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レイの弾丸  作者: ぷぷ
1章
10/63

10

翌日、午前中は市民相談室に入った依頼を一件こなしてからお昼休みの時間になった。僕はいつものように昼食を買ったのちに屋上へ向かった。


扉を開けるといつもの位置にヴィンスさんはいた。今日は全身白っぽい服を着ているせいか、一瞬本当に天使がいるのかと目を擦った。しかしそれがヴィンスさんだとわかると、僕はヴィンスさんの隣に座り、お昼を食べ始めた。まだ四日目だけどなんかもうルーティーン化してきたような気がする。でもヴィンスさんが現れるまではいつも一人で昼食を食べていたから、ヴィンスさんと食べる昼食はすごく楽しみだった。

僕が昼食を食べるのをヴィンスさんはじっと見つめている。そして僕が食べ終わるとヴィンスさんは僕に話しかけてくれた。


「今日は依頼あったの?」

「はい。今日は王都にある質屋さんからの依頼で。シフトを頼むはずだった人が今日急に熱が出て出れなくなってしまったらしくて…。代わりに僕が少し店番をしてました。…でもその時間帯は誰も来なかったのでただ座ってただけですけど…」

「そう。お疲れさま」

ヴィンスさんは目を細めて微笑んだ。あぁ、美しい。心が浄化されるな。

「ありがとうございます」

「うん。午後は?」

「午後は騎士団の人に資料室の整理を頼まれたので、それをやります」

「そう」

「はい」

「仕事はいつくらいに終わる?」

「えっと五時には…」

「そう。じゃあ今日も銃の練習する?」

「あ、えっと、今日は、その、予定があって…」

その言葉にヴィンスさんは少し興味を持ったように目を細めた。

「予定?」

「あっ、はい。今日は友人と食事に行く約束をしてて…」

「へぇ。友人って?」


ヴィンスさんの声が少し低くなった気がするのは気のせいだろうか。しかし些細な変化だったため気のせいだろうと思い、特段気にすることもなく続けた。


「僕、騎士学校時代から結構な人見知りで友人はほとんどできなかったんです。でも唯一こんな僕でも友人になってくれた人がいて…。それでその人と久しぶりに食事に行くんです」

「そう」

「あ、はい」


相槌を打つヴィンスさんはいつものように優しい感じではなく、素っ気ない感じだ。

…確かに僕の友人の話なんて聞いても面白くないよな。


「その友人のこと教えて」

「えっ」


今まで真顔で素っ気ない感じだったから興味ないのかと思っていたけどそうでもないのかな。

「あ、はい。…えっと何が知りたいですか?」

戸惑い気味の僕をじっと見つめてヴィンスさんは言った。


「じゃあ、名前は?」

「あ、えっとフィル君っていう人です」

「…フィル?」


ヴィンスさんは少し首を傾げた。もしかしたら名前に聞き覚えがあるのかもしれない。フィル君はこの騎士団でもかなりの有名人なのだから。


「えっと、聞いたことありませんか?新人でいきなり特別課に配属にされて話題になったフィル・クロード君です。確かヴィンセント騎士以来の天才って言われています」

僕の言葉にヴィンスさんはまだ少しピンと来ていないようでしばらく考え込んでいた。しかしやがて納得したような表情になった。

「あぁ…あいつか」


やっぱりヴィンスさんもフィル君のことは知っていたようだ。

フィル君は騎士学校時代からその実力は飛びぬけていて、予科生の頃から騎士団でも「予科生にとんでもない天才がいる」とその名前は有名だったらしい。そして新人としては異例の特別課に配属された。


ちなみに特別課というのは騎士団の中でもほんの一部の天才しか所属できないエリート中のエリート部署だ。そして中でも一番有名なのは騎士団最強と言われるヴィンセント騎士だろう。

部署の役割としては、他の部署では手に余るような凶悪事件の解決や、王国の脅威となる事案への対応、王族などの要人警護など特に重要性が高いものを専門に担当する。そんなエリート部署でフィル君は新人ながらに華々しい活躍を遂げていた。そして巷では、フィル君はヴィンセント騎士の後継者として大いに期待されている人材なのだ。

フィル君はそんなにすごい人なのにもかかわらず、僕なんかとも仲良くしてくれる優しい人でもある。


「レイはそのフィル?って子のこと好きなの?」

「え、あ、はい。フィル君のことは好きですよ?」

「どこが?」

「えっ、えーと、フィル君はすごく明るくて優しいんです。騎士学校の頃から人見知りで孤立していた僕に積極的に話しかけてくれたり、卒業してからもご飯に誘ってくれたりして…。そんなところが好きですかね?」

「そう」


ヴィンスさんの表情は無表情に近かったが心なしが少し寂しそうだった。どうしたのだろう。


「え、えっと、ヴィンスさん?どうかしましたか」

「ううん」

そう言ってヴィンスさんは黙り込んでしまった。

「え、えっと…」

僕がオロオロしていると、そんな僕を見てヴィンスさんは眉を下げた。

「少し寂しいと思っただけ」

「えっ」

「僕とレイはまだ会って一週間も経ってない。でもレイには何年も仲良くしてる友人がいるって聞いたから…」

「えっ、いや、そんな…」

「ごめん。変なこと言って…。食事楽しんで」


眉を下げて笑うヴィンスさんはやっぱり少し寂しそうで、何故だかわからないけど僕は胸がギュッと締め付けられた。


「あ、あの、確かにフィル君には騎士学校時代から仲良くして貰っていてすごく大切な友人です。で、でも、ヴィンスさんだって僕にはすごく大切な人です。まだ出会って間もないけれどヴィンスさんはすごく優しいしかっこいいし頼りになるし…。僕にとって一番尊敬する人っていうか、その…」

まとまらない言葉で必死にヴィンスさんへの思いを伝えるとヴィンスさんは少しだけ目を見開き、そして目を細めて嬉しそうに笑った。

「そう。うれしい」

「い、いえ」


なんだかちょっと照れ臭いな。でもヴィンスさんにはいっぱいお世話になっているし、僕の気持ちを伝えられてよかった。でもヴィンスさんって意外と寂しがり屋なのかな。見た目はクールな感じなのに意外な一面だ。


「ねえ。レイ」

「は、はい」

「僕とも今度またご飯行こう」

「え!もちろんです。いきたいです」

「うん」


ヴィンスさんからまた誘ってくれるなんて嬉しいなあ。

元気よく答える僕にヴィンスさんは温かく微笑んだ。そうしているうちに昼休みは終わりを告げた。



午後は騎士団校舎の旧棟と呼ばれる古い校舎にある資料室の掃除を依頼されたため、僕は旧棟へと向かった。

資料室の前には依頼をした騎士団の総務課の人が立っていた。騎士団には当然、事務系の部署もある。騎士団ではあまり陽の目を見ることはないが組織運営の中でも重要な役割を果たしていて、縁の下の力持ちのような存在だ。そして総務課の人は僕を見とめると少し嫌そうな顔をした。


「遅い。雑用係のくせに、人を待たせるとはいい身分だね?」

「あ、すみません」

時間通りに着いたはずだけど待たせていたみたいだ。

「はあ…こっちも暇じゃないんだからさあ。君たちと違って」

「…はい。申し訳ありません」

イライラした様子の総務課の人に僕はひたすら頭を下げる。騎士団は僕の部署を除いてみんな忙しい部署ばかりだから、待たせてしまったのはとても申し訳ない。もう少し早く来ればよかった。

謝る僕に総務課の人は乱暴に資料室の鍵を押し付けた。

「じゃあ、掃除しといて。中にある資料は全部ガラクタだから。ゴミに出しといて」

「はい」

「あとはちゃんと綺麗になるまで掃除しといてね。じゃ、2-3時間後に来るからそれまでに終わらせといてよ。雑用係でもこれくらいならできるでしょ」

「…はい」


…騎士団の人の市民相談室の扱いなんてこんなものだ。民間からの依頼の方がみんな優しいし感謝してくれる。騎士団内の雑用を任されるときは、キツく当たられるか嘲笑されるかのどちらかだ。最近は市民の方の依頼を受けることが多かったからこの感覚は久しぶりだ。僕は少し気持ちが落ち込みつつも資料室の掃除を始めた。


資料室は長らく使われていなかったためなのか、埃がすごかった。総務課の人によると、ここにある資料は全て捨てていいらしいので、僕はまず資料を数冊ずつまとめて紐で縛り、ゴミ捨て場に持っていった。しかし資料がとても多かったのでゴミ捨て場と資料室を二十往復くらいはしただろうか。意外と疲れる。

そして資料がなくなった部屋は至る所が埃まみれだった。そこで、僕はポケットから手袋を取り出した。この手袋はリンダさんの屋根の修復に使ったものだ。そして手袋を装着し、魔力を込めた。


清掃(クリーン)


すると白い魔法陣が出現し一瞬で狭い資料室の半分ほどの埃が無くなった。そして僕は反対側を向いてまた魔法陣を発動させる。反対側の埃も全て無くした。そして部屋一帯がとても清潔で綺麗な部屋になった。僕は仕上げに床に濡らした雑巾で雑巾掛けをした。そうしている内に時間が経っていたみたいだ。総務課の人がやってきた。


「どう?終わった?」

「は、はい…」

総務課の人は資料室を覗いて言った。

「ふーん、ま、雑用係でもとこれくらいはできるか。じゃあ掃除道具を片付けて部屋の施錠をしてから帰ってくれる?」

「は、はい。ありがとうございます」


…よかった。何かダメ出しとか嫌味とか言われるかと思ったから、すんなり終わってよかった。


総務課の人の許可が降りた僕は掃除用具を片付け、部屋の施錠をした。そしてその鍵を管理室に届けたのちに市民相談室へと戻った。


その後は自分のデスクで少し資料の作成をして過ごした。

仕事がすべて片付き、丁度五時を回った頃に僕は職場をあとにした。


そしてフィル君と待ち合わせをしている騎士団の門の前へと行った。


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