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美人さんと私と番犬  作者: み〜さん
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ひがんだっていいでしょ!

よろしくお願いします。

 





「巳月さん。有難うございます。」


 放心状態で部屋を出たあとエレベーターの中で覚醒した私は、巳月さんに頭をさげた。


 あっ、エレベーター下降中なの忘れてた。ちょっとふらつく。


 それを咄嗟に支えてくれた巳月さん。


「お礼なんて、私がメイちゃんにしたかったことだからいいのよ。喜んでくれたのなら私もすごく嬉しいし。」


 女神スマイルで返されて思わず腰が引けた。


 昨日の今日で耐性がつくほど人間できてませんから!


「えーーっ、あーー、その、こんなに良く……してもらっていいんでしょうか、私。」


 だって今日の費用は全部巳月さん持ち。


 ホテルのランチだって、さっき部屋で見た景色だってどれぐらいかかったのか私にはわからない。


「今日は初めてお友達として遊んだ記念日でクリスマスでしょ?ここで頑張ってメイちゃんの好感度上げないと。」


「でも、友達ならここは割り勘じゃないですか?」


「いいのよ。さっきも言ったけど私がメイちゃんにしたかったんだから。ね。」


 と華麗にウインクを投げてきた巳月さん。


 だからこの近距離でそういったことはやめて下さい!


 同性なのにドキドキしちゃうから!


「ーーーそれに先行投資は必要だわ。」


 口元を押さえて言った言葉が小さかったから聞こえなかった。


「えっ?なんですか?」


「………楽しかった?」


「ハイ!とっても!巳月さんは?」


「私はメイちゃんと一緒にいられるだけで楽しいし、嬉しいし、幸せだわ。」


 何故か薄らと頬を染めはにかむ巳月さん。


 これは世の男が放って置かない案件です!


 あっ、じゃなくて男女共にだ。うん!なんて罪作りな。


 ロビーを抜け金色の大きな自動ドアを抜けると、正面に横付けされた黒塗りの車ーーー久兵衛が運転席に座る外車が止められていた。


 私達が近づくと傍で立っていたドアマンが後部座席のドアを開けてくれた。


「ひゃぁ〜〜っ!なんか緊張しちゃう。」


「緊張?」


 ドア手前で立ち止まった私に並ぶように巳月さんも止まる。


「なんだかお嬢様みたいでしょ?」


 私の言葉に巳月さんは一瞬ポカンとしたけど、すぐにクスっと笑いを漏らし慈愛に満ちた表情を向けられた。


 と、その向こう側にいたドアマンの方も優しく微笑んでいた。


 なぁ〜〜っ!恥ずかしい〜〜っ!


「本当に、メイちゃんはーーー」



「巳月さん!巳月さんじゃないですか!」



 後方から飛んできた女性の声に、私も巳月さんもドアマンの方もそちらへと首を巡らせる。


「こんな偶然あります?私、運命を感じましたわ!」


 そう言って軽やかに歩み寄って来たのは、セミロングの茶色いゆるふわカールの髪を揺らし、潤んだ大きな瞳と小さな鼻と艶々ピンク色の小さな口。肌もつるんとたまご肌の巳月さんとはまた違う可愛い系の美人さん。


 ウエストまでの上品なキャメルの皮ジャケットにオフホワイトのニットのロングタイトスカートと黒のショートブーツというオシャレな出で立ちはスタイルが良いからか、嫌味が無い。


 対して私の服装は動きやすさを重視した大きめの黒のダウンジャケットにパーブルのVネックセーターとデニムパンツに黒のスニーカー。


 あ〜〜っ、同性なのになんでこんなに違いがでるのかなぁ。


 神様って結構平等じゃないよねェ。


 人間、なんだかんだ言ったところで結局外見なんだから。


 昨日それ実感したばかりだよ。


 どれだけ頑張っても、外見に目がいって中身の出来なんて二の次三の次。



 ホント、イヤになっちゃう………悶々とこんなふうにいじける私って最悪だよね。



「………こんにちは。麗華(れいか)さん。」



 アレ?気の所為かな?巳月さんの声、なんか硬い。


 そう思ってチラッと巳月さんの顔を見れば、笑顔なのに違和感が。あっ、目がチョット怖いかも。


「巳月さん、私今から家族と食事するんです。よろしければ巳月さんもご一緒にどうですか?」


 巳月さんを見つめる目がキラキラして見えるのは錯覚かしら?


「ごめんなさいね。今お友達と一緒なの。」


「ではお友達も一緒にーーー」


「私たちもこれから食事に行くの。だからごめんなさい。」


 あの女神の笑顔ではないけど、にこやかにこたえる巳月さんの顔をジッと見つめていれば、チラッと視線を寄越して目を優しく細める。


 知ってる巳月さんにチョット緊張していた気持ちが緩んだ。


「でも折角お会いしたのにお誘いできないなんて私、父に叱られてしまいます。」


 見るからにシュンとなる女性に、私の中でまたまた芽生えるモヤモヤとした罪悪感。おかしいよね。さっき彼女の綺麗な見た目にイラってなっていたのに。


 ヤダヤダ。久兵衛の言ってたこと、思い出しちゃう。


 でも、私はーーー今日一日とっても楽しく巳月さんと一緒に遊べたから、ここでお開きでも構わないかなぁ………と、見上げて口を開けたところで巳月さんの美しい人差し指が私の口に押し当てられて、不純な動悸と目眩に襲われてしまった。


「ごめんなさい。こちらが()()()なの。」


 そう言うと私の背中に手を回して車の中へと促す。


「では失礼。」


 巳月さんは軽く会釈して車に乗り込もうとした。


「巳月さん!でしたら今度私と一緒に出かけて下さい。」


 車に乗ってしまった私からは女性の顔を見ることはできないけど、縋り付くような必死さが声に出ていて、私の胸に罪悪感の痛みが走ります。


 ああっ、そうかとここでやっと気が付く私!


 この女性は巳月さんが大好きなんだと。それも『好き』を通り越して『愛』の方で。


 するとまたしても不純な動悸と目眩がして、頭の中で想像が膨らむのです。



 〜〜〜愛芽の妄想〜〜〜



 色とりどりのバラに囲まれた美しい庭園。


 そよぐ風に乗って花びらが舞い、芳しい芳香に包まれた中で、可憐な少女が胸の前で手を組み瞳をウルウルさせ『お姉様』と呟いた。


 陽光がキラキラと二人に降り注ぎ、まるで敬虔な宗教画のようで何人(なんびと)たりとも立ち入ることを憚れるほどで。


 巳月さんの黒く艶やかな髪がサラサラと風に舞い、凛とした佇まいで腕に抱えたバラの中から一本黄色いバラを取り出し、スッと女性へ差し出すと『あなたの想いには応えられないの。』と言って背を向け、バラの花びらが舞う庭園を華麗に立ち去って行った。


 一人残された女性は美しい涙をいく筋も流し去っていく巳月さんの背中を一心に見つめていたが、手に持つ純白のハンカチでわななく口を押さえると、嗚咽を漏らしその場に崩れ落ちた。


 庭園のバラ達が慰めるように花弁を振るわせ、優しく凪ぐ風が女性の冷たく凍える心と身体を暖かく包み込んだ。



 〜〜〜妄想終了〜〜〜〜




 ………ああっ、イケナイ想像が止まらないっ!


 なんて私が暴走してる間に、


「それは以前からお断りさせていただいてますから。」


 言い終わるとスルリと車に乗り込み、ドアマンに視線を送り車の扉を閉めさせると、久兵衛がそれを見計らいゆっくりと車を発進させその場を後にした。





「巳月さん、よかったんですか?」


 隣に座る巳月さんを見れば、知り合ってから( 昨日からのお友達だからまだまだ巳月さんのことわかって無いンだけど ) 初めて見る硬い顔。


 前を向いたまま何か考えごとなのか、私の声がこの近さで届いていない。


「ーーー絶頂から奈落に突き落とされた感じだな。」


 運転する久兵衛の呟きが聞こえた。


「どう言うことですか?」


「そのまんまだ。」


「はぁ………?」


 よくわからない言葉に困惑していると、低い声で巳月さんが言った。


「久兵衛ーーー」


「………ああ。」


 息を吐く久兵衛の声もなんだか硬く聞こえる。


 車内の空気が張り詰めた感じがして緊張しちゃう。


 ヤダなぁ。


 小さく息を吐いて窓の外を流れる景色を眺めると、街の中はまだクリスマスの装飾で色取られていてキラキラ輝いている。


 さっきまで私もキラキラしてたはずなのに、今はよくわからないモヤモヤが私の中で蠢いている。


 この後、巳月さんのお店に行って夕食をご馳走になってから家に送ってもらうことになっているけど、ちょっと居づらいしこのまま帰っても私的には問題無いからそう言ってみようかな。


 なんて考えてたら、シートについていた私の手に巳月さんが手を重ねてきた。


「メイちゃん。行き先変更していいかしら?」


「オイ!それはオレにまず言え!」


 間髪入れず久兵衛が言う。ミラー越しに映る久兵衛の顔が嫌そうに歪んでる。


「メイちゃん?」


 眉を力無く下げてお伺いを立てるように聞いてくる巳月さんに嫌とは言えません。


「………どこ行くんですか?」


 私の返答に神々しいほどの女神スマイルで返す巳月さん。


 だから耐性できていないんだってばぁぁぁっ!


「久兵衛、椿屋敷に向かってちょうだい。」


「巳月?!」


「早く行かないとジジイは寝ちゃうから、急いで。あっ、でもメイちゃんがいるから法定速度は守ってね。」


 少しだけ沈黙した久兵衛が大袈裟なぐらい大きな息を吐き出しクビをゆるく振る。


「巳月そいつはまだ、」


「決めたの。久兵衛、私は()()()()。」


 ミラー越しにぶつかる二人の視線に火花が見えるような錯覚がする。


 ここにきて会話がまったく理解できない私は、さらに悪化した車内で身の置き場を無くしております。


 なんで?どうしてそんなに怖い空気出してるの?二人とも。


 そっと身体をドア側へとにじり寄って窓の外に目を向けると、飛び込んできたのは緑色の看板に白抜きで書かれた[高速]の文字。


 ………私、何処に連れられて行くんでしょうか?










次が最後になるはずですーーーハイ。



読んでくださってありがとうございます

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