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01:Hello.麗しく愛しき異世界よ

 私の家の横には山がある。裏じゃなくて横な。小学生の頃はよく、一人でも友達とでも入っていたものである。

 特に何をするでもないが、山というのはそこにいるだけで楽しいのだ。中学に入学し、高校を卒業するころには寄り付かなくなっていたが、おっと訂正。寄り付くも何も家の横なのだ。入らなくなっていた、が。


 山には砂防ダムがあって、そこに上るのが好きだった。砂防ダムの手前にある池にはトンボが飛び、蝉の幼虫が溺れ……よくもまあそんなところで二時間も三時間も飽きることなく過ごせたものだ。凄いぞ私。

 ともかく小学生の私は、夏休みの大半をトンボを眺めて過ごした。絵の具でトンボの絵を描いてコンクールにも出した。入賞はしなかったけどな。ちなみに私にはオニヤンマとギンヤンマの区別はつかないぞ。


 山は本当にいいのだ。森の香りは殺しの香り、なんていうけど、森林浴は本当に素晴らしい。フィトンチッド最高、大好き。大学生になった私は、久しぶりに山に行くことにした。なに徒歩三十秒だ。滞在するのも五分十分。柄にもなく昔を懐かしむだけ。


 ところで今の季節は夏ではなく秋。トンボはさすがに飛んでいないだろうが、秋の山ではどんぐりが見つかる。鹿が食べるので数はあまりないが、虫食いのない綺麗などんぐりを見つけるとテンションあがるよね。木の枝にくっついてたり、帽子がくっついていると尚更特別感があって良い。

 そうして私は今、例の山に来ていた。


 どう見ても、違った。


 まず植生が違う。なんだこのやたら白い木は。葉は薄緑、そして地面は平坦で、砂防ダムどころか川すら流れていないではないか。どんぐりはどこだ。紅葉もない。ついでに昨日も今日も晴れていたのに、やけに霧が濃い。

 ほんの数年、十年も満たないうちにお隣さんがこんなに豹変するなんて、あるはずがないのだ。様変わりしすぎだよ、整形でもしたのか?


 私は途方に暮れた。どこだここ。外国は行ったことあるけど、森には行かなかったから懐かしもうにも懐かしめない。マジで、ここどこ。


 五分だけと思って、スマホも何も持ってきていない。ちなみに今の服装は、白い長袖のカッターシャツに、黒いジーンズ、昨日買ったばかりのショートブーツ、寒いかもしれないからと引っ掴んできたぺらぺらの黒いロングコート。早朝だし誰にも会わないからとこんな格好になったわけだが、黒づくめの私は白い背景と妙にマッチしていて、もうなんだかどうでもよくなってきた。


 ふらふらと森を歩いていると、馬のいななきのようなものが聞こえた。少なくとも鹿ではない。鹿の鳴き声はもっと高い。母親が不気味だと言っていた。私はそうは思わないが。聞いたことはないけれど、イノシシでもないと思う。これはこう、なんとなく馬だと思わせる鳴き声である。

 でも日本って野生の馬いたっけ? 北海道ならいるのかもしれんが、ここは本州だ、多分。少し自信がなくなる。


 馬は草食のはずなので、襲われることはないだろう。だけど、本当に馬なのか分からない以上は、遠ざかるに越したことがない。鳴き声がどこから聞こえてくるのか、聞き分けることは私には不可能。霧は濃いけれど三メートル先くらいなら見える。しかしあたりまえだが馬は人間より早く走れるから、私が馬を視界にとらえた時点で私の負けが確定だ。なんたって真っ黒な私、すごく目立ちます。馬の標的にピッタリ!


 とりあえず近くに登りやすそうな大木があったので、二メートルほど登った。いい感じに葉も茂っていて、霧と相まってこれくらい登れば、相手からは見えないだろう。わたしも木の下が辛うじて見えるかなという程度だ。……相手が馬なら匂いで分かるか。

 念のためさらに一メートル登る。木が湿っているのがちょっと気になる。とりあえず待機。登ってから気が付いたけど、これってかぶれちゃう系の木じゃない……よね? かぶれる系なのだとしても、今降りる気はさらさらない。


 しばらくすると霧が薄くなった。晴れはしない。そしてタイミングよく馬がやってきた。

 やっぱ馬だった。とてもごつく見える。日頃見ることが無いので気のせいかもしれない。馬は黒いのと茶色いのが二頭、それぞれ上に金髪のにーちゃんを乗せていた。


 イケイケにーちゃんたちは騎士の格好をして、腰なにかぶら下げている。銃かな? 銃はぶら下げないか。じゃあ剣か。わおファンタジック。

 レイヤーにしてはずいぶんと手が込んでいる。どういう了見だ、こりゃ。


『いませんね』

『この霧の中、そう簡単には見つけられまい』

『ではもう少し探しましょうか』


 何か話しているようだが、私、日本語と英語は少しできてもそれ以外はさっぱり。ドイツ語なら話してるのがドイツ語だなってことは分かる。なんたって大学の第二言語ではドイツ語選択なんだ!

 それに中二病を発症すると、ドイツ語とかロシア語がやけにかっこよく聞こえて、勉強しちゃいますよね。


 中二病と言えばプログラミングにも手を出した。なんかカッコイイ! という理由だけで。小学生の時にホームページ作ってた関係でHTMLとCSS、JavaScriptはちょっと知ってたからJavaを勉強しましたね。JavaScriptとJavaが全然別物だとは思いもしなかった。

 初めて環境変数をいじったとき、それからおなじみHelloWorldを実行したときの高揚感は、一生忘れませんとも。あの経験が今に繋がっているような気もする。

 大学でやってるのはC言語だけど。


 話を戻すと、私はドイツ語とロシア語はドラマ見たりニュース見たりして独学で勉強したので、少なくとも三歳児レベルの語学力はあると思っている。でもフランス語だとかスペイン語だとか、ヒンドゥー語だとかは外国語だとしか認識できない。訂正、日本語だとしても津軽弁は無理だな。北の言葉は難しい。南の島々の言葉も。


 それからシングリッシュみたいに訛った英語も苦手。綺麗で簡単なアメリカ英語プリーズ。もしくは、きっちりかっちりしていて聞き取りやすいことに定評のあるイギリス英語、つまりニュースキャスターの喋っているようなキングス・イングリッシュに限る。

 中国語や韓国語でもないようだし、彼らが話しているのはいったい何語なのだろうか。


 暇なので私はかるーく思考を巡らせてみた。


 そうだな、妹と弟がやたらと勧めてきた異世界ものの本を思い出す。妹が勧めてきたのはもちろん女性もので、乙女ゲームの中に転移したり、貴族の令嬢に転生したりってのが一般的。そうでなければ聖女様扱いだとか、姫扱いだとか。

 そんでもって最終的には大体かっこいいにーちゃんとくっつくのである。社会的地位もそれなりに高い場合が多いな、あと逆ハーね。それでケモミミとか筋肉とか……ハイ。


 たまにBLが混ざってたのは気のせいだ。ビジネス・ロジスティクスを交えた小説なんて訳わからないからな、うん。


 弟が勧めてきたのは男性向け。挿絵を描いてるのが有名絵師だし、筆者も過去に何作も本を出してるからどうのこうの、などと力説された記憶がある。大体チートを手に入れ美少女とダンジョンを攻略したり冒険したりって感じ。スローライフものもあったかな?

 まあ、王道はハーレム。それから俺TUEEEEEしたりしなかったり。しなかったりというのは、例えば国の偉いさん達に見放されてからとんでもスキル持ちであることが、発覚することがあるじゃない? それで、そのとんでもスキルというのは戦闘には役立たないけど、スローライフにはもってこいってことがあるからね。俺TUEEE亜種とでも名付けることにする。

 それからやっぱ具体的なシーンは飛ばされてるけど、美少女や美人さんとしっかりですね、はい。お察しの通りです。


 で、はたして私の現状は?


 モンスターは多分いない。チート、はよく分からないな。魔法は……。


「アイテムボックス、オープン」

「風よ、我が剣となり標的を切り刻め」

「聖女的パワー発動!」


 ……ただの中二病だね! 何も起こらなった。主人公にしか見えない系のウインドウも見当たらないし、神の声も聞こえない。ついでに何か身体能力が向上した感じもしない。

 もしこれが異世界トリップだとしても、ただ単なるふつーのトリップだな。


 ともあれこの先どうしたものか。レイヤーじゃないならマジもんの騎士しかない。騎士が二人で何してるか? 魔女狩りに決まっているだろう。魔女狩り以外ない。私が黒づくめだから魔女だと思ったのだろう。この森がやたら白いのは、きっと神聖な場所だからだ。

 なんてバカみたいなことを考える。


 そもそもね、妹の貸してくれた本の中に、目先の位置に異世界人がいるのに見逃す騎士など出てこなかったのですよ。ふつーのトリップどころか、その日食べるものにも困っちゃう感じじゃないですか、これ。


 閑話休題。


 そろそろ木から降りようかと迷っていたら、先ほどこの木を通り過ぎた例の騎士たちが戻ってきた。

 最悪。彼奴らは私の上っている木の下で休むつもりなのか、木の下で馬から降りやがった。

 私は幹から程近い場所にいる。この人たちが木の真下に立って見上げたら見つかっちゃうよ? 粛清されちゃうよ? ヤバくね?


『それにしても今までならば、降りる前に星読みが予言していたというのに……何が起こったのでしょうね』

『降りた後だとしても、降りたという事実と場所が分かっただけましだ。早急に保護せねば』


 細身の方は、深刻な顔をしているが、大柄のほうはそうでもない。あ、騎士って頭上を確認せずに木の下で休むのか。おい待て、寝転ぶな!


『うわ!』


 私が止める間などあるはずもなく、大柄な方は寝転んで、そして叫んだ。そりゃ目先の位置に粛清すべき相手がいるんだもんな。一生の不覚だろうな。

 細身の方も唖然としている。驚いていないのは私だけ。


『異界よりお下りになられたテヤ神のいとしごよ。どうか我らにお力添えを!』


 ところで二人して私に切りかかるどころか、片膝を立てて片手は地に着け、いかにもへりくだったポーズをしている。本当にどういう了見だ、こりゃ。

 とにかく何か誤解されているような気がする。


「Raise your head, please!」


 私が悪い人みたいなので、まずはとりあえずなんとか頭を上げてもらおうと、咄嗟に英文をひねり出す。

 だが頭を下げたままの騎士さんズ。


「あー……。Please talk with me in English?」


 意味あってるかは知らないけど多分通じる。


「Can you understand my speaking?」


 通じるはず……。


「……Hello~. I'm a Japanese. Not Chienese.」


 なんで通じないの!? 私の発音、そんなにダメだったでしょうか? 英検は二級までしか取らなかったけど、その二級で面接ほぼ満点だったんですけど。九割越えだったんですけど。

 やっぱあーゆーのって当てにならないんだな。最近の中学生はジーテックとかいうのを受験するらしいし。企業でももっぱらTOEICの点数が見られるし。

 というかそもそも、異世界に行くと自動翻訳機能が働いて、言葉が勝手に変換されるはずで……。


 なるほど、もしかして日本語じゃないと自動翻訳機能は働かないのか。気を取り直してもう一度自己紹介だね!


「お二人とも初めまして、私は日本人です。大学生やってます」


 あかんわ。相手さんあっけからんとしてらっしゃる。

終始こんな感じの軽いお話です。完結まで毎日朝七時と夕方七時に更新されます。

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