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週末が明け、僕は騎士団へと出勤した。
いつもは週初めというと、週末との切り替えが上手くできずにテンションが低いのだが、今日はヴィンスさんに会えるということでウキウキとしていた。僕はヴィンスさんの休暇中の姿しか見たことがないけど、騎士団の制服を着たヴィンスさんもすごくかっこいいんだろうな。ああ、楽しみだ。
騎士団の門をくぐって自分の職場までの道を行く。しかし、なんだか今日は騒がしい。
僕の職場は騎士団校舎の三階の隅の部屋にあり、その辺りは僕の部署以外は何もない。故にいつもは、職場に近づくに連れて閑散としていき、人通りも少なくなる。なのに今日は逆だった。市民相談室へと近づけば近づくほど人が集まり、ざわざわとしていた。どうしたんだろう。
そして人混みを掻き分けながらなんとか職場の前にたどり着くと、この人混みの理由がわかった。
僕の職場である市民相談室の前に、白い制服を着たヴィンスさんが立っていたからだ。こんなに綺麗な人が立っていたら嫌でも目立つよな。そして周囲にいる人々もヴィンスさんに釘付けだった。
「ねえ!あの人すごく綺麗じゃない?」
「やばい!めっちゃイケメン!」
特に女性は目をハートにしている。そして男性も目を丸くしていた。
「おい、あんな美人、うちの騎士団にいたか?」
「俺は初めて見たぞ。フィル様以外にこんな綺麗な人がいるなんて…」
「でもなんで雑用部屋の前なんかにいるんだ?」
「そんなこと知らないよ。とにかくお前、名前聞いてこいよ」
「む、無理に決まってんだろ」
そんな感じで、みんなヴィンスさんに興味津々だった。しかし当のヴィンスさんは、周囲の様子を気にすることもなく涼しい顔だ。そして僕を見つけると手を振ってくれた。
ヴィンスさんの行動に、人々の視線が僕に集まるのを感じる。僕は戸惑いながらもヴィンスさんの方へと向かった。
「レイ。おはよう」
「おはようございます」
「レイに会うために待ってた」
そう言ってふわりと微笑むヴィンスさんは美しい。周囲の人たちもその微笑みにハッと息を呑んでいるのがわかる。
「ありがとうございます」
僕は嬉しくなってお礼を言った。特別課と市民相談室は位置的に結構離れている。にも関わらずわざわざ来てくれるなんてヴィンスさんは優しい。ああ、朝からヴィンスさんを見れて幸せだ。
あ、でも時間大丈夫かな?今日僕は準備に少し手間取ってしまって、寮を出るのが遅くなった。腕時計を見ると始業時間が迫っている。まだ五分くらいは時間があるが、特別課は僕の職場から随分離れている。始業に間に合うのだろうか。
「あの、ヴィンスさん」
「なに?」
「ええっと、時間大丈夫ですか?」
「うん」
僕の問いにヴィンスさんは涼しい顔で頷いた。
「あ、でも特別課は結構遠いし、もう行った方がいいんじゃ…」
「大丈夫。僕の職場はここだから」
そっか。大丈夫なのか。ヴィンスさんが大丈夫といえば大丈夫なのだろう。
ーーん?今なんて言った?
え?ここが職場?は?いやいや僕の聞き間違いかな?
「えーと、ヴィンスさん、今なんて?」
すると少し首を傾げたヴィンスさんがもう一度ゆっくり言った。
「大丈夫。僕の職場はここだから」
「え」
どういうことだ?え?ヴィンスさんの職場はここ?特別課の部署の場所が変わって、ここら辺になったってことかな?
「あ、特別課の場所って変わったんですか?」
「ううん」
え、どういうことだ。わからない。頭にはてなを浮かべる僕にヴィンスさんは言った。
「僕、特別課から市民相談室に異動になった」
サラリと述べられた事実に僕は驚愕した。
固まっている僕に、ヴィンスさんはまた僕が上手く聞き取れなかったのだと思ったようだ。再度ゆっくり言った。
「僕、特別課から市民相談室に異動になった」
は?イドウ?いどう?異動…
「ええええええええ!!!!」
あまりの衝撃に普段は出さないような叫び声が僕から出る。周囲で僕たちをじろじろと見ていた人々も何事かと眉を顰めた。しかし僕はそれどころではなかった。
「ヴィンスさん異動したんですか?!特別課から?市民相談室に!?」
「うん」
え、大丈夫なの?王国最強の騎士が雑用部屋に異動って。国力的に大打撃なんじゃないか?え?
「え、えーと、それはちゃんと正式な異動ですよね?」
「うん。総督がいいよって言ってくれた」
あ、そうなんだ。総督に許可貰ってるならいいのかな?
でもよく総督も許したな…
「総督はあっさり許可してくれたんですか?」
「最初はダメって言われた」
そりゃそうだ。僕が総督でもこんなに有能な人を市民相談室には絶対に異動させない。
「でも異動させてくれないなら騎士団辞めるって言ったら、泣きながら許可してくれたよ?」
あ、無理矢理か。総督を泣かせるって相当だな。まあでも許可が出たのなら僕がとやかく言うことじゃないか。僕もヴィンスさんと一緒に仕事ができるなら嬉しいし。
「レイ。これでずっと一緒」
そう言って嬉しそうに微笑むヴィンスさんを見て僕も嬉しくなった。
「はい!これからよろしくお願いします!」
そうして僕とヴィンスさんの騎士団生活が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もしかしたら続きを書くかもしれません。




