NTRでも、BSSでもないのでノーダメです
土曜日、特にやることもないのでなんとなく商店街を歩いていたら、僕は見てしまった。
建物と建物の間――路地裏で一組のカップルがキスしているところを。
「んちゅ……」
息が切れたのか、二人は唇を離す。そして互いに熱い眼差しで見つめ合う。
二人とも見覚えのある顔だった。
一人はクラスメイトで名前は元木仁。彼は学校の中でもトップクラスのイケメンだ。
ただ彼に関しては、あまりいい噂は聞かない。その容姿で人の彼女を誑かし、寝取ったりするんだとか……。
そしてもう一人は僕にとって、元木君より親しい関係にある。
飯田望――僕の幼馴染だ。
僕は望に彼氏がいるなんて知らなかった。いつも一緒にいるのに、話してくれなかったことに一抹の寂しさを感じる。
「「!!」」
やばい……目が合った……。
望は僕の姿を見ると、慌てた様子で駆け寄ってきた。元木君はというと勝ち誇るかのように、ゆったりとした歩みで僕に近づいてくる。
「雅也くん! これは違うの!」
違うって言われても……。
どこからどう見ても二人は恋人同士にしか見えない。必死で言い訳をする望を見て、思わず嘆息してしまう。
「へへへ、田中。お前の大好きな幼馴染を奪ってやったぜ」
元木君は不気味な笑みを浮かべている。顔のパーツが整っているだけにそれだけで絵になる。
元木君の奪ったという言葉は正しくない気がする。
僕を怒らせたいのだろうが、別に望は僕の恋人と言うわけでもない。百歩譲って、僕が望のことを好きなのであればまだ理解はできる。
確かに幼馴染のことは好きではある。だけどそれは友人としてであって、特別な想いを望に抱いているわけじゃない。
「私が好きなのは雅也くんだけなの! 雅也くんの気を引きたかっただけなの!」
その理屈は苦しい。本当に僕のことが好きなのであれば、元木君とキスなんてしないはずだ。
「別に気にしていないよ。元木君と仲良くしなよ」
強がりとか嫌味とかじゃなくて、本心からそう思う。そもそも望は何一つ悪いことはしていないのだから。
「負け惜しみか? 田中、俺はお前の愛しの幼馴染のファーストキスを奪ったんだぞ?」
元木君は幼馴染を失った僕が号泣する姿を見たいのだろう。そして、それを見て優越感に浸りたいのだろう。
悪いけど、その手には乗らない。というか乗れない。
「望が誰と付き合おうと、誰の恋人になろうと望の自由。僕はどうこうする気はないよ」
「何だと!」
今度は元木君の表情から余裕がなくなる。苦虫を噛み潰したような顔になり、自分が煽られる側になるとは想定していなかったようだ。
「どうしてそんなこと言うの……」
望は今にも泣き出しそうだ。女の涙は武器だと言うが、僕には通じない。
「なんで!? なんでなの!? どうして怒っても、悲しんですらくれないの!? 雅也くんにとって私はなんなの?」
望の血を吐くような叫び。いくら喚こうが僕が望を異性と認識することはない。
「友達だよ」
「そんなの嫌! 私は雅也くんの恋人になりたいの!」
大粒の涙も相まってキラキラと輝く幼馴染の瞳。整った顔立ちに加えて、モデルのようにスタイルがいい。
それでも僕は、望とそんな気にはなれない。
「とんだへたれ野郎だな、田中。お前望ちゃんがどんな思いだったか知ってるのか? お前のことが好きで好きで堪らなくて、毎日泣いてたんたぞ?」
「…………」
お前がそれを言うのかと、突っ込みを入れたくなる。
「もういい……田中。俺が望ちゃんを幸せにする。お前は二度と望ちゃんに近づくな」
「ちょっ!」
そう言うと、元木君は望の手を引き僕の前から去っていった。助けを求めるかのように、望が僕の方を振り向いたのが印象的だった。
多分元木君は望の秘密を知らないのだろう。
何故僕が望に恋をしないのか――それは複雑そうに見えて、至って単純なこと。
それは望の秘密にある。幼馴染の僕と、望の家族だけが知っている秘密。
彼女――いや彼は男の娘なのだ。だから、僕は望に対して性欲が湧かない。そういう目で見れない。
★★★★★
それから二週間ほど経った。元木くんに近寄るなとは言われたが、望とは幼馴染としての関係は続いている。
元木君は教室で頻繁に尻を擦るようになった。その様子がシュールで思わず吹き出しそうになる。
多分、望とそういうことをするようになったのだろう。彼は望の秘密を知っても、恋人になる道を選んだようだ。
僕は漢だ……と元木君に感心するのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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