ヴァーチャル、故郷への帰還
◇
「本当に、どこへでも行けるんだね!」
「えぇ。安全ですし、好きなときに、好きなだけ」
「すごい……!」
メリアさんは目をつぶっています。
手には彼女の携帯魔法端末。ユリトが専用の精神感応操作術式をセットアップしてあります。携帯魔法端末を通じて思考を読み取り、感覚の一部をフィードバアック。キノコゴーレムと一体化したような感覚が楽しめる仕組みです。
進みたい方に進み、見て、聞いて、好きなところへ移動できるのです。
『ノコ……!』
キノコゴーレムは歩いてどこかへ行きました。
王宮エリアを抜け、階下へ。
「すごい、ここは図書館ね……! わぁ!? ここは……騎士さんたちのお部屋?」
メリアさんは小さな歓声をあげて楽しんでいます。
キノコゴーレムが怪しまれないよう、見た目は城内標準メイド服に変えておきました。これでどこを歩いても平気です。
「ねぇ、私も試してみたい!」
「あたしも……いいかな?」
他のハーレム乙女さんたちもやってきました。
「えぇ! もちろんですとも!」
とてもいいアイデアでした。
キノコゴーレムによる「外出」はあっというまに大人気になりました。
数日間はフル稼働が続きましたが、キノコゴーレム一人では大変です。
そこでユリトはキノコゴーレムを量産しました。
「十二体に増やしました。これで好きなだけ遊べます」
乙女さんたちは大喜びです。
それぞれ独立駆動します。維持するために必要な魔力は、王城の基幹魔力系から非接触で供給するように改造しました。これでユリトの負担もありません。
最初は参加しなかった乙女さんも、今や買い物や散歩、自由な外出を楽しんでいます。
「街へも行けるの?」
「はい、許可も得ていますから大丈夫です。公共の乗り物はすべて無料です」
メリアさんは一番の使い手です。城内の散策に飽き、外へ行きたいと言い出しました。
もちろん先手は打っています。
王政府からは特別な許可を得ました。
赤いメイド服にフリフリのエプロンをつけたキノコゴーレムには、魔力式身分証明書を付与しました。特別なものだと周知し、城内はもとより城下街、街の域外も自由に出歩けます。
「陸路、空路、公共の乗り物なら無料です」
「すごいのねユリト!」
数日後、メリアさんが困ったように相談してきました。
「ユリト、少しノコちゃんの動きが鈍くて……時間がかかるっていうか」
不具合でしょうか?
「今、キノコゴーレムはどこへ行っているのです?」
「えぇと……大陸の果ての港町エンディア……かな」
「エンディア!? 千キロメルも遠くに!?」
驚きました。流石にそこまで距離が離れると、若干レスポンスが低下するようです。衛星軌道上の軍用魔法通信中継衛星を経由すればいいでしょうか。流石にこれはすぐに許可は下りないでしょうけれど……なんとかしましょう。
「世界のすべてを見てほしいのです」
たくさん楽しんだハーレム乙女さんたち。
世界を旅行し、安全に戻ってくる。
中には魔物に襲われたり、災害に巻き込まれてしまったりした不幸なキノコゴーレムもいましたが、瞬間的にリンクは切断されるので安全です。
また新しいキノコゴーレムのアバターを提供します。
ユリトは12人全員と仲良くなることができました。
信頼感は大事ですね。
そして一ヶ月も過ぎた頃、乙女たちに心境の変化が起き始めました。
「故郷に……行ってみたの」
「あたしも。こっそり」
「懐かしいよね。帰りたいな」
「ねぇユリト、相談なんだけど」
「……わかりました。試してみましょうか?」
乙女さんたちの姿、声、すべてをキノコゴーレムに転写します。
見た目を完全に同じに変化させ、本人代わりに故郷へと送り込みます。
不安と戸惑いがありました。
事前に可能な限り、故郷や実家への根回しはしておきます。
ユリト一人では無理でした。
王政府を通じた現地自治組織への通達、あるいは命令――。
時には荒っぽい手も使いました。
故郷に外国勢力や魔物などの脅威がある場合は、それを排除しました。
それには王国軍の強襲海兵隊、ヘルクートの出番です。
敵を殲滅し、安全を確保してもらいました。
貧しい村でインフラに不安がある場所は、ドムニカたちドワーフ工作部隊の出番です。
引き換えに、乙女の帰還を受け入れてもらいました。
困難は次々と無くなりました。
地ならしは順調です。
これで故郷にハーレム乙女たちが仮の帰還を果たす準備が整いました。
本人が帰る「お試し」ですが、現地では本人と見分けがつかないはずです。
けれど、新たに困った問題がもちあがりました。
王様はハーレムを閉鎖すると宣言したものの、王政府としては国際的な体面上、完全にハーレム殿が無くなるのも困る、というのです。
政治の世界はよくわかりませんが、ユリトはすぐに一計を案じました。
「そんなの簡単です。お役御免になったキノコゴーレムたちをハーレム殿に置いておけば良いのですよ」
「天才か君は!」
ひとりまたひとりと故郷へと帰ってゆくハーレム乙女たちの代わりに、本人そっくりのキノコゴーレムを配置します。
これで問題は解決です。
「もし、イジメられたら力をみせつけてやってください」
「ど……どういうこと?」
こっそりとささやくユリトに、メリアさんが目を瞬かせました。
「意地悪な継母、あるいは近所の意地悪なひと……。そんな人がメリアさんを困らせたら、キノコゴーレムに仕込んだ魔法を使って構いません。時にはガツーンと、力をみせつけてやればいいんです!」
いくら王政府が地ならしをしても、家の中の問題までは踏み込めません。
ハーレム帰りを快く思わないひとだっているでしょう。
本人の強さも必要です。
「うふふ……」
「あれ?」
メリアさんは可笑しそうです。
「ううん、ユリトくんって、やっぱり男の子なんだね」
「そ、そうですか?」
「でもありがとう。がんばってみる!」
メリアさんの意識は、故郷へと旅立ちました。
もちろん、本人はハーレム殿の中ですが。
本人そっくりのキノコゴーレムが家のドアを叩きます。
「……ただいま」
どんな会話が交わされているのでしょう。
やがて、一筋の涙がメリアさんの頬を伝い落ちました。
「メリア……さん」
けれど口元は微笑んでいます。
嬉しそうに、懐かしむように頷きます。
やがて夜になり、メリアさんはキノコゴーレムへのダイブを止めて戻ってきました。
「帰りたい。あの家に」
「わかりました」
静かにユリトの手を握ります。
こうして。
ハーレム乙女は故郷への帰還を決め、故郷への帰還を果たしました。
次回、最終回!




