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それから僕はヴィンスさんと共にデスクへと戻った。デスクには右隣にヴィンスさんが座り、左隣にはフィル君が座った。
「ねぇ、レイの隣に座らないで」
「フリーアドレスなのに、なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないんだよ!」
「レイが汚れるから」
「はあ?!お前の隣の方が汚れるよ!」
また僕を挟んで言い争いを始めてしまった。どうしよう、早く止めないと…
「ふ、二人とも仕事しましょう!」
そう言うと、二人は不服そうにしつつも黙った。
そしてヴィンスさんは立ち上がり、僕たちから離れたところに固まって立っていた人々のもとへと行った。
「溜まってる仕事ってどれ?」
「へ?」
聞かれたのはメガネの人で、ヴィンスさんにいきなり話しかけられて、一瞬固まったが、慌てて動き出し、デスクの上に積んであった大量の紙の束を差し出した。
「こ、これであります!!」
ヴィンスさんはそれを受け取って再び僕のデスクに戻ってきた。パラパラと一枚一枚めくっていき、何枚かずつに整理し始めた。そして紙を数枚持って再び立ち上がり、立ってる人たちのもとへと行った。
「お前はこれ、お前はこれ、お前はこれ」
そう言って数枚ずつ紙を配っていく。
「それぞれに渡した依頼書、今日全部解決してきて。できなかったら、明日殺すから」
「え?ちょ、ちょっと!団長?!これ、まさか一人で?」
「団長!!流石に無理ですって」
特別課の人たちの悲鳴にもヴィンスさんは聞き耳を持たない。
「死にたくなかったら、死ぬ気でやって。じゃあ、いってらっしゃい」
ヴィンスさんは「空間移動」と言って、魔法陣を発動させ、全員を転移させてしまった。
そしてヴィンスさんは再びデスクに戻ってきて、フィル君のもとにも紙を持って行く。
「お前はこれ」
フィル君は明らかに他の人よりも厚い紙の束に、青筋を立てた。
「おかしいだろ!なんで僕だけこんなに多いんだよ!!」
「昼休みまでに終わらせなきゃ殺すから」
「はああ?!!昼休みって、今九時だよ?!三時間で終わるわけないじゃないか!」
「だったら死ね。レイを待たせたら承知しないから」
「ちょ!おい!」
フィル君が文句を言う暇もなく「空間移動」という言葉によって消えた。
そうして部屋には僕とヴィンスさん以外誰もいなくなった。
あまりの突然の出来事に、口を開けてぽかんとしている僕にヴィンスさんは言う。
「レイ、僕もこれ全部片付けてくる。定時までには終わらせるから待っててくれる?」
ヴィンスさんはデスクの上に置いてあった、フィル君よりも十倍くらい分厚い量の依頼書の束を指さしてそう言った。
「え?それ全部ですか?」
「うん。まとめてやる方が効率いいでしょ?」
「あ、…はい。あの、頑張ってください」
「うん。じゃあ行ってくるね」
「はい。気をつけて」
そうしてヴィンスさんは消えた。
僕は一人部屋に残され、やることもないので、とりあえず掃除をして過ごした。
そして磨きすぎてピカピカになったデスクを満足げにみていると、特別課の扉がバンッと開く音がした。
「はぁはぁ、よしっ、間に合った」
扉の方を見ると、息を切らしたフィル君がいた。
「レイ君、お昼行こう!!」
その瞬間、昼休みを告げる鐘が鳴った。




