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僕たちは途中で中断してしまった食事を再開すべくご飯屋さんを探して歩いていた。しかし、特に今日は、明日から週末で休みだということもあって、どこのお店もいっぱいだった。
あまり空いているお店が見つからない。
そして、いいお店が見つからないまましばらく歩いていると、大衆料理屋さんが並ぶ通りを抜けて、高級な料亭が並ぶ料亭街まで来てしまった。
ここの通りにあるお店はどこも、一食で僕の一ヶ月のお給料が殆ど無くなるくらいの値段はするだろう。
…流石にこの辺には僕が入れるようなお店はないな。ヴィンスさんに引き返そうと伝えよう。そう思った矢先にヴィンスさんが足を止めた。
「レイ」
「は、はい」
「あそこのお店入ろう」
ヴィンスさんが目線を向けた先は、この料亭街でも特に高級だと有名な東洋料理のお店だった。高額だからなのか混雑している様子はなく、お店の周りは落ち着いていた。
そして入ろうとするヴィンスさんに僕は慌てて言った。
「いや、ちょっと待ってください!あの、このお店は…」
「なに?」
「え、えっと、ちょっと僕には高すぎるっていうか…僕のお財布じゃ払えないです…。すみません」
このお店は高すぎて僕のお財布事情では無理だ。しかしその言葉にヴィンスさんは軽く首を傾げた。
「そう。じゃあ入ろう」
「え?…だから無理です。僕そんなにお金持ってないし…」
「大丈夫。僕が払うから」
そう言ってヴィンスさんはお店の中に入ろうとする。
「い、いやいや!ちょっと待ってください…」
「ん?」
いや、流石に一食で何万、…下手したら何十万もする料理を奢ってもらうなんて無理だ。ただでさえさっきのお店ではヴィンスさんが気づかぬうちに全て払ってくれていたし、前に行ったお店もヴィンスさんに貰ったお食事券で、実質ただでご馳走になったようなものだ。
「流石にこんなに高級なものを奢ってもらうのはヴィンスさんに申し訳ないです…」
「レイはこのお店は嫌?」
「嫌ではないですけど…。でもやっぱりこのお店はちょっと…」
せめてもっと安いお店がいい。そうすれば僕にだって払えるし変に気を張らずに食事ができそうだ。
「僕はレイと美味しいご飯が食べたい」
「…それは僕もですけど。…でもここは高すぎます」
「ここ美味しいよ?空いてるし」
「いや、でも…。せめてもう少し安めのところでも…。ちょっと待っても僕はいいですし…」
僕が少し遠慮がちに言うとヴィンスさんは少し悲しそうな顔をした。
え、なんで?
「レイは僕に奢られるのは嫌?」
「え、いや、嫌っていうか…申し訳ないです。その、お金は大切なものなので…」
その言葉にヴィンスさんはつぶらな瞳を向けた。
「僕はレイに奢りたい」
「え」
「レイに美味しいご飯食べて貰いたい」
「は、はあ」
「それにここは個室だし。レイとゆっくりできる。ぼく嬉しい」
ヴィンスさんはさらに眉を下げてじっと見つめてきた。
…ああ!なんて美しいんだろう。こんな風に見つめられて断れる人がこの世にいるのか?僕は無理だ。
「じゃ、じゃあヴィンスさんがそこまで言うなら…」
僕が苦渋の決断を下すと、ヴィンスさんは控えめに微笑んだ。
「ありがとう」
もう!ヴィンスさんが嬉しそうならなんでもいい!
もう何回思ったかわからない結論に至って僕は高級料亭に入るための心の準備をした。
そして僕たちは料亭に入った。料亭内は本当に高級なお店って感じで、落ち着いてはいるがとても品のある内装だ。そして中には上品な感じの店員さんが立っていて、ヴィンスさんを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になり、僕たちを出迎えくれた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
「予約してないけど空いてる?」
「はい。ヴィンセント様」
「じゃあおすすめのコースを出して」
「かしこまりました」
「料理の説明とかはいらないから」
「はい」
「近寄るのは最低限にして」
「かしこまりました」
ヴィンスさんは手慣れた感じで何やら店員さんと話していた。さっきもここの料理は美味しいって言ってたから、何度かここに来たことがあるのかな?この歳で高級料亭通いなんてやっぱり僕とは別次元の人だ。
そして店員さんは僕たちを個室まで案内してくれた。
個室の中はゆったりとした落ち着いた空間で、中には二人掛けの広いテーブルがあり、僕たちは向かい合って座った。




