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レイの弾丸  作者: ぷぷ
2章
34/63

34

翌日から早速、僕たちは特別課のある別棟へと足を運んだ。


別棟とは、騎士団校舎の隣に数年前に新たに建てられた建物のことで、特別課や総督室などが入っている建物のことだ。


僕は別棟には初めて足を踏み入れたのだが、別棟は僕の働いている本館よりも人が少なく閑散とした感じだった。しかし施設自体は本館よりも高級感があり、綺麗な建物だった。全体的に白を基調としている空間に、吹き抜けの天井、大理石の床、そして天井や窓は所々にステンドグラスが組み込まれ、何本か立派な柱が立っている。まるで大聖堂のような建物だ。

本館よりも圧倒的に神聖な雰囲気が漂う別棟の雰囲気に、僕は少し気後れしながらも、ヴィンスさんに案内されて、特別課と書かれた扉の前までたどり着いた。


ここがヴィンスさんの職場で、騎士団の天才たちが集まる部署か…どんな感じなんだろう…


僕はドキドキしながらその扉を開けると、中はどんよりとした重々しい…否、禍々しい雰囲気に包まれていた。


部署自体は開放的で、部屋の奥には執務スペースであろう長く広い机とゆったりとした椅子が置かれており、そこに二人の男女が背を丸めて座っていた。しかしその二人は、どちらも死んだ魚のような目をしていた。また、部屋の手前側には人一人が寝そべることができるほど大きく、立派なソファーが置かれていたのだが、そこには一人死んだように眠っている人がいた。

また、ソファーではなく、大理石の床にへばりつくように倒れている人が一人、立ったまま白目を剥いて気絶している人が一人いた。


僕はその壮絶な光景に思考停止して固まった。


「え」


辛うじて一文字だけ絞りだせたが、何が何やらわからない。


え?ここって、確か騎士団だよね?特別課だよね?え?みんなが憧れるエリートたちの集まりだよね?え?なんでこんな地獄が広がってるんだ??


僕は助けを求めてヴィンスさんを見ると、ヴィンスさんは優しく笑ってくれた。ああ、美しい…


そして再び、部屋の中に目を向けると、僕たちに気付いたのか、机で作業していた二人がこちらを向いたのがわかる。僕はその二人に見覚えがあった。…確か前にヴィンスさんとフィル君が喧嘩してたときに、フィル君と一緒にいた人たちじゃないか?名前は、マリーさんとロベールさんだった気がする。僕は、とりあえず、その人たちに会釈したが、その人たちは僕の方を向いたまま、極限まで目を見開き、石像のように固まっていた。


「え?団長?」

「は?団長?」


次の瞬間、二人は僕たちのもとに急いで駆け寄ってきた。


「団長!!がえっでぎでぐれたんですねぇぇ゛」

「だんちょー゛よかっだああああ゛ぐずっ、これで地獄がら開放ざれるぅぅぅ゛わだじ、うれじぃぃぃ」


二人とも号泣して、ヴィンスさんに感謝の意を述べていた。

その二人の号泣ぶりに、ソファーや床で倒れていた人も全員目を覚まし、ヴィンスさんを見た瞬間、思考停止したように目を見開き、次の瞬間には号泣しながらヴィンスさんのもとへと駆け寄ってきた。


「団長がもどってぎだぁぁぁ」

「団長みて嬉しがっだの初めてぇぇ゛よかっだでずぅぅ」

「だんぢょうぅ゛俺死ぬかどおもいまぢだぁぁぁ」


この中にも見覚えのある人がいた。例のフィルくんとの件でマリーさんとロベールさんと一緒にいた爽やかな人だ。名前は確かアランさんだった気がする。あと二人は、どちらも30代後半くらいで、メガネをかけた痩せた男の人と無性髭をポツポツと生やした体格の良い人だった。どちらもやつれているが、とても整った顔立ちをしていた。しかしそんな年上の人でさえ、ヴィンスさんを見て号泣する姿を見て、やっぱりヴィンスさんってすごく頼りにされていたんだなと実感した。


しかし当のヴィンスさんはそんな人たちを見て、不愉快そうに眉を寄せていた。


「お前たち邪魔。どいて」


氷のように冷たい声で発せられた言葉を聞いて、群がっていた人たちは、嬉しそうな顔から一転、怯えたようにヴィンスさんから距離をとった。


「あ、あの、ヴィンスさん?」


また怖いオーラが出ているヴィンスさんが心配になって、僕が声をかけると、ヴィンスさんは優しい微笑みを向けてくれた。

あ、大丈夫そうだ。よかった…


「レイ、こっち」


ヴィンスさんは特別課の人たちには声もかけずに、僕を連れてデスクまで行った。


「ここ、フリーアドレスだから、どこに座っても大丈夫」

「あ、はい」

「でも座る時は僕と隣ね?これは絶対」

「あ、はい」


そうして僕たちは隣同士で座った。しかしそんな僕たちを見て皆んな固まったように動かなかった。全員、扉付近から僕たちのことを驚いたように凝視している。


「な、なあ、マイケル、これって現実か?団長が人間と楽しそうに話してるぞ?」

「そう、ですね。ジャンくん…これって、もしかして集団幻覚なんじゃ…」


戸惑う年長組にマリーさんたちは何やら話している。


「いえ、たぶん現実です。私あの子に会ったことありますけど、その時も団長と楽しそうに話してたましたわ。ね?ロベール、アラン」

「うん。あの時の子だよね?フィルが暴走したやつ」

「ああ、確かフィルの友達だったか?」


僕は特別課の皆さんからの視線を痛いほど感じた。やっぱり挨拶とかした方がいいよな…


「あの、ヴィンスさん、僕皆さんに挨拶した方がいいですよね?」

「ううん。しなくていいよ」

「え?」

「しなくていい」

「あ、そう、ですか」

「うん」


ヴィンスさんがしなくていいと言うならたぶんしなくていいのかも…。確かに、特別課は今とても忙しいらしいし、僕なんかの挨拶で時間を取るのも申し訳ないな…

ならば、早めに何か仕事をしないと!


「あの、僕は何すればいいですか?」

「何もしなくていいよ」

「え?」

「何もしなくて大丈夫」

「え?…はい」


あ、確かに…。僕なんかが特別課なんて来ても何もできることなんかないよな…足手まといになるくらいなら、何もしない方がいいってことだよな…


「…レイ、どうしたの?」


心配そうにそう言われて僕は顔を上げた。


「あ、いえ…なんでもありません。えっと僕、ここに来ても、何もできることありませんけど、せめて邪魔にならないように頑張ります」


必死にそう言うと、ヴィンスさんは不思議そうに首を傾げた。


「邪魔じゃないよ?」

「え?」

「邪魔じゃない。レイは可愛いからいてくれるだけで嬉しいよ」

「え、あ…はい」


僕が頷くと、ヴィンスさんは僕の頭をポンポンしてくれた。あ、かっこいい。やっぱりヴィンスさんは天使だ。こんな僕にも優しくしてくれるなんて…


「あの、お気遣いありがとうございます。僕頑張ります!」


感激してそう言うと、ヴィンスさんは優しく笑ってくれた。


「頑張らなくていいけどありがとう」


そしてそんな僕たちを遠目から特別課のメンバーが顔を引き攣らせながら凝視していたのだった。


「なんだ、あの甘い雰囲気は?本当に団長か?幻覚とかじゃないのか?」

「…信じられません。団長が笑ったところなんて初めて見ましたよ。あの人笑えたんですね…」

「あんな甘い団長なんて気持ち悪すぎて寒気がしてきたわ」

「僕は吐きそうになってきた。気色悪すぎる」

「俺は眩暈がしてきた。やっぱり幻覚かな?」


するとその時、特別課の扉が勢いよくバンっと開く音がした。


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