう一度治安維持室に欲しいと私に言っていたくらいだ」
「え?」
そんなこと言ってくれてたんだ。僕なんて配属早々、任務に失敗して銃が撃てなくなって、迷惑しかかけてなかったのに…なんでだろう?
「エミールがあれほど人を褒めるのも珍しいからね。きっと君は優秀な騎士だったんだろう」
え、そうだったんだ…
…なんだか、とても嬉しい。治安維持室から市民相談室に異動になってからは、褒められることは殆どなくて、軽蔑されるか笑われるかが大半だったので、僕みたいな人間を良く言ってくれるエミールさんはすごくいい人だ。
「だから、なんとか頼めないかね?困っている私を助けるつもりで」
こんな僕で役に立てるのなら、やってみてもいいかもしれない。市民相談室の仕事はやりがいはあるが、正直、今の仕事量なら、少しの間僕がいなくても問題はないだろう。ならば、人手不足のところに行って働く方が騎士団のためになるのかもしれない。それに、褒めてくれたエミールさんの期待にも応えたい。
「はい。やろうと思います」
「ありがとう!」
総督は僕の目の前まで来て、満面の笑みで僕と無理矢理握手を交わし「じゃあそういうことだから」と言って足早に部屋を去った。




