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フィル君一行が去った後、それまで一連の流れを静観し、気配を消していたエミールさんがこちらへと向かって来た。そしてアーサー君達に告げる。
「ほら。あなたたちも早く帰りなさい」
「…はい。室長」
アーサー君はエミールさんの指示に素直に頷いた。
「しかし一つだけ質問をいいですか」
「なんです?」
「レイ・ベルモントの隣にいるあいつは一体誰なんですか?」
「あぁ。あの方はヴィンセント・ブラウンです」
「は」
エミールさんはアーサー君の質問に素っ気なく答えた。しかしその言葉を聞いたアーサー君は目を大きく見開いて固まった。
「ほら、あなたたちも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。騎士団最強のヴィンセント騎士の名を」
「は?あいつが最強のヴィンセント?」
その言葉に信じられないと言う顔でアーサー君はヴィンスさんを見た。
「だからフィル君や他の特別課の人たちも団長と呼んでいたでしょう?」
エミールさんはまだ信じられない様子のアーサー君に言った。
「な、なんでそんな人が、レイ・ベルモントなんかと一緒にいるんだ?」
「私もそこまでは分かりません。ですが、ひとつ言えることはヴィンセント騎士とは関わらないことです。彼を止められるのは立場上、総督くらいですから。私では無理です」
そして驚きすぎて固まっているアーサー君達にエミールさんは再度言う。
「ほら。あなたたちはもう帰りなさい。夜も遅いですよ」
そして、ぎこちないながらもエミールさんに連れられてアーサー君達はその場を後にした。
「レイ。僕たちも帰ろう」
「あ、はい!」
ヴィンスさんに言われて、僕たちは歩き始めた。
本当にさっきはどうなることかと思ったけど、なんとか丸く収まってよかった。フィル君も許してくれたし、万事解決したんじゃないかな。めでたしめでたしだ。
そして僕たちは騎士団の寮まで向かった。
それにしてもヴィンスさんは夜なのに綺麗だ。朝から夜までこの完璧な美貌を維持できるってすごいな。そんなことを考えながらしばらく歩いていると寮が見えてきた。そんな中で僕はふと気になったことがあった。
「あの、ヴィンスさん」
「なに?」
「ヴィンスさんってどこに住んでるんですか?」
ヴィンスさんは僕を寮まで送ってくれるようだけど、ヴィンスさんの家はどこなんだろうと疑問に思った。もしかしてここから反対側とかじゃないよな?
「あそこ」
そしてヴィンスさんは騎士団寮の少し奥側にあるビルを指差した。
「えっ?!あそこ?」
「うん」
…まじか。ヴィンスさんが指差したのは高層マンションだった。そのマンションはすごく高級なことで有名で、僕も将来はあんなところに住めるといいななんて、寮から憧れて見ていたほどだ。まさか、あそこに住んでいる人に会えるなんて。やっぱりヴィンスさんはすごいな。
「僕、あそこのマンションに住むのに憧れてたんです!すごいです。ヴィンスさん!」
「そう?」
「はい!」
興奮気味に言う僕ヴィンスさんは目を細めた。
「じゃあ今度僕の家に来る?」
「えっ、いいんですか?」
「うん」
ヴィンスさんは優しく微笑んだ。やっぱりヴィンスさんは天使だ。あんなすごいマンションに僕を招いてくれるなんて…
そんなことを話しているうちに僕の寮の前までついた。
「レイ。今日はありがとう」
「いえ。僕の方こそ魔法銃のこととか、美味しいご飯をご馳走になったりとか、いろいろとありがとうございました」
「うん」
「あ!ヴィンスさんは来週から騎士団に復帰するってことは、またすぐ会えますね」
「うん」
「じゃあ、おやすみなさい。良い週末を」
「うん。またね」
「はい」
そして僕たちは別れた。
それにしても今日は濃すぎる一日だった。色々ありすぎてちょっと疲れたかも。今日はゆっくり寝て、週末はしっかり休もう。
僕は部屋に入り、真っ先にシャワーを浴びた。そして髪を乾かして、寝る準備をした。ベットに入る前に携帯を確認する。すると新着メッセージが一件きていた。なんだろうと思い、開いてみるとヴィンスさんからだった。
『レイ。おやすみ』
短い文面が表示される。
ヴィンスさんらしい。シンプルだけどとても嬉しい。
そこで僕も返信した。
『おやすみなさい。ヴィンスさん』
すると可愛いウサギのスタンプが送られてきた。ああ、可愛すぎる。眼福だ。
僕は幸せな気持ちで目を閉じた。




