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5.剣聖の孫の活躍・ドラゴン編 上

 学院が昼休みになると、待っていましたとばかりにウルク元王子がベルの元へとやって来る。


「ベル、今日のお昼は何かな?」


 飯が出てくることが当然といった表情のウルク元王子にベルは内心で苛立つがそれを学院で表に出すわけにもいかず、持っていた包を元王子に渡す。


「はい、こちらです。余り物で申し訳ないですが」


 一応、ベルは学院での体裁があるので如何にも献身的に元王子を支える貧乏貴族といった雰囲気を出しておく。

 包の中に入っているのは昨日の残りの焼きそばをパンに挟んだだけの例の焼きそばパンだ。ベルにはもう元王子の肥えた舌を満足させようなどという殊勝な考えは無い。できるだけ手を抜ける昼食えさを元王子にやることで義理を果たすことにしていた。

 しかし、焼きそばパンを受け取った元王子の反応はベルが予想していたものとは180度違う。


「おお、これは、焼きそばパンじゃないか。この甘じょっぱいソースがパンに染み込んで味に変化をもたらし、パンの柔らかい歯ごたえとソバのもちもちした食感が絶妙なグラデーションを作る。ああ、よだれが出てきたよ、ベル」


 ウルク元王子のキラキラとした目は嫌味で言っている人間のものではない、本音からの称賛であることが分かる。

 焼きそばパンを片手にスキップしながら去っていく元王子を見てベルはなぜだか無性にあの清ました面を殴りたくなった。


(あいつ、一ヶ月分の給料をギャンブルで溶かした分際で、お気楽なことを)


 そのささくれた心がベルに一つの誘惑きをささやく。以前から考えていたが流石に気が引けていた考え。だが、あの元王子を見ていると名案に思えてくる。


(やはり、あの剣聖の孫の方に乗り換えるべきか。なにせ王子と違って将来性はあるし、王子と違って金を稼ぐ手段はいくらでもあるし、王子と違ってコネは健在だし。いやしかし、まだ王子も王子に戻れる可能性はあるんじゃないか。しかしそれにはコーネリアスとの婚約を復活させる必要がある。いや待てよ、コーネリアスと王子をくっつけて俺が剣聖の孫とくっつけば丸く収まるじゃないか)


 そうだ、そうだよ。


 ベルは思いついた可能性を実現するためには何が必要か、脳みそをフル回転していた。



▼▼▼


「ドラゴン退治ですか?」

「そうなんですよ、学院長様。我がギルドにドラゴンの討伐依頼が来たのですが、生憎あいにくそのような大物を相手にできる冒険者が出払っているものですから」


 学院長は唐突にやって来た冒険者ギルドの責任者の話に相槌を打ちならが聞く。しかし、その言葉をそのまま鵜呑みにしているわけではない。

 ドラゴン退治と言えば大事業だ。兵員を大量に動員し、そのための旅食や回復薬、装備に運搬、お金がいくらあっても足りない。それを嫌って国からギルドへの依頼を学院に押し付けて来ている可能性は捨てきれない。


「しかしですのお、当学院も武術学科の教師は国軍に出向している者も多く、ドラゴン退治となるといささか荷が重すぎますじゃ」

「何をおっしゃっているのですか学院長様。聞いていますよ、何でもあの剣聖のお孫様がいらっしゃっているとか」

「いやいや、彼は一応学生の身ですじゃ。そのような危険な場所に送り出すわけにも」

「そこをなんとか、学院長様。ドラゴンの討伐と言えば国から勲章が贈られるほどの偉業です。それをこの学院、いや学院長様の指揮のもと達成されたのならそれはもう歴史に名が残りますでしょう」

「ワシの、いやこの学院の名が」


 学院長はギルド長の殺し文句に小鼻が膨らむ。


 そうだ、足りないのは名誉じゃ。最近、愛人のステファニーちゃんの態度がなんか冷たい。丁度、例の別荘の名義をステファニーちゃんの名前に書き換えた頃から、やれ猫が病気だの、母親が田舎から来ているだの、理由をつけて夜の逢瀬に消極的なのだ。

 その原因が今分かった。これは所謂、倦怠期というやつだ。ここで一発、ワシの名前が都にとどろけばステファニーちゃんも惚れ直すこと請け合いだろう。


 学院長は脳内に広がる桃色の未来を幻視してやに下がった顔をする。


「ぬふふふふ、よしいいであろう。その話、ワシが引き請け負う」

「ははー。学院長様のご威光で何卒よろしくお願いいたします」


 こうして普段からモンスター災害の対処費として多額の補助金を受け取っている冒険者ギルドは見事にその責務を学院に押し付けることに成功した。

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