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7.謎の美少女転校生ベル・ベチカ爆誕

 その日、ウェスホーク王国で最も権威ある学院では一つの噂で持ちきりだった。

 なんでも、この学院に編入して来る学生がいるらしい。

 まあ、こんな時期に? 何でも、没落した貴族のベチカ家の娘さんだとか。でもあちらのお家はもう散り散りになって娘を学院に入れる財産なんて残ってはございませんでしょう? ええ、そうなんです。こちらへの編入が許されたのはお金の力ではなくて知識の力なんですって。そのお嬢さんはそんなに頭がよろしいの? ええ、なんでも編入試験を満点で突破したとかで。まあ、満点で、そんなのあのコーネリアス様以来じゃないですか。いいえ、コーネリアス様は一点落としていらっしゃるの、だから。それじゃあこの学院初の満点での編入生ということですの?


 白で統一された石畳の道を一人の少女が歩いている。学院の中庭は先代の学院長が植物への造詣が深かったこともあり大小様々な草花で彩られている。

 季節によってその美しさを変える中庭はこの学院の中でも多くの学生達に愛されている場所だ。そんな中でも一際目を引くのが、まるでその愛を一身に受けて育ったかのような赤いバラのアーチだ。近年でも滅多に見ることのないほどに大きく咲き誇り、生徒にとどまらず首都の人々の評判に登る。

 そんなバラのアーチはおそらくこの日のために咲いたのだろう。

 この中庭を先代の学院長の頃から任されている老練の庭師は後に述懐した。

 間違いなくその少女をこの学院で最初に迎えたのはそのバラのアーチだった。だからこそその大役に恥じぬよう咲き誇ったのだ。まさに歴史の名画に引けを取らぬその一瞬のために。


 少女は西ノルスディアでは珍しい赤い髪をしていた。少し癖のあるその髪はしかし少女の落ち着いた容姿にひどく似合っていた。

 ノルスディアでは赤い髪の女は胸に情熱を秘めている、と言われている。有名なローゼリア婦人などは何人もの男と浮名を流し最後は痴情のもつれで死んでいる。それはあるる種の嫉妬と侮蔑を持って長く語られていた。それ故に赤い髪の女性を忌避する男性も多かった。

 しかし、それらは全て過去のものになるだろう。少女の端正で瑞々しい目元は知性とどこか儚さを相手に印象づける。白く小さなおとがいとその上に乗る桜色の唇は見る者の心を夢の中でさえ放さぬだろう。そして、それらを縁取る赤髪はまるでまだつぼみの赤いバラを思わせる慎ましさとしとやかさで少女の輪郭を形作っていた。


 少女がバラのアーチを通り過ぎる一瞬、今まで穏やかだった風がその時だけ強く吹いた。

 バラたちが祝福のベルのように一斉に揺れる。風に吹かれた赤い花びらが一枚舞い上がり、そして少女の頭にとまった。

 誰もがそのことを指摘できなかった。一秒でも長くその美しい奇跡のような瞬間を見ていたかったからだ。その時、その少女、ベル・ベチカが一体何を考えていたのかは彼女以外の誰にも分からない。



▼▼▼

(めっちゃすーすーする。スカートってこんなんなの? ちょっと無防備すぎじゃね? すね毛剃っといてよかったー)


 謎の美少女転校生ベル・ベチカもとい定金さだがねりょうは内心の恥ずかしさを心の中に留め、外見にはおしとやかに見えるよう注意しながら歩いていた。

 ここまでは万事うまくいっている。とりあえずなんかよくわからない没落貴族の隠し子を名乗ることで一応の身分は確保してある。没落した貴族なんて下手したらどこからか借金取りが現れかねないのだから誰も好き好んで名乗ったりはしない。一応そのへんは愛人の認知されていない子供ということで相続権が無いから関係ないと逃げ切れるだろう。

 あとは学院の編入試験だ。なにせ金など一銭もない身の上だから奨学金で学費の一切が免除される特待生にならないといけない。だがこれも大丈夫。

 なにせ『ノルスディア・シンデレラ・ストーリー』は全シリーズやり込んでいる。このゲームは無駄に、いや素晴らしく作り込まれているので編入試験の問題もゲーム中でやらされるのだ。

 よくわからないノルスディアの歴史の問題などは完全に暗記勝負で周回する度に問題が変わったりしてよく泣かされた。

 北部の蛮族だったノルスディア帝国が大陸の覇者に成れたのはなぜか? ノルスディア帝国を7英雄が僅かな手勢で帝王を討てたのはなぜか? 7英雄が大陸を征服しなかったのはなぜか? とか。

 正直どうでもいい何の伏線にもなっていない知識なのだが周回していくうちにりょうは完全に覚えてしまっていた。しかし、そのお陰で満点での編入に成功したのだから今は感謝しかない。


 知性と美貌、そして男心を完全に理解しているおっさんの頭脳を持ってすれば世の男どもを落とすことなど鼻毛を抜くが如し。これはもう玉の輿間違いなしだな、ガハハハ。


 外見はベルのように、心の中ではおっさん丸出しで定金さだがねりょうは勝利を確信し笑っていた。

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