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美人さんと私と番犬  作者: み〜さん
5/6

ピンクのレインコート。

遅くなりました。


話が何処へ行くのか………私にもサッパリですが。


よろしくお願いします。



 





「久兵衛です。」


『どうぞ、お入り下さい。』


 石造りの立派な門構えの扉がゆっくりと内側へ観音開きしていくのを私は呆然と見ていた。


 頭の中では大変だぁ!大変だぁ!と慌てふためいている。


 普通じゃ絶対見ること無いから!って言うか、私の知り合いにこんなスッゴイ門の有るお家の人いないですから!


 だいたい私の中のお金持ちは、他よりも少し大きなお家と剪定された松の木やお庭がちょっと広めで、外車が一台あって年に一回海外旅行に行けちゃう人達なの!


 今のコレは私の想像を越えてます!得意の妄想も思考拒否で真っ白です!


 私のプチパニックを他所に、車は開かれた門を進んでいく。


 ヘッドライトに浮き上がった道の両脇に連なる木々がまるでホラー映画に出てくるような禍々しさでおもわず身体が震えてしまう。


「大丈夫?」


 私の手の上に重ねていた巳月さんの手に震えが伝わったのか、心配気に覗き込んでくる。


「ハイ。大丈夫デス。」


 上手く笑えないながらもなんとかかえす。


 いったいここはどこなんだろう?


 巳月さんはどうして私を連れてきたんだろう?


 ヤダなぁ。ミラー越しの久兵衛の顔がずっと怖いんだよ。


 門を潜って五分ほどで現れたのは、立派な純和風建築の建物。


 大きな庇に間口の広い玄関の手前で車が横付けされた。


 ちょっとドキドキしてきたんだけど。


 いや、ちょっとじゃないかも。だって手に汗が滲み出てる。


「メイちゃん。」


 声をかけられて気が付いた。


 いつの間に車を下りたんだろう?私の方のドアを開けて手を差し出す巳月さんがニッコリと笑う。


「あの……ここ、わぁ?」


 汗ばんだ手をさり気なくパンツで拭っておずおずと差し出す私。


「そうだよね。いきなり連れて来ちゃったものね。」


 車から降りると、重々しい空気が身体に纏わり付くような感覚がして嫌な汗が背中をつたい落ちた。


 私の頭の中で危険を報せる警報がけたたましく鳴る。


 アレだは。お化け屋敷に入る前の感じに似てる。


「ここは鬼の住処だ。」


 その言葉に大袈裟なほど飛び上がってしまった私。


 だって、ちょうどお化け屋敷のこと考えていたから、久兵衛のシンクロに驚きが二倍で飛び上がったよ!


「少しでも後ろめたいモノがあるなら、今すぐここから逃げださないとーーーー」


 車を降りた久兵衛がニヤけた顔で言う。


「久兵衛!やめてっ!」


 繋いでいた巳月さんの手を咄嗟に握った私を落ち着かせるように、何度も頭を撫でてくれる。


「大丈夫。ここは私の祖父が住んでる所なの。」


「お、お爺さん?」


 ゆっくりと落ち着いた声で私に説明してくれる巳月さん。


「そう。まぁでも当たらずとも遠からずかしらねぇ。ガタイが良くて強面だから。」


 ヤッパリ鬼なんですかっ!


「取って食われるわけじゃないから心配しないで。メイちゃんは私と一緒にいてくれるだけでいいから。」


 そう言って歩き出す巳月さん。


 手を繋いでいるから行きたくないとは言えない。拒否は受け付けませんって女神様の微笑みでブロックされちゃうから今の私の気分は売られた仔牛。


 巳月さんが引き戸の扉を開けると、広い三和土がある吹き抜けの玄関で、式台の上の上り口に中年の女性が鎮座していた。


「お帰りなさい。巳月さん。」


 目を細めニッコリ微笑む女性が手をついて頭を下げる。


「由利さんただいま。武爺(たけじい)居る?」


 こんなお出迎えなんて初めてで驚きのあまり固まった私を余所に、巳月さんが話しを進める。


「夕餉をお召し上がりになっておりますわ。」


「そう。あ、由利さんこちらは私のお友達で林 愛芽さん。」


 いきなりの紹介に背筋が伸びます!


 慌てて腰の許す限り折り曲げてお辞儀をする。


「林 愛芽と申します。よろしくお願いいたします。」


 ガバッと上体を起こすと優しい眼差しの由利さんと目が合った。


「まぁ、可愛らしいお嬢様ですこと。よろしかったですわね、巳月さん。」


 微笑む由利さんに取り乱した私の気持ちが癒されていく。なんと言うか、ほんわかしたオーラ?こちらも自然に笑顔になっちゃう。


「さぁ、どうぞお上がりになって下さいまし。久兵衛さんもお帰りなさい。今日は秀征(しゅうせい)さんもいらっしゃってるのよ。」


「ゲッ!!」


「………久兵衛さん?」


 由利さんの笑顔が深まる。まったく違う由利さんのコレはーーー裏の顔?私でもわかるぐらいヤバイ笑顔の由利さんの背後からは黒いメラメラが見えるのですが………


 私の斜め後ろにいた久兵衛が口を押さえて明後日の方に視線を彷徨わせて、あからさまに動揺している姿が愉快愉快。


 アトラクション以外にも苦手な物があるとは、今日一日だけで大収穫!


「由利さん、部屋はどこ?」


「[白磁の間]でございます。巳月さん、お食事は?」


「すぐに終わるから、気を使わないでちょうだい。」


 靴を脱いで揃える巳月さんに倣って、


「おっ、おじゃまします。」


 ちょっと小さめの声を出してペコっと頭を下げて靴を脱いで上がった。




「これで四回ーーー」



 綺麗に磨き上げられた長い廊下を今で四回角を曲がった。


 これは撹乱?私が覚えられないように?イヤイヤ、する必要性がまったくありませんからね?


 奥に進んでいるんだろうと思うけど、右や左や階段やらでもう覚えてないよ?私。


 方向音痴じゃ無いけど、この迷宮を脱出できる気がまったくしないです。


「メイちゃん、今のうちに謝っておくわ、ごめんなさい。」


 私の前を歩いていた巳月さんが足を止めてガバッと頭を下げる。


「巳月さん?!」


「まったく説明無しで連れて来ちゃったし、これから武爺に宣言することもメイちゃんの許し無くやっちゃうから、ごめんなさい!ホントーにごめんなさい!」


 宣言?なんの?


「巳月さん、どうしてここに来たんですか?」


「それは、今言うと逃げられちゃうから、ねっ。」


 ウインクでごまかすなんて荒技!何処で覚えたんですかっ!


 もうもうっ!耐性できてないんだってばぁーーーっ!


 後退ってよろめく私の後ろにいた久兵衛に後頭部をカスっと叩かれた。


「久兵衛!」


「いいからサッサと行って終わらせろ。」


 目付きが悪い久兵衛の顔が()()()()()のように見えるのは私だけでしょうか?


 巳月さんが久兵衛を‘ギン’っと効果音付きで睨みつけると、私の手を引き歩き出した。


 またまた説明かっ飛ばしです。


 そしてもう一回角を曲がってたどり着いた襖の前で、


「武爺、巳月です。」


 言うと同時に‘タァーーーン!!’と襖を開け放った巳月さん!


「………襖は静かに開けんかっ!驚いて食べ物が喉に詰まった暁にはポックリあの世行きだろうがっ!ああっ?!」


「いっそ清く行ってしまいなさいよ!その方が未来が明るいわ。秀征さんお久しぶりです。」


「待て待て待て待てっ!先にワシに挨拶だろ!なぜ秀征にーーー」


「巳月も久兵衛も変わりないようですね。」


 広い座敷の床の間寄りに置かれた大きなコタツに厳ついお顔の大きな男性が二人。


 上座側には、短く刈られた白い髪と、睨まれたら一溜りもないだろう細く目尻の切れ上がった目と、大きな口は分厚くて、肌は色黒。言葉も久兵衛みたくとっても乱暴で声もダミ声。


 もう一人の方、秀征さんと呼ばれた方も身体が大きくて、髪が少し長めで目にかかるぐらい。でもお顔は柔和。目が細いのは同じなのに、優しく眉尻を下げて今もこちらを向いてニッコリ微笑んでいる。癒される感じが由利さんに似てるかな。


「おやおや?可愛らしいお嬢さんとご一緒とは、さてどちらのお連れかな?」


「私「おれじゃねぇ!」です!」


「ははは、元気でなにより。」


「何処のどいつをワシの許可無く連れ込んだんだ?巳月。」


 やめてェ!目力半端ないから!ダミ声に迫力満点だからっ!


 強い視線を少しでも躱そうと巳月さんの後ろへモゾモゾと移動してたら、腕を掴まれて巳月さんの前へと引き寄せられてしまって隠れることに失敗!


「武爺、私との約束覚えてますよね?」


「………急になんだ。」


「見つけて連れて来れば認めると。十五のときに約束したことです。忘れたとは言わせませんよ。」


 ちょっとイラッとした表情の巳月さんと、目力が増して負のオーラを放出する巳月さんのお爺さん、武爺さん。


「彼女は林 愛芽さんです。今大学一年生で彼女が約束の人です。」


「………お前も相当しつこいな。」


「当たり前です。私の将来がかかってくるんですから。」


「約束って、巳月が家出したときに売り言葉に買い言葉でタケさんがやけっぱちで約束したアレ?ですか?」


「ーーーーむぅ」


 口を尖らせ唸る武爺さん。女の子がやれば可愛いけど、武爺さんは怖さ三割増だからやめてください。


「武爺、私は愛芽さんと結婚を見据えてお友達からお付き合いさせていただくことになったの。約束通り他の女の話しは全部抹消してちょうだい。」


 ・・・・・うん?


「ーーーー証明は?どうやってそれを証明できるんだ?」


 今………何だかすっごいこと言ってなかった?


「できますよ。」


 無視できない言葉が超高速で私の目の前を通過したんだけどーーー?


「メイちゃん。」


 巳月さんが片膝を着いて私の前にしゃがみ込んだ。


 そして両手を取って握り込むと真剣な眼差しを向ける。


「メイちゃんには三歳離れたお兄ちゃんがいるわよね?」


「あ、はぁ…い。います。」


 いきなり何?!なんでタカちゃん??


「十二年前、メイちゃんが小学二年生のときの話しよ。お家の近くに公園があるでしょ?」


「どんぐり、公園?」


「そう。そこで男の子にメイちゃんの傘貸してあげたことーーー覚えてる?」


「え?いつのーーー」


「遠くで雷が鳴ってるのにメイちゃん、お兄ちゃんを迎えに来たって。」


 傘……雷……タカちゃん?


 どんぐり公園は遊具が沢山あって広くて、私の行ってた小学校の子達以外の子も来ていて結構メジャーな公園。


「雨がね、だんだん強くなってきてて、そのときメイちゃんはビンク色のレインコートとピンクの長靴履いて傘を二本持っていたの。」


 ピンクのレインコート?


 そう言えば、リボンとフリルが付いていて可愛くて一番のお気に入りだったレインコート、ピンクの長靴もレインコートに合わせて買ってもらって………あっ!


「はい、わかります。お気に入りのレインコートと長靴を初めて使ったときに会った雨宿りしていた男の子のことですね。」


 おぼろげに記憶にあるのは、雷と雨の中、大きな木の下で雨宿りしていた男の子に私のオレンジ色の傘を貸してあげたこと。


「その時に貸してあげた傘はメイちゃんの?」


「はい、私の傘を貸してあげたんです。多分その男の子には小さかったと思うんですけど、お兄ちゃんの傘は貸してあげれなかったから………私のオレンジ色の。」


 あのとき、レインコートと長靴がベストだったから、合わないオレンジ色の傘はあげてもいいと思ったんだよなぁ。あの後、傘が無いことがお母さんにバレて、怒られちゃったけど。


「ありがとう、メイちゃん。」


 そう言うと巳月さんが抱きついてきたから、


「うぉぁい〜〜〜っ?!」


 耐性できて無いからおかしな声出ちゃったヨォッ!


 なに?ナニ?この話そんなに重要なの?!


「武爺、もしまだ証拠が欲しいのであれば傘を持ってきますけど?名前もしっかり書かれてますから。」


 巳月さんが顔だけ武爺さんに向けて言うと、ムムムムッと顔を真っ赤にして唸って目の前に置いてあったグラスをとって一気に飲み干した。


「タケさん、年甲斐もなく一気飲みとは無茶ですよ。」


 ニッコリ笑って言う秀征さんを鋭く一瞥を向ける武爺さん。


「………変なところだけ似やがって。」


 グラスが割れるんじゃないかってぐらいの勢いで叩きつけるように置くと、凶暴な目付きでこちらを見る武爺さん。


 ごめんなさぁい!もういいですか?私今、背中にゾワゾワって寒気が走ったんです!怖いんです!慣れてないんですこういう環境も人も空気も!


「あなたの血も多少入ってますよ。不本意ですけどね。」


「巳月は蓉子さんに似たからね。どちらかと言うとタケさんの血は真弘君に強く出ているみたいだね。」


 外見に似合わず優しい雰囲気を作り出す秀征さんに、多分この場が保たれているんだと思う。


「ーーーーわかった。」


「では、よろしくお願いします。」


 私の拘束を解いた巳月さんが立ち上がり武爺さんに向かって姿勢正しく深々と頭を下げた。


 私も慌てて何だかわかんないけど、巳月さんにならって頭を下げた。


「巳月さん、良かったですね。まぁ、これからが大変だとは思いますが………久兵衛。」


「ーーーはい。」


 うわっ!居たんだこの人!後ろから聞こえた久兵衛の声に驚いて身体が飛んだ。


「後で。」


「………はい。」


 久兵衛はここに来てから静かだけど、どうした?


「行きましょう。愛芽さん。」


「巳月ーーーーいいんだな。」


 巳月さんに促されて部屋から出ようとすると、武爺さんに念を押すように声がかけられた。


 巳月さんが歩み出した足を止め振り向くことなくそれにこたえた。


「………今度こそ、絶対に守ってくだされば。」


 巳月さんを見れば何故か苦しげに眉を寄せ、少し上の方を見つめていた。


「ーーーわかった。」


 武爺さんの吐き出すよう出した言葉を背に、私達は部屋を出た。








後一話で一応完結です。


書き終わってますので投稿も直ぐさせていただきます。


読んでいただいてありがとうございました。

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