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レイの弾丸  作者: ぷぷ
1章
15/63

15

ラッセル宝石はヤンさんが入院する病院からは結構離れた場所にあった。そこで僕たちはバスを利用してラッセル宝石のある町へと向かった。そこは王都ではあるが少し郊外で落ち着いた感じの町だ。そして少し歩くと、人通りが少ない道沿いにひっそりとラッセル宝石はあった。宝石屋さんというので結構ゴージャスな感じかと思っていたけど、意外と落ち着いている感じだ。なんというか隠れ家的な?知る人ぞ知る名店というような感じかな。外観も趣きがあって上品だった。


そして僕たちは中へと入る。店内は宝石が飾られたショーケースが何個か並んでおり、とても高級感があった。そして僕たちの他に数人のお客さんの姿もあった。主にカップルや夫婦のようだ。そして一人一人に、ピシッとスーツを着こなした店員さんがついて、説明を行なっている。僕たちが来店した際にもすぐに店員さんが気づいて出迎えてくれた。店員さんはヴィンスさんを見て一瞬見惚れたようだったが気を取り直してこちらへとやって来た。


「いらっしゃいませ」

「あ、あの、僕たちヤンさんの代わりにネックレスを引き取りに来たものなんですが」

「はい。ヤン様の代行様ですね。承っております。ではこちらへ」


僕は最初に要件を伝えた。店員さんも僕たちが来ることは承知していたようで、僕の騎士団の服を見てヤンさんの使いだとすぐにわかったようだ。僕たちはショーケースの奥にある商談スペースに案内された。


「ではこちらにお座りください」


店員さんに言われて僕たちは二人掛けのソファー席に座った。そして机を挟んで店員さんも座った。


「では、ヤン様のネックレスを引き取りにお越し下さったということで、まずはお手数ですが、騎士団の身分証を見せていただけますか」

「あ、はい!」


僕は騎士団員である証明のために身分証を出した。それを慎重に確認した店員さんは、僕の方を向いて言った。

「ではお手数ですが、念のために写真を撮ってもよろしいでしょうか。これはヤン様が無事にネックレスを受け取るまでの保険として保管したいのですが。もちろんヤン様からの受け取りが確認され次第破棄させていただきますので」

「あ、はい。大丈夫です」


店員さんはスーツのポケットから小型カメラを取り出して僕の身分証を写真に撮った。


「ありがとうございます。では次にお手数ですがそちらの方も身分証はお持ちでしょうか」

そう言って店員さんはヴィンスさんの方を向いた。

「えっとこの方は僕の依頼を手伝ってくれる方で…。依頼を受けたのは僕なんですけど付き添いって感じで。ヴィンスさん身分証とか持ってますか?」

「ううん。特に持ってきてない」

「あ、そうですよね?あのヴィンスさんも身分証がないとだめですか?」

「いえ。おそらくレイ様の身分証が有れば大丈夫です。ただヴィンス様の身分証もあればお預かりしたかっただけですので安心して下さい」


その言葉に僕は安堵した。これで受け取ることができないとかになったら、どうしようかと思った。


「では引き取りに必要な手続きをして参りますので二十分ほどお待ちいただいてもよろしいでしょうか」

「あ、はい」



…二十分か。結構時間があるな。やはり代行ということで色々と確認することや、しなければならない手続きがあるのだろう。


「あの、すみません。待っている間、お手洗いに行ってもいいですか」

僕の言葉に店員さんは柔らかい笑顔で頷いた。

「はい。もちろんですよ。お手洗いは、このフロアを左側から出ると、向かって右側に奥へと続く廊下があります、そしてその廊下を進んだところにございます」

「ありがとうございます」


店員さんは僕たちに一礼してお店の奥の方へと行った。


「あ、ヴィンスさん。僕はお手洗いに行ってきますね」

僕はトイレに行くために席を立つと、何故かヴィンスさんも一緒に席を立った。

「うん。僕も行く」

「あ、そうですか?じゃあ行きましょう」


ヴィンスさんもトイレに行きたいようなので、僕たちは一緒にトイレへと向かった。


トイレはさすが宝石店のトイレなだけあって高級感のある外観だった。しかも男性用のトイレにも関わらず全室個室になっている。


僕たちはそれぞれ個室に入り用を足した。そして手を洗ってトイレから出ようとする。




バン!




ーー突然、大きな破裂音が場内に響き渡った。


「え」


僕はヴィンスさんと顔を見合わせる。僕の聞き間違いじゃなければこの音は魔法銃の音によく似ていた?そして音がしたのは先ほどまでいた部屋の方からだった。


「ヴィンスさん、今の音…」

「うん。展示スペースの方からだね。様子を見てこようか」


僕たちはトイレを出て足音を立てないように注意しながら廊下を進んだ。そして廊下の角から展示フロアを覗き込んだ。するとそこには全身黒づくめで顔を覆面で隠した二人組がいた。そしてそのうちの一人は魔法銃のようなものを持っている。


「俺たちは強盗だ。殺されたくなかったら俺たちのいう通りにしろ!」

「ひいっ」


いきなりの強盗の登場に店内はパニックになり、数人いたお客さんはみな怯えて固まっている。


炎撃(ファイアーアタック)


強盗の一人は魔法銃を天井にかざし、詠唱すると同時に引き金を引いた。すると放った先からは強い炎が発射される。その様子に店内は恐怖に包まれた。


「こ、殺さないで!」

お客さんの一人である若い女性はパニックになったように言う。

「殺されたくないかあ?!だったら俺たちの指示に従ってもらう」


そう言って魔法銃を撃った強盗はもう一人に縄を渡し店内にいた店員さんとお客さんを縛り上げた。

そして魔法銃を持っている方は持っていない方へと話しかける。


「おい、店内にいる奴はこれで全部か」

「ああ、カウンターの奥も調べたから全部のはずだ」

その言葉に強盗は少し考え、近くにいた人質の店員さんをぎろりと睨みつけた。

「おい!お前!?ここにいるので全員か?」

「ひ、ひぃっ…」


やばい。その店員さんは先程僕たちを接客してくれた店員さんだった。店内にまだ僕たちがいることがバレてしまうかもしれない。


「おい!答えろ!!」

「ひいっ!すみません。すみません。許してくださいぃぃ」

しかし店員さんは怯え切って、強盗の質問に答えられないほどにパニックになっていた。

「いいから答えろ。殺すぞ!」

「まま、待ってください。い、今確認します…」


店員さんはガクガクと震えながらあたりを見渡した。そしてしばらくして、何かに気づいたかのような表情になった。


「あ」

その言葉に強盗が眉を顰めた。

「なんだ?誰かいないのか?」

その言葉に店員さんは少し焦ったような表情になる。さっきよりも顔色が悪い。

「い、いいえ…」

「おい、何か隠すのは身のためじゃねーぞ。早く言え。殺すぞ」

「ひ、ひぃっ。ち、違います!何も隠していません」

店員さんは慌てて否定した。しかしその表情には動揺が表れており、強盗はさらに詰め寄った。

「嘘つけ!今なんか気づいた表情してただろ?!!正直に言え」

その言葉に店員さんはガクガクと震えて固まっていたが、やがておもむろにある人質を指差した。

「…あ、あの方の縄が解けかかっていて…」


その言葉に強盗たちはその人質に目を向けた。確かにそこには、後ろで縛っている手の縄が解けかかっている人質がいた。


「…ちっ、確かに解けてやがる。おい!縄くらいちゃんと結べねえのか?」

武器を持っている方が持っていない方にイライラした様子で言った。

「うるせえな。こっちだって何人も縛ってりゃ一人くらい緩くなるときもある」

「早く結び直せ」

「ああ」

強盗は縄が緩くなってしまっている人質の方へと行った。

「おい、女、じっとしてろよ」

「は、はい…」


縄が緩まっていた女性は酷く怯えていたが素直に強盗の指示に従っていた。そして縄を結び終わった強盗はもう一人の強盗の方へと戻った。



…あぁよかった。なんとか誤魔化せたみたいだ。


店員さんはたぶん僕たちがいないことに気づいたんだと思う。しかしそれを黙っていてくれたんだ。その証拠に店員さんは今、不安そうに視線をうろうろとさせたり、そわそわと落ち着かない感じだ。さっきとは明らかに様子が変わった。それが強盗に酷く怯えているからだと言われればそうも見えるが、たぶん僕たちが強盗に見つからないかどうか不安なんだろう。しかし僕たちも見つかるわけにはいかないので、店員さんの証言は助かった。


僕がホッと息を吐いていると、縄を縛り直した強盗が近くにいる別の店員さんに話しかけた。

「おい、お前、このフロアとその奥の部屋以外に部屋はあるか?念には念を入れないとだからな」


どうやら、強盗はまだ店内に人がいないかどうかを疑っているようだ。店員さんは恐怖でブルブル震えながら答えた。


「い、いえ。あ、でもトイレが…」

「あ?!トイレ?どこだ?」

「ひぃっ、」

強盗の脅しに店員さんは涙目だ。

「早く答えろ。もたもたしてると殺すぞ」

「ひ、ひぃっ、へ、へ、へ、部屋の左側から続く廊下…を少し行くと、あ、あります」


その声はか弱く震えていた。

そして僕たちを担当してくれた店員さんもトイレの話が出ると顔を強ばらせた。僕たちがトイレにいることを知っているので、まずいと思ったんだろう。しかし強盗たちはそんな店員さんの変化には気づかずに、お互いに顔を見合わせた。そしてそのうちの一人が僕たちのいる廊下の方へと向かってきた。


「レイ。まずい。ひとまずトイレへ戻ろう」

「はい」


そして僕たちは足音を立てないように細心の注意を払いながら、足速にトイレへと戻った。


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