13
翌日、僕はいつものように午前中に入った依頼を少し片付けたのちに屋上へと向かった。するとやっぱりいつもの位置にヴィンスさんはいた。今日もおしゃれでかっこいい。そしてヴィンスさんは僕を見つけると、いつものごとく微笑んでくれた。
「ヴィンスさん、お待たせしました」
「うん」
僕はヴィンスさんの隣に座り昼食を食べた。これももうルーティーン化した行為だ。
そして僕の昼食がひと段落して僕たちは話し始める。
「昨日はどうだった?友人との食事」
ヴィンスさんは僕に探るような視線を向けてくる。
「すごく楽しかったです」
「そう」
僕の言葉にヴィンスさんは少し目を細めて微笑んだ。あぁ、ここにも天使がいる。
「どんな話をしたの?」
「えーと、僕たちの近況報告?ですかね」
「そう」
「あ、でもフィル君、少し大変そうでした…」
「そう」
ヴィンスさんは素っ気ない感じで答えた。あんまりフィル君に興味ないのかな?そうは思ったものの続ける。
「なんでも特別課のエースで有名なヴィンセント騎士がいきなり長期休暇を取ってしまったらしくて…」
「へぇ」
「それで、結構ストレスが溜まってるみたいでした。あ、その時にヴィンセント騎士についても色々教えてもらったんですけど、僕の思っていた人とは結構違う感じでびっくりしました」
それまで興味なさげに聞いていたヴィンスさんが、初めて興味を示したように目を細めた。
「彼はなんて?」
そう言うヴィンスさんはいつものように優しい口調は変わらないが、心なしか少し目の奥が笑っていないような印象を受けた。気のせいかな?
「え、えーと、ヴィンセント騎士は結構性格に難ありの人みたいで…。あんなに優秀なフィル君でさえ「役立たず」っていつも言われてるって」
「…へぇ。他には?」
「あ、最近特別課が壊滅させたテロ組織あったじゃないですか。その壊滅作戦の時にヴィンセント騎士に殺されかかったって…。酷いですよね。仲間をそんなふうに」
「…うん」
心なしか少しヴィンスさんの顔色が悪いような…。あ、僕がヴィンセント騎士について少し悪く言っちゃったからかな?ヴィンスさんもヴィンセント騎士がそんな冷たい人だとは夢にも思わなかったんだろうな。だって巷では英雄なんて言われてる人だし。
「あ、でもヴィンスさんの話をしたらフィル君も素敵な人だねって言ってました。それで今度会いたいって」
「…そう。僕も会いたいって言っといて。…彼には言いたいことが色々あるから」
「え、あ、はい!」
ヴィンスさんはにっこりと笑ったが、なぜだろう。なぜか凄く冷たいオーラが出ているような…。まあ気のせいかな?今日は少し肌寒いからそう感じるだけかも。それにさっき、色々言いたいことがあるって言ってたけどなんなんだろう?あ、もしかしてヴィンスさんはフィル君のファンなのかな?フィル君は魔法も天才な上にあの容姿だから騎士団内でもファンは多い。だったら早めにヴィンスさんにフィル君を会わせてあげないとな。
「ねぇレイ」
「はい」
「レイはヴィンセント…騎士のこと嫌いになった?」
ヴィンスさんは少し不安げな表情をしていた。
「え、うーん。ちょっと酷いなとは思いましたけど…」
僕がそう言うと何故かヴィンスさんは思い詰めたような表情をしてしまった。どうしたんだろう。
「えっと、あの、ヴィンスさん?」
…やっぱりヴィンセント騎士のことを悪く言ったのがよくなかったのかな。ヴィンセント騎士に憧れてる騎士は多い。もしかしたらヴィンスさんもその一人なのかも。自分の憧れの人が貶されたら誰だって嫌だよな。でもヴィンスさんは優しいから怒ったりはせずに落ち込んじゃったとか。…そうかもしれない。
「あ、あの!ヴィンスさん!僕はその、ヴィンセント騎士のこと別に嫌いではないって言うか…。フィル君の話を聞くと確かに酷いなとは思いましたけど、でもあくまで人づてで聞いた情報ですし…」
「…うん」
「ほら!ヴィンセント騎士って若くして騎士団のトップに上り詰めた人だから、彼にしかわからない責任とか重責とかあるかもしれないし…。それで人に少し厳しくなってるだけかもしれないです。決めつけるのはよくないですよね。すみません。不快でしたよね」
「ううん」
しゅんとする僕にヴィンスさんは優しく笑ってくれた。よかった。僕を許してくれたのかな?これからはあんまり人のことを悪く言わないように気をつけよう。
そうして少し重くなってしまった空気を気遣ってかヴィンスさんが優しく言った。
「レイ、今日は午後の予定は?」
「あ、えっと、今日はヤンさんっていう人からの依頼で、宝石屋さんに修理を依頼しているネックレスを引き取って来てほしいっていう内容です」
「そう」
「はい。ヤンさんは最近ぎっくり腰になってしまったらしくて、代わりに行って欲しいと。流石に宝石がついてるネックレスを引き取るなんてことを他人には頼めないらしく、騎士団なら信用できるってことで依頼が」
「そう。レイはそれが終わったら騎士団で作業?」
「あ、いえ、今日は室長のミハエルさんが体調不良で早めに帰るらしくて…。それで部屋の戸締まりは室長しかやっちゃいけないことになってるので、依頼が終わったらフリーです」
「そう。じゃあ屋上で魔法銃の練習をしない?」
「あ、はい!ぜひ!」
「職場が閉まるなら、魔法銃を持って出かけようか」
「あ、はい!ありがとうございます」
出かけようかってことは今日も着いてきてくれるのかな?そう思ってヴィンスさんを見ると僕の考えは読まれていたようで「僕も行く」とにっこりと笑った。ヴィンスさんが来てくれるなら心強いし嬉しい。今日はフィル君も朝から任務で出かけているみたいだし、手伝えそうなこともない。依頼を早めに終わらせることができたら、ヴィンスさんといっぱい特訓ができるかも。
「あ、もうそろそろ時間なので、僕はデスクから必要なものをとってきますね」
「うん。じゃあ門の前で」
「はい!」
僕は職場のデスクに入館証と魔法銃を取りに戻り、そして退館手続きをしてヴィンスさんの待つ門の前へと向かった。




