18
「あああああ゛」
弾丸が命中した強盗は肩を撃ち抜かれた痛みに絶叫し倒れた。
そして腰を抜かす僕とは対照的にヴィンスさんの動きは素早かった。倒れた強盗のもとへと駆け寄りあっという間に取り押さえ拘束した。
そして強盗の悲鳴に慌てて奥から飛び出してきたもう一人に視線を向けた。
「絶対零度」
ヴィンスさんが口にすると強盗の足元に魔法陣が出現した。すると一瞬で強盗の全身が氷に包まれた。
…え、なに?
その光景に僕は驚愕した。だってヴィンスさんは何も魔法具を持っていなかった。今どうやって魔法を出した?
…え、もしかして魔法具なしで魔法を使えるのか?天才だ。初めて見た。魔法具を介さないで直接魔力変換できる人。そんな光景に見入っていると、ヴィンスさんが僕の方へと駆け寄って来た。
「レイ。まだ終わってないよ」
あ、そうだ。まだ終わってない。僕は慌てて立ち上がり、人質の人々のもとへと行った。そして縛られていた人々の縄を解いていく。人質の人はみな、僕たちに縄を解かれている間にお礼を言っていた。中には感極まって号泣する人もいた。それはそうだろう。さっきまで殺されるかもしれない恐怖にいたわけだから無理もない。
そして全員の縄を解き終わった後に、僕たちのことを黙っていてくれた店員さんが真っ先に駆け寄って来た。
「ううっ…本当にありがとうございます。私はあなた方が助けてくれると信じてました」
店員さんは感極まって号泣しながら頭を下げた。
「い、いえ…あなたが僕たちのことを上手く誤魔化してくれたからできたことです。あの場面で僕たちのことを黙っていることはとても怖かったはずです。勇気を出してくれてありがとうございます」
僕は逆に店員さんに頭を下げた。店員さんが黙っていてくれたおかげで僕は魔法銃を撃てたのだから、この事件が解決したのは店員さんのおかげだ。
「ううっ。ほんとうにほんっとうに感謝しています」
そして僕たちの様子をしばらく見守っていた支店長さんが、こちらへとやって来て、改まった様子で深く頭を下げた。
「騎士様、改めてお礼をさせて頂きます。助けていただいてありがとうございました」
「い、いえ…そんな、頭を上げてください。僕はただ魔法を放っただけで…」
僕が恐縮しているとそれにつられて他の人々も頭を下げる。
「いやいや、本当に助かった!」
「そうよ、あなたたちは命の恩人です!」
「殺されるかと思いましたあ、ううっ、ありがとうございます」
そして口々に感謝された後、僕は強盗たちを別室に移した。一人は右肩を負傷していたので、軽く手当てを施しておいた。もう一人はヴィンスさんによって全身が氷漬けになっていた。氷漬けってことは、早く術を解かないと死んでしまうのでは無いかと思ったが、ヴィンスさんによると命に別状は無いらしいので取り敢えずそのままにしておいた。
そしてその後、僕は一旦外に出て騎士団へと連絡をしたのちに、人質となっていた人々のもとへ戻った。
「皆さん、聞いてください。えっと、これから強盗を捕まえるために騎士団の方々が来ます。その際に皆さんにも事情を伺いたいということなので少しこの場に残っていただけますか」
その言葉に皆さんは快く頷いてくれた。
一通り後始末が終わるとあとは騎士団が来るまで待つだけだ。そしてヴィンスさんは僕が仕切るさまを隣で優しく見守り、時々アドバイスをしてくれた。その姿はとても頼もしく、こうして事が無事に収拾したのはヴィンスさんの助言があってこそだった。やっぱりヴィンスさんってすごい。それに魔法銃が撃てたのだってヴィンスさんのおかげだ。
「あの、ヴィンスさん。ありがとうございました。解決できたのはヴィンスさんのおかげです」
そう言うとヴィンスさんは穏やかに笑い、僕の頭を撫でた。
「ううん。これはレイの力だよ。僕は何もしてない」
「い、いえ。ほとんどヴィンスさんのおかげです」
そう言う僕にヴィンスさんは優しく言った。
「レイ、頑張ったね。君の頑張りで多くの人が救われた」
…そっか。僕が勇気を出して魔法銃を撃てたから、多くの人が救われたんだ。これも全てヴィンスさんが信じてくれたからだ。本当にヴィンスさんってすごい。
「ありがとうございます」
あ、でも僕は何か重要なことを忘れてるような…
「あ!ヴィンスさんって魔法具使わないで魔法出せたんですか?!」
そうだ。さっきもう一人を捕らえる時、すごい高度な魔法を口で詠唱しただけで出現させていた。
「うん」
えぇ!やっぱりそうだ。この人天才だ。魔法具なしで魔力変換できる人なんて初めて見た。一般的には魔力変換をするにはすごく高度な魔力操作が必要になるからできる人はほとんどいない。そこで魔法具に頼るのだ。でも稀に魔法具に頼らないでも魔力変換をできる天才がいる。それがまさかヴィンスさんなんて…。すごすぎる。魔法具を介さない魔力変換は同じ量の魔力を注ぎ込んでも魔法具で出せる魔法よりも圧倒的に威力の強いものを発動させることができる。ヴィンスさんは天才だな。
ん?待てよ?魔法具なしで魔法が出せるなら、僕が撃たなくてもヴィンスさんが解決できたってことだよな。え、え?
「え、えーとヴィンスさん?」
「ん?」
「もしかして、さっき僕が撃たなくても隙を見てヴィンスさんが魔法を使えば解決できたんじゃ…」
「うん。できた」
「じゃ、じゃあなんで、やらなかったんですか」
「ん?僕はもう一人の方が倉庫から戻って来たらまとめて片付けようと思ってたから」
あ、そうだったのか。じゃあ僕は余計なことをしたんだな。
…なんだ。僕が撃たなくても結局解決できたのか…。なぜか胸にモヤモヤが広がっていく。
…だったら一言言ってくれればよかったのに。魔法具なしで魔法が使えることとか、僕が撃たなくてもヴィンスさんが強盗を倒せることとか。なんで言ってくれなかったんだろう。少しだけ酷いと思ってしまった。
「なんで、そのこと言ってくれなかったんですか」
僕は少し不信感を募らせて言った。
だってさっきは撃てたからよかったものの、もしかしたら僕は魔法銃が撃てなかったかもしれないし、撃てたとしてもブランクもあったし、しかも手が震えていたから外してしまう可能性だってあった。確実な方法があるならそれを伝えてくれた方がよかったのに。
「レイ、怒ってる?ごめん」
僕が少し怖い顔をしていたからだろう。ヴィンスさんはしゅんとしてしまった。
「いや、怒ってるとかじゃないんですけど…」
ヴィンスさんにそんな顔をされたら僕は強く出れない。
ヴィンスさんは僕の顔色を伺うように言った。
「僕はレイなら出来るって信じてたから。絶対に」
「え」
「だからレイに任せようと思った」
そう言って眉を下げて微笑むヴィンスさんに僕は胸が熱くなった。さっきまで少し腹が立っていたはずなのに、すごく嬉しい気持ちが広がる。
…そっか。信じてくれたんだ。僕を。だから任せてくれた。
なんだか胸がむず痒いような感覚になった。
僕は少し照れながらもヴィンスさんに言った。
「ありがとうございます。僕を信じてくれて」
「うん」
そして間もなく騎士団が到着したようだ。近くでサイレンの音が聞こえてきた。僕が騎士団に犯人を引き渡す用意を整えているとヴィンスさんが言った。
「レイ。僕少しトイレに行ってもいい?」
「あ、はい。どうぞ!あとは引き渡すだけなので」
「ありがとう」
ヴィンスさんがトイレに行った後にちょうど、騎士団の治安維持室の人たちが宝石店に到着した。




