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レイの弾丸  作者: ぷぷ
1章
16/63

16

トイレに戻ったはいいものの隠れられそうな場所はない。個室に入ると一発で人がいるのがバレるし、しかしここで強盗を捕らえるにしたって相手は二人でフロアにいる方が魔法銃を持っている。下手に一人捕らえたりしたら、人質に何をされるかわからないし、第一上手く捕らえられるかどうかも怪しい。どうしよう。そう考えている間にも足音が迫ってくる。やばい。どうしよう。


「レイ。あそこ」


僕がパニックに陥っていると、横から冷静なヴィンスさんの声が聞こえた。ヴィンスさんが指差した方向を見ると、掃除用具が入っているロッカーが目に入る。

僕たちは急いでその中へと入った。ロッカーの中はとても狭くてヴィンスさんと僕は抱きつくような形になった。結構安易な場所だから見つかるかもしれない。でも入ってしまったものはしょうがない。

そう思って息を潜めていると、一つの足音がトイレの中へと入ってきた。



「ちっ、だりいなあ、誰がいるかあ?!個室のドアは全部開いてるな。‥他に隠れられそうな場所は…」


強盗はトイレの中を歩いている。そしてその足音がどんどんと僕たちが隠れているロッカーの方へと向けられた。


…気づかれたか?やばい、どうしよう。呼吸が荒くなる。静かにしないといけないのに、僕がパニックになっていると、僕の背中をヴィンスさんが優しくさすってくれた。暗いからヴィンスさんの顔は見えないが、その手に僕は少し安心する。そして荒くなっていた呼吸も静まっていった。

しかしその間にも足音はどんどんと近づいてきて、もう間近に迫っていた。やはりバレたか。僕の緊張は極限まで達した。





するとしばらくして強盗の声がした。


「…ねえな。人が隠れられそうな場所なんて」


強盗の足音はロッカーから徐々に離れていった。そして次に隣にある女子トイレに入って行ったようだが、暫くして完全にトイレから立ち去った。僕たちは念のために足音がしなくなった後も少しロッカーに息を潜めて、完全に大丈夫だと確認してからロッカーの外へと出た。


「はあぁっ、よかった」


僕の心臓はまだバクバクと激しい音を立てていたが、ひとまず見つからなかったようで安心した。


「レイ。安心するのはまだ早いよ。ひとまず騎士団に連絡しよう」

「あ、はい」


そうだ。僕たちが強盗に見つからなかっただけで状況は何も解決していない。早くこの強盗事件のことを知らせて騎士団の人に来てもらわないと。


僕は携帯を取り出し騎士団の番号にかける。


「え、圏外?!」


その携帯は圏外で繋がらなかった。ここは地下でもないのになんで繋がらないんだろう。


「僕のも圏外。あの強盗の仕業だね、犯行自体は雑なのに変なところで手が込んでる」


…確かに強盗なのに、トイレの場所を知らなかったし、このお店のことをあまり調べていないんだろう。しかしそんな彼らでも自分達が捕まらないように最低限の注意は払っているようだ。

そしてヴィンスさんは辺りを軽く見渡して続けた。


「ここのトイレは窓とかもないから僕たちが外に出るのも無理だね」

「あ、あのヴィンスさん、これからどうしましょう」

僕が縋るように聞くとヴィンスさんは少し考えて言った。

「強盗たちはさっきから魔法銃を何度か撃っていたけど、あんな大きな音がしたら普通、外の誰かが不審に思って、騎士団に通報しているはず。でも彼らが来ている様子はない。もしかしたら通信だけでなく音も漏れないように遮断してるのかもね。」


確かにあんなに大きな発砲音がしたのに騎士団が来ている様子はない。電話が繋がらないってことは魔法か何かで中から通信が漏れないように工作しているのだろう。そしてそんな準備をしている強盗なら店内の音も外には漏れないようにしている可能性が高い。

そしてヴィンスさんは続けた。


「中から連絡するのが無理なら外からして貰うしかないけど、ここの立地はほとんど人通りが無かったから、異変に気づかれるのに少し時間がかかるかも。」


確かにここのお店は人通りが少ない路地にあるから、すぐにはお店の異変に気づかないかも。それにもし、強盗たちがお店のシャッターを閉めていたら、さらに異変に気づきにくくなる。


…本当に変なところだけは準備周到だ。


「とりあえずフロアの様子を見に行こうか」

「は、はい」


ヴィンスさんは混乱する僕とは反対に至っていつも通りだ。やっぱりすごいな。


僕たちは廊下に強盗がいないかを慎重に確かめてからトイレを出る。そして廊下を進みフロアが覗ける位置まで行った。



フロアでは強盗がお客さんと店員さんを縛り一箇所に集めていた。そしてお店のシャッターも完全に閉じられている。これでは外からは気づかれないだろう。縛られた人たちはみんな怯えていた。中には肩を震わせて静かに泣いている人もいる。


「おい、ここの支店長はどいつだ?」

魔法銃を持った強盗は近くの店員に聞く。

「え、え」

「ぐずぐずしないで早く答えろ!」

「あ、あの人です!」


涙目の店員さんが目を向けたのは、店員の中でも一番年上の50代くらいの男性だ。そして強盗たちは支店長の方へと行った。


「おい、ここにあるショーケースの宝石は本物か?」

魔法銃を向けて支店長に聞く。

「い、いえ…。ケースのものは模倣魔法で外見だけコピーした偽物です」

怯えながらも比較的落ち着いた様子で支店長は答えた。

「そうか。じゃあ本物はどこにある?」

「奥の倉庫に在庫がいくつか取ってあります」

「倉庫に鍵はかかってるのか?」

「は、はい。鍵というか何段階か認証をして開くようになっています」

「そうか。お前は解除方法を知っているな?」

「は、はい」

強盗の質問に恐怖を滲ませながらも的確に答えていく。

「じゃあお前だけ縄を外してやる。倉庫を開けろ。わかったな?」

「は、はい」

そう言って銃を持っている方は人質に魔法銃を向けつつ、もう一人の方が支店長の縄を解いた。そして自由になった支店長に再び魔法銃を向けた。

「おい、変なことは考えるなよ。お前が少しでも俺たちの命令に背いたり不審な動きをしたらこいつらを皆殺しにするからな」

「は、はい」


支店長はその言葉に唾を飲み込んだ。顔色も真っ青だ。自分が少しでも強盗の機嫌を損ねたら、店員や客を殺すと言われたら、すごいプレッシャーだろう。そんな脅しに支店長はすっかり従順になっていた。そして魔法銃を持っていない方の強盗と一緒に奥の倉庫へと行った。彼は支店長と歩いている時も特に武器を持っていなかった。少なくとも倉庫へと行った方は魔法具を持っていないのかもしれない。


強盗と支店長は奥の部屋に消えた。そしてしばらく膠着状態が続いたが、そんな緊張感に耐えきれなかったのか、お客さんの中の若い女性が泣き出した。


「うっううっ、殺さないでぇっ、なんでもするから、ううっ」

そんな女性に強盗は魔法銃を向けて脅す。

「うるせぇ女!死にたくなければ黙れ」

「うぅっ、いやぁ、死にたく無いぃぃ」

そんなふうに泣く女性に強盗は苛立ったように魔法銃を発砲した。そこから出た炎は女性のすぐ横に放たれた。

「ひっ」

「次はねぇぞ。死にたくなかったら黙れ」

女性はあまりの恐怖にガタガタと震えて黙り込んだ。そして怯える女性の元に屈み込み、強盗は言った。


「なあに、そんなに怯えるな。大人しくしてれば今すぐには殺さねえよ。ははっ」

強盗は豪快に笑い、そして立ち上がって続けた。


「ま、店内の宝石が手に入ればお前たちは皆殺しだけどな」


「は」


その言葉に女性はもともと青白かった顔をさらに白くした。女性だけでなく他の人質も驚愕で目を見開いていた。そんな怯えきった人々の前で強盗は楽しそうに続けた。

「ほら、このご時世、何が手がかりになるかわからないだろ。俺たちは覆面を被っちゃいるが、声も聞かれてるし体格だって見られてる。お前らを生かしておけば、手かがりをいっぱい残すことになっちまうからなあ?!殺すしかねーだろ」


「い、言いません。言いませんから。命だけは」

人質の一人が慌てたようにそう言うが、強盗はその人の方へと魔法銃を向けて楽しそうに言う。

「はっ、そんなの信用できるわけねーだろ。諦めろ。お前らは死ぬ。でも安心しろ。大人しくしてれば今すぐには殺さねえから」


強盗の言葉に店内は絶望に包まれた。今すぐには殺されなくてもどっちみちあと数分の命だ。その事実に啜り泣く人やがっくりと項垂れる人、ガタガタと震える人もいた。


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