表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

働かざるもの、食う寝る遊ぶ

新連載です! 

よろしくお願いします★


「みなさーん、このハーレムは閉鎖が決まりました!」

 ユリトは明るくはっきりとした声で告げました。


 しん……と静まり返った室内。ハーレム殿(でん)には甘いお香の煙が漂っています。ピンクの魔法照明が淡く照らす紗幕(しゃまく)の向こう側に、妖艶な女性たちのシルエットがいくつか浮かんでいます。

 ……あれ、無反応?

 思わず小首をかしげます。が、

「「「はぁあああああ!?」」」

「ざっけんなよ、コラァ!」

「断固拒否じゃボケぇ!」

 一瞬の静寂を破って怒号が爆発。地鳴りのような大ブーイングが響き渡りました。

「で、ですよねー?」

 ユリトは顔にひきつった笑みをうかべ、思わずあとずさり。


「今さら追放しようなんて、もう遅い! ぜったいに出て行かないんだからね!」

 ツンデレ幼馴染みたいに全力で拒否されました。


 乙女たちの顔や姿は薄暗くて見えませんが、ゴゴゴ……と凄まじい()を感じます。


 ハーレムで暮らすのは12人の乙女たち。

 王様のありとあらゆる欲望、性癖や趣味趣向に対応できるよう、あちこちからスカウトされた選りすぐりの精鋭たち。

「これが噂の『覇愛麗夢(ハーレム)十二嬢姫(じゅうにじょうき)』……!」

 通称――トゥエルブ・プリンセス。押し寄せる乙女たちの強キャラ感に圧倒されます。


「ところでキミ、見かけない顔ねぇ、新人さん?」

「半ズボンに青マント……。王宮魔法師かしら?」

「あ、ハーフエルフなんだね、かわいいー!」

「あれれ、君ってば女の子? 男の子?」


「ぼ、僕は男ですっ! 王宮魔法師になったばかりです。申し遅れました、ユリトっていいます。ユリト・アチャーモレノ」

 くりっとしたどんぐりみたいな(まなこ)に、愛嬌のある整った顔立ち。若葉を思わせる色合いのさらさらストレート(ヘア)から、先のちょっと尖ったエルフ耳が覗いています。

 手には杖型の携帯魔法端末(タブリュート)。ユリトは王宮でも珍しいハーフエルフの魔法師なのです。


「かっ……! 可愛い!」

 黄色い歓声があがりました。バカにしてるんですか、もう。


「ボク、いくつかなー? うふふ、こっちにきて、お姉さんたちとお話しよっか?」


 こうみえても16歳。子供に間違われますが、成人です。


「ハァハァ……。遊ぼう、ね? 脱いで、脱ぎっこしてあそぼうか? いい子だから、ハァハァ」

 かなりヤバイ人もいるみたいです。イタズラする気満々です。夜道でよく遭遇する手合いそっくり。ねっとりと絡みつくような視線を感じます。怖い。


「いっ……いえ、僕はそういうのは……ちょっと、遠慮しときます!」

 まさに「とって食われ」そうな雰囲気です。

 ギラギラした欲望の眼差しを紗幕(しゃまく)越しに感じます。正直、女郎蜘蛛の巣に迷い込んだ蝶って、こんな気持ちなんでしょうか……。

 すっかり逃げ腰、というか逃げ出したい。

 こつん、と(かかと)に何かがあたりました。

「いっ?」

 お酒の空き瓶でした。見れば床一面にゴミが散らばり、脱ぎ散らかした衣服や下着が散乱しています。

 甘い匂いに混じり酸っぱいような臭いも……。

 華やかで妖艶なハーレムのイメージに、ちょっと退廃的な空気が漂っています。


 現王陛下は「真の愛」に目覚め、ハーレムには一度も足を運んでいないとか。

 清廉潔白な現王陛下はお優しいお方ですが、ハーレムには興味がないようです。

 そのせいでしょうか。噂以上に乙女のみなさんの心も荒んでいるような……。


 だからって逃げ帰るわけにも行きません。

 使命があるのです。

 まずは乙女さんたちとお話だけでもしなきゃ。相互理解が大事です。それで友達になれば、悩みなんかも聞き出せるでしょうし。


 そこで救いの声が聞こえてきました。


「ごめんね。お姉さまたち、飢えてるから」

「怖がらせちゃったカナ? カナ?」


「いっ、いえ! そんなことないです」

 なぁんだ、まともな人もいるじゃないですか。薄い天幕ごしに優しげな声は続けます。


「ここの暮らし、けっこう気に入ってるんだ」

「ごはんはタダ、遊んでていいし」

「働かなくていい、一日中ゴロゴロしていられるもんねー!」

「王様もぜんぜん来ないから、暇だけどにゃ」

「どこにも行くあて無いし……ここがいい」


「そうですか」

 なるほど。

 ハーレムで暮らす女性のみなさんは、閉鎖には反対みたいですね。

 お考えはすこし違うようですが、やっぱり、というか当然の反応でしょう。


 衣食住すべて無料(タダ)

 給仕たちが朝昼晩、食事やお酒を運んできます。横には大浴場も完備、プレイルーム……個室も共同寝室も快適な温度に保つよう、24時間魔法で空調されているのですから快適そのもの。

 外出の自由はありませんが、それなりに娯楽もあるのだとか。

 最近は魔法通信による魔法端末(カラクリ)を使った娯楽が人気。魔法の動画サイトで冒険者の投稿動画を見たり、酒場の人気歌い手さんの真似事を投稿したり……。魔法の通信対戦ゲームも人気らしいです。


 つまり、悠々自適のエリート・ニート生活を満喫されているわけですから。そりゃぁ出ていきたくないでしょう。

 働かざるのに食う寝るあそぶ。

 普通なら許されません。羨ましい限りです。


「こんな生活、僕がしたいくらいですよ」

 むーっ、と頬をふくらませるユリト。いけない、思わず本音が出てしまいました。

 快適なハーレム生活をやめてまで、出て行きたくないって気持ちもわかります。


 うーん。

 これは骨が折れそうです。

 だったら、

 食料を減らして兵糧攻め?

 衛兵で強制的に排除すればいいって?

 いえいえ、とんでもない!


 そんなこと出来ません。人権第一、乙女のみなさんの気持ちこそ大事です。

 それに……。今や世界はひとつ。超高速の『魔法通信』によってあらゆる情報が一瞬で世界に伝わります。

 王国の臣民たち、貴族も庶民にも一瞬です。他国にだって伝わります。映像と音声がたちどころに全世界の知るところになるのです。


 手荒な真似や強引な手段はぜったいダメ。

 それこそ世界中に醜聞を晒し、非難の的になって炎上してしまいます。

 ここ――神聖ヴァームヴゥフェン王国の評判は、地に落ちてしまうでしょう。


 それはまずい。

 実にまずいのです。僕の初仕事なのですから、がんばらなきゃ。


『乙女たちの社会復帰をサポートするのじゃ』

 王宮魔法師の長老カレティール様からはそう言われたのですから。


 ――穏便に事を進めるのじゃ。

 手段は問わぬが、手荒な真似は絶対にダメじゃ。優しく、親身になることじゃ。

 そのかわり、資金も魔法も。いくらでも使って構わぬからの。

 乙女たちの願いを叶えるのじゃ、ユリト。

 彼女たちの、社会復帰、帰郷、起業でも、なんでもよい。願いを叶えてあげることじゃ……!


『はいっ!』


 今更ですが、とても大変な仕事だと思い知らされました。

 というか、こんな新人の僕――ユリトに白羽の矢が立ったのは、こんな面倒な仕事、誰もやりたくないからなんでしょうねー。

 大人ってずるい。


「さて、どうしたものでしょう」

 ユリトは頬にかかる長めの髪を耳にかきあげ、しばし考えます。


 まずはハーレムを、乙女のみなさんのことを知らなくては。

 己を知り、ハーレムを知れば百戦危うからず。

 

 さっそく魔法の杖『携帯魔法端末(タブリュート)』を操作します。


「僕と……友達になってください!」

 十二人の乙女たちが全員持っているハンディ・タブリュート。

 ユリトはそれらに『ともだちアカウント』を送信しました。

 ハーレム乙女たちのアカウント名は、王宮人事院から事前に入手済みです。


 ピンピロリン♪ 着信音がして乙女たちのタブリュートが輝きました。手のひらサイズの手鏡、あるいはお化粧用品のコンパクトみたいな形です。


「あ……なんか来た」

「ユリトくん? わ、友達登録だ」

「べ、別にいらないんだけどね! しょ、しょうがないから……登録してあげる!」

「ヒッヒヒ、未成年……男の娘アドレス……ゲット」

「ハァハァ……男……友達ィイ」

「ブロックよ! だまされないで」

「いーじゃない、姉さんこれぐらい」


「登録、おねがいしますね。まずは皆さんとお話ができたら嬉しいですし……」

 反応はさまざまですが、どうやら第一歩はうまくいったようです。


 ピンピロリン♪

 早速、返信が返ってきました。


「あ、ありがとうございます!」

 嬉しいです。

 空間表示魔法(スクリル)で投影、半透明の画面に内容を投影、手元の30センチメルの空間に映し出します。

「……ッ!?」

 それは全面肌色でした。谷間が写っています。


「わぁあっ!? だ、誰ですかこんな……、は、裸の写真を送ってきたのは!?」

 ユリトは赤面し思わず顔を背けました。

 そのウブな反応に含みわらいがおこります。


「きゃはは……! それ、あたしの二の腕だよーん!」

「え? あっ、ほんとだ。もう! やめてくださいよ、からかうのは」

「ごめんねー。でも期待どおりのいい反応が見れたなーって」

 明るい笑い声と同時に、空間表示魔法(スクリル)にアカウントネームが浮かび上がりました。


 >ミリア

 >ユリトくん面白い……♪


「あ……」

 どうやら、最初の友達ができたみたいです。

 

<つづく>

【読者のみなさまへ!】

 お読みいただきありがとうございます。

「面白そう!」「続きが気になるー」

そんなときはブックマークしてくださいね!

下の【★★★★★】から応援も、いただけたらとても励みになります。


ではまた!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] は、発見が遅れた……です。orz 今回は初っ端からヒロインが十二名ですか。(汗) 書き分けが大変ですね。 そう言えば、中国のハーレムでは万単位で囲っていましたっけ。 それから、ハーレム…
[良い点] こ、これ……。 なかなかなかったこの手の作品。 とにかくユリト君大変。同情しちゃうけど、頑張れ! そして、誰か助けてあげて~。 このままだと、本当に食べられちゃうよ~!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ