幕間1.王子は今日も絶好調
今日もホーランド王子は自慢の銀髪をなびかせ学院の廊下を闊歩している。
余が歩けば下々の者たちが立ち止まり見惚れる。それはいわば上に立つ者の義務。下々が上を見て羨望を覚えるのは血の尊さというこの世の絶対的な法則に従ったものに他ならない。
そういった法則に下々が不満を覚えぬよう、上に立つ者は美しく、気高く、賢く、勇敢で、才知に長け、気品があり、そして美しく、あとかっこよく……。
ホーランド王子は頭の中で自分を賞賛する言葉を思いつく限り並べながら歩いていた。
そうだ、余が素晴らしい人間だからこそ今も王子の座にいる。逆に素晴らしくないあのウルクは素晴らしくないから王子の座を追われた。つまりこの世界の法則がどちらが優れているのか示している。
ホーランド王子はもう何度も考えたか分からない結論に再度至り、歩く姿勢が余計に胸を張ったものになる。
だが今まで散々に比較され傷つけられてきたホーランド王子のプライドはその程度では完全に癒えることは無い。ほーランド王子は子供のころから隣国のウルク王子と主に性格の面で比較されてきた。そのせいもあって完全に逆恨みなのだがウルク王子が元王子となった今でも何とかして自分の方がその地位にふさわしい人間であると証明したかった。
だからこそこうしてわざわざこんな国にまで、ウルク元王子が落ちぶれた姿を見に来たのだ。そして、ダメ押しにウルク元王子が懸想していると評判のベルを自分に惚れさせ、その上でこっぴどく振る。そうして初めてホーランド王子の長年の溜飲とあの親善試合での屈辱が晴らされるのだ。
その瞬間を思い、ホーランド王子は思わずスキップで教室へと向かう。その後姿を学院の生徒たちは見つめ、そして口々に噂していた。
「あの方が?」「そうなんですの、中庭の肥溜めにダイブした」「ホークロアではそういう遊びが流行ってらっしゃるの?」「なんだかそこはかとなく臭いません?」「まあ不思議な文化ですわ」「あまり悪く言っては失礼ですわ」
同情と好奇の目がホーランド王子の背中を追う。それらは王子が予想していた尊敬の眼差しとは異なるものだったが、機嫌よくスキップする王子は幸運なことに気付いてはいない様子だ。




