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美人さんと私と番犬  作者: み〜さん
2/6

お友達からお願いします?


よろしくお願いします。

 




 ………戻って来てしまった。………。



 カウンター越し、満面笑顔の前門の超美人さん。


 対して私の後ろのソファーに座って殺されそうな視線を向ける後門のヤクザ、久兵衛。



「はいどうぞ。」



 目の前に出された湯気の立ち上るカフェオレ。


「熱いからゆっくり飲んでね。」


「ーーー有難うございます。」


 お店に戻って直ぐ、薬を塗るためにお化粧を落としてと言われ、拒んだ私に後ろのヤクザにガミガミ言われて、結局お化粧を落として消毒して薬塗ってガーゼして、その上から冷えピタ貼ってズレないようにテープで大きくバッテンされた姿でカウンターのイスに座っております。


 ………コレは何の罰ゲームですか?


 なぜ見ず知らずの、ほぼほぼ初対面の人達にすっぴんを晒さなければいけないのか………。


 そもそも、この超美人さんが私に絡まなければ後ろのヤクザから暴言を聞くことも無かったし、おデコを強打することも無く、すっぴんになることも無かったんだ。


 カフェオレの入ったカップに両手を添えて冷ますように息を吹きかけながら思う。


 カウンターを挟んだ向こう側から目を細めて私を見ているこの超美人さんはいったい何が目的なのか。


 初対面の女の子にいきなり抱きついてそのまま本人の意思無視で強引に連れて来るなんて。


 いや、私も大きな声を上げるとか?思いっきり抵抗するとか?そうすれば今の状態は無かったんじゃぁ……って、思うけれども、今思い起こしても逃れられたかどうかは微妙だなぁと思う訳で。


「………雪ウサちゃんは猫舌なの?」


 いつまでも冷まし続けて口にしない私に、瞳を瞬かせる超美人さんがサラサラ黒髪を揺らして首を傾げる。


 チラッと見ればニコッとする超美人さんに改めて私は思う。


 超美人さん、背が高いし肌綺麗だし顔小さいしスレンダーだし私を抱いて歩くぐらいの力持ちだし、まぁマイナス要素としては胸が小さい?かな?


 後ろから抱きつかれても………うん。コート越しだけど胸は感じなかった。


 でも、それを差し引いてもその辺の、いや下手な芸能人なんて目じゃないぐらいの超美人さんだ。


 まぁ、視力の悪さとおかしな言動と突飛な行動はいかがなものかと思うけど。


「雪ウサちゃん?また眉間にシワが寄ってるわよ?おデコ痛む?」


 カップを手にして湯気を見つめていた私は少し顔を上げて上目遣いで超美人さんを見ながらボソボソと声を出した。



「それーーーなの……です、がぁ。」


「うん?」


「………雪、ウサちゃんって………」



 超美人さんが私に伸ばしかけた白魚の手を止めてキョトンとなった。


 うん。可愛い。超美人さんだけど可愛い。


「あっ、………えぇっと、ほら、帽子の丸いモフモフがウサギの尻尾みたいで、上着も白いファーが付いてるでしょ?見たときに雪ウサギだわぁって思ったの。で、雪ウサちゃん。」


「はぁ………」


 確かに白のベレーには丸いモフモフが付いてる。


 コートも襟と袖口に白色のファーが付いているけどコートは白色ではなくオフホワイト。そうか。私の後ろ姿に可愛いと思ったのね………まぁそんなもんよ。


「ゴメンなさい。雪ウサちゃんなんて馴れ馴れしいわよね。」


 綺麗な眉を下げて本当に申し訳なさそうな顔を向ける超美人さん。


「雪ウサちゃんがすっごく可愛らしくて思わず抱きしめちゃったのは、ごめんなさい。警察呼ばれても訴えられても私、何も言えないわよね。」


 そう言って胸の前で手を組む超美人さんにまたしても湧き上がる罪悪感。


「知らない人に背後から抱きつかれるなんて恐怖よね。」


 何故だろう。私が悪いわけじゃないのに、すっごく居た堪れない。


 それになんだか後ろからの視線も痛いし、私が一言気にしませんって言えば丸く治るのかな?


「やらかしておいてなんだけど、雪ウサちゃんとお友達からお願いしたいの。」


「なっっ?」


 お友達?


「ダメ?かしら。」


 伺うように私を見る超美人さんの目が不安気に揺れてる。


 やっぱり私がイジメているみたいに感じるんですが?


「ーーーダメと言うか、どうして私なんでしょう?」


「可愛いから!!」


「即答って、それおかしいです。」


 私の言葉にショックを受けた超美人さんがカウンターに両手を付いて項垂れた。


 可愛いなんて臆面も無く言う?


 超美人さんって本当に目が悪いの?それとも感覚がズレてるの?


 もう、言われた方が恥ずかしいよ。


「巳月がなりたいって言ってんだ、アンタは有り難くそれを受けりゃいいだけだろ?何の不都合があんだ?」


 割り込んできた声に過分んな含みがあるように聞こえるのは幻聴だろうか?でも怖くて後ろを向くことができない。


「返事!」


「ハイ!!!喜んでっ!!!」


「久兵衛!!」


 咄嗟に返事しちゃったよぉぉ!それも背筋シャキーンってなって右腕まで上げちゃったよぉぉ!


「ごめんなさい!強要したいわけじゃないから、久兵衛が言ったことは忘れて頂戴。」


 そう言って頭を下げる超美人さん。


「喜んでって言ってんだからそれでいいじゃないか。」


「久兵衛は黙って!」


 おおっ、怒った超美人さんも美しい。


 後ろから怒られた久兵衛( 敬称がもったいない!)の念仏が聞こえるけど怖いから振り返りません!


 でも、良い気味だ。


「ホントごめんね。久兵衛のことは無視していいから。」


「オイ!」


「雪ウサちゃんとお友達になりたいのは本当よ。でも、私も強引だったから………これから少しずつでいいの、私のこと知ってもらいたいかなぁって。ホラ、今日で顔見知りにはなったでしょ?」


 伺うように向けられたすがるような目。


 あっ、瞳の色、薄い茶色に緑色が混じっていてちょっと変わってる。


「………顔見知りも、ダメ?」


 綺麗な眉毛が下がって情けない表情なのにやっぱり美人で、ダメ?と言われちゃうとダメじゃないなぁって思っちゃったから仕方ない。


「私、林 愛芽(めい)です。雪ウサちゃんなんて呼ばれるの恥ずかしいので、愛芽って呼んでください。」


 頭を下げてへへって笑う。だって、なんだか照れちゃう。


「メイちゃん!なんて可愛らしいの!ピッタリの名前だわ!」


「あ、ありがとう、ございます。今日から………そのぉ、お友達よろしくお願いいたします。」


「私は橘 巳月(みつき)と言います。こちらこそ、ありがとう。私のわがままを聞いてくれて。」


 そう言って差し出された右手に、モジモジと私も右手を出して握手する。


 するとギュッと強く握り込まれてブンブン腕を振られた。


「ところでメイちゃん。明日の予定は?」


 振られる腕の振動で身体がぐわんぐわんしてる中、超美人さん、もとい巳月さんが聞いてきた。


「あっ、明日は………予定は無くてーーー」


「じゃあ、【チューチュー王国】に行きましょう!」


「へっ?」


「オイオイ、マジかよぉ。」


 なんですか!この急展開!?


「だって仲良くなるなら手っ取り早く童心に返っちゃえばいいと思うの。お友達宣言したけど私とメイちゃんの間には見えない幾つもの壁が立ち塞がってるでしょ?それを一気に取り払うには思いっきり楽しむのが一番じゃない?」


「勘弁してくれ………」


「あら、久兵衛はついて来なくてもいいわよ?」


「うンなわけにはいかんだろぉが。はぁぁっ、なんてこったぁーーー」


 えっ?えっ?えっ??


「あの、あの?」


「メイちゃんは一人暮らし?それとも実家?」


「エッ?実家です。」


「危機管理も無いのか。」


 久兵衛の言葉に巳月さんがギッと睨みつける。


「じゃぁ、明日お家に迎えに行って親御さんにちゃんとご挨拶しなくっちゃね。」


 すっごく良い笑顔で言う巳月さん………気の所為じゃなく顔がほんのりピンクなんだけど?なぜ?


 じゃなくて!話の展開が早いんですけど?!


「ああああああの!私、指定の駅まで行きます!行けます!そそそそそそれに!ご家族にご挨拶って!」


「お友達になったんですもの、ちゃんとご家族の方達に私が怪しい者じゃないって、知って貰わないと。だって、これからもいろいろと遊びに行きたいでしょ?メイちゃんと。安心してもらうためにも私をちゃんと知ってもらわないと駄目でしょ。」


「・・・包囲網・・・」


「きゅぅーべーぇーーーっ!」


「みみみみ巳月さんにそこまで気にしてもらわなくても!」


 イヤイヤイヤイヤ、お友達で両親に挨拶って聞きませんから!


「最初が肝心って言うでしょ?この先ずっとお付き合いさせてもらうのに何処の馬の骨だって思われたくないもの。」


 真剣なお顔で巳月さんが言うからこれ以上拒めないよ。


 いいのかなぁ。私がこの綺麗な人のお友達なんて。


「と!言うことでメイちゃん?スマホ?」


「はい?」


 すっごく嬉しそうに右手を振る巳月さん。


「フルフルしましょう!」


「………」


「私ね、お友達とフルフルするの初めてなの!」


 ふふふっと笑いを漏らした巳月さん。


 マジか。


「オレとやっただろう。」


「久兵衛はお友達じゃないもの。さっ!メイちゃん!」


 ズボンの後ろポケットからスマホを取り出して催促するように振ってみせる巳月さんの瞳が期待でキラキラと輝いている。


 私は鞄からスマホを取り出しながら小さく息を吐いた。


「オレともな。」


「ダメっ!久兵衛はダメよ!メイちゃんは私とお友達なんだから!」


 ねぇ〜っと巳月さんが顔を私に近づけてきた。


 そして私は近づいた分だけ身体を後ろへ仰け反らせた。


 だって!超美人を間近で見るなんて神々しくて今の私には無理です!



 それからは “ お友達 ” を盾に私の個人情報が暴かれ ( 誘導尋問が見事でした )何故かずっと久兵衛に睨まれガラスのハートをゴリゴリすり減らすことに………。


 でもその後、巳月さん手作りのすっごく美味しいドリアをご馳走になり、帰るときには夜道が危ないからと車で送ってもらうことに。


 車は世間一般で言うところの高級外車。運転手は久兵衛。後部座席に私と巳月さん。


 車内で、巳月さんに話しかけられているのにミラー越しに鋭い視線を送ってくる久兵衛が気になって、ほぼ右から左だったのは言うまい。




 家に着いて、お風呂に入って思い出した。



「私今日、優希君に振られたんだ。」



 最悪なクリスマス・イブのはずなのに、巳月さんや久兵衛のお陰?で、今まですっかり忘れていたなんて。


「ヘンなの。ふふっ」


 優希君と付き合って半年。大好きだったから一方的な言葉にすごくショックだったはずなのに。


 もっとドロドロでぐちゃぐちゃで、すぐに立ち直るなんて無理!って、普通はなるんじゃないの?


 なのに今の私は別れたことさえまるで他人事。


 でも………優希君の顔を見たら胸が痛んで悲しくなって号泣したりするんだろうか?


「ショックが大きくて、処理能力が追いつかないのかな?」



 短時間でいろいろ有り過ぎて、きっと気持ちが麻痺しているんだと無理無理自分に言い聞かせた。




「あっ、そうだ!」


 明日は朝七時に巳月さんが家まで迎えに来てくれるから、五時半には起きて用意しなくては。


 髪と服選びに時間がかかるんだよね、私。


 おデコの腫れが明日もひかないなら前髪で何とか隠さないとなぁ。


 超美人さんな巳月さんと外見が良い久兵衛が一緒だから、きっと注目を集めちゃうよね。私は目立たないように気を付けないと。悪目立ちして呪いをかけられるなんてゴメンだもんね。


 お風呂から出て顔をやって髪を乾かしてベットに入る。


「あっ、身体に保湿クリームしてない!」


 毎日お風呂上がりに塗っていたクリームを今日はすっかり忘れてた。


 ガバッと起き上がって足を下ろそうとして、


「………そっかぁ、もういいんだ。」


 息を小さく吐き出してゴソゴソと布団の中に戻った。


 ………らしくないことしてたんだなぁ、私。



 もういいや。



 明日のためにとにかく寝よっと。








読んでくださってありがとうございます。



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