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二人残された部屋で僕は何と声をかけていいか分からず、しばらく沈黙が続いた。
「レイ、ごめんね」
「え?」
僕が思わず顔を上げると、そこには困ったように眉を下げたヴィンスさんがいた。
「僕が色々困らせてごめん」
「い、いやいや!僕は…その、すごく嬉しかったです。ヴィンスさんが異動してきてくれてから、とても楽しくて…だから本当はずっと一緒にいたいです…でもヴィンスさんはすごい人だから、ここにいるのは勿体無いとも思って…」
僕の拙い言葉もヴィンスさんは真剣に聞いてくれた。
「レイは本当は僕と一緒にいたい?」
「それは、もちろん」
僕がそう言うとヴィンスさんは少し考えて頷いた。
「じゃあ、レイも特別課にくればいいんじゃない?」
「え?」
「そしたら、ずっと一緒」
「え?…いや、でも、僕なんかが特別課に行けるはずないです」
「総督に聞いてみるね」
そうしてヴィンスさんは携帯を取り出し、電話をかけ始めた。
「総督、やっぱり僕レイと一緒じゃないと嫌なんだけど」
そう言うと、携帯の中から何やら怒鳴り声が飛んできたのがわかる。
「わかってるよ。特別課には行く。でもレイも一緒じゃないと嫌だから、レイも特別課に行ってもいいよね?」
すると何やら話している声が微かに聞こえ、ヴィンスさんは頷いた。
「うん。大丈夫。あと異動じゃなくて兼任にして。とりあえず最初の一週間は溜まった仕事を処理するために特別課に専念するけど、それが終わってからは週に何回かしか行かないから。あと残業はしない。それでもいい?」
するとまだ怒鳴り声が聞こえてきた。
「つべこべ言うなら辞めるよ?」
その瞬間、携帯の向こう側が静かになった。
「ああ、うん。わかった」
そうしてヴィンスさんは携帯を切った。
そしてぽかんとしている隣の僕に微笑みかけた。
「レイも特別課に行っていいって」
「…あ、なるほど」
…特別課ってエリートしか入れない、本当にすごい部署だけど、こんな軽い感じで行ってもいいのかな?…でも、総督がいいって言ったんだから、まあ、いいんだろう。僕は無理やり納得してヴィンスさんに頭を下げた。
「あの、よろしくお願いします」
「うん」
そうして僕とヴィンスさんは特別課と市民相談室を兼務することになった。




