6.『ただのホーランド』
ホーランド王子がホークロア本国でどのような評価を受けているか、少し説明が必要だろう。
以前にも説明したがホーランド王子は自分の生まれと才能と容姿と家柄とその他諸々、つまり自分を形作る全ての要素に自信を持っている。人が一つ二つであるところを全て、だ。
そうとうに嫌な奴であることが分かるだろう。
だが、ホークロア王国の一般王国民には実は王子は人気がある。意外だろうか? もしかしたら、王子と言う立場がそういったキャラクターを相応しいものと解釈されているからと思うかもしれないが、実際の理由はもっと単純だ。
一般に知られているホーランド王子の性格は義に厚く、部下を常にかばい、そのための苦労を厭わない、そんな性格なのだ。
嘘だ、とそう思われるかも知れない。
だが本当のことなのだ。ホーランド王子の自伝にそのように書いてあるのだから間違いない。王子の自伝『ただのホーランド』定価2銀貨に。
――『ただのホーランド・ジ・アニメーション』――
第145話
「うー秘法秘法」
今、この大陸に散らばる7つの秘法を求めて全力疾走している余は、何の変哲もないごく一般的なただの王子だ。
7つの秘法を集めることでこの世界で最も価値のある財宝へと導かれる。そんな御伽噺にロマンを感じる余をいつも仲間は笑っている。
「王子のいつもの病気がでましたね」
こやつは王室御用達の商人、タイコ・モチ。気のいい余の仲間だ。
「でも王子はそうでなくちゃ」
こやつは王室御用達の商人、ゴマス・リスリ。気のいい余の仲間だ。
「ワイは王子にどこまでもお供しますぜ」
こやつは王室御用達の商人、ダッツ・ゼイ。気のいい余の仲間だ。
みんな、みんな、余の大切な仲間だ。損得ではない、本当の絆で結ばれた余の仲間たちだ。
「王子、あっしが先に7つの秘法を集めときましたよ」
「おお、さすが余の仲間」
「王子、おいらが秘法に必要な碑石を持ってきましたぜ」
「おお、さすが余の仲間」
「王子、ワイが先に財宝への道程を調べて取ってきときましたよ」
「おお、さすが余の仲間」
絆で結ばれた余の仲間たちは本当に気が利いていて、本当にいい仲間たちだ。
余は仲間が持って来た財宝の宝箱を前にして感慨に耽る。思えば長い旅だった。朝、王城から出発して、昼は城下町の小洒落たレストランで昼食を楽しみ、そしてついに夕食前に財宝へと到達することができた。
本当に長く苦しい旅だった。しかしそれももう終わりだ。
余はゆっくりと右足を前に出し、次に左足を前に出し、そして次に右足を前に出した。どこからか勇壮な音楽が流れ出す。そして天から声が降り注いだ。
「CMの後、ついに財宝の正体が!!!!」
―どんなしつこい汚れもこれ一本。洗濯用洗剤のことなら、ホークロア王室御用達のモチ商会へ。
―生命保険、見直しませんか? 保険の相談はホークロア王室御用達のリスリ商会へ。
―まだ一人で悩んでいるんですか? 薄毛に効く洗髪剤はホークロア王室御用達のゼイ商会へ。
「王子は長い旅路の果てについにこの世界で最も価値のある財宝を手に入れた。果たしてその財宝の正体とは!!!!」
余は宝箱をゆっくりと開けた。
しかし、そこにはただ一枚の紙切れがあるのみ。まさか、そんな。苦しい旅の果てに待っていたのはただのガラクタだったのか。余が抱いていた夢はただの御伽噺だったのか。
余は絶望しながら紙を取る。そこにはこう書かれていた。
『財宝なら、もう手にしているよね?』
余はその言葉にはっとして周りを見渡した。見えるのはいつもの余の気のいい仲間たち。そうだ、余には仲間がいる。
仲間たちとの絆がこの世界で最も価値のある財宝だったのだ。
いや、仲間だけではない。余の愛する祖国、国民たち、ホークロアの文化、誇らしい歴史、ウェスホークの糞みたいな連中はさぞかし羨ましがるだろう、それらこそ本当に価値のある財宝なのだ。
さあ胸を張ろう、親善試合に負けたくらいでぐだぐだ言ってないで祖国への愛を語り合おうじゃないか。あと王室もすばらしい。優秀で自愛に満ちた王室についても語り合おう。君たちの好きな王室のいいところを100個ぐらいあげてみよう。お便り待ってます。最優秀賞にはなんと王子のサイン入りの原作本をプレゼント。どしどし送ってくれよなっ。
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どうだっただろうか? これで君たちも信じる気になっただろうか? これが今ホークロアで一番人気のクリスタル番組『ただのホーランド・ジ・アニメーション』の人気エピソードだ。
ぜったいうせやん、とそう思うかもしれない。
だが誓って言おう、これは本当のことなのだ。なぜならこの番組を視聴し、ヨキカナコメントをするのがホークロア国民の義務なのだから。