突然拉致されましたけど??!
ごめんなさい。
唐突に浮かんで衝動で書きました。
温かい目で読んでくださればうれしいです。
「どぉしよっかなぁ………。」
吐き出した言葉は白い息と一緒に空気に溶けた。
胸に重くのしかかる負の感情。
コレが目に見えて物体として触ることができたなら、ちぎって地面に投げつけてこれでもかっ!てぐらい足で何度も踏みつけてやるのに。
「本当。どうしよう。」
お店から漏れてくるクリスマスの曲も、駅前のイルミネーションも、サンタの衣装を着たピザの配達の人も、ケーキの箱を持ったサラリーマンも、駅前ロータリーの光景は今の私には視界の暴力でしかなくて、ふらふらと目線を足元へ移せば手に持った薄いブルーの紙袋が映り込む。
それは渡し損ねたクリスマスプレゼント。
中身はブランド物のキーケース。
何ヶ月も前から何をプレゼントするか悩んで決めた贈り物。
すると胸を押し潰す重みが更に増す。
この気持ちをどうやって散らせばいいのか………。
私、林 愛芽は今から一時間前に無情にもフラれた。
大学生になって初めてできた彼氏と、初めて家族以外と過ごすクリスマス・イヴだったのに。
約束の4時を少し過ぎてやって来たのは、きゃっきゃとはしゃぐカップル。
その片方は間違いなく私の彼氏で、それまでニヤけていた顔が私を見るなり目をすがめ「彼女と付き合うから」と簡単に吐き捨て、私がフリーズしてる間にさっさと居なくなっていた。そう、文字通り捨てられた。
一人取り残された私は呪いにかけられたみたいにこの場所から動けなくって、相当なダメージなのに。
「どうしよう………。」
さっきから口をついて出る言葉に意味は無くて、胸の中でとぐろを巻く重い塊を吐き出したくて、無意識に繰り返しているだけ。
「どうしたらいいかなぁ。」
何度目かの溜息と言葉を吐いて顔を空へ向けたときだった。
「やっだぁ〜!こんなところにウサちゃん発見!」
と言う声が聞こえた途端、
「のぉあーーーーーーっ!!」
いきなり背後から抱き上げられたぁっ!!
「真っ白な雪ウサギちゃん!フワフワいい匂い〜〜」
怖い怖い怖い怖いーーーーっ!匂い嗅がれてるぅーーーっ!
身体が拘束されて動かせない!
両足バタつかせて逃れようとしても離れてくれないっ!
「ふふっ。ウサちゃんの足キックも可愛い。」
イヤっ!!違うからぁぁっ!
「うん?ウサちゃん、お手々が冷たいわね?」
そう言うと私の身体をクルンと回転させて向かい合わせにされた。
「ほっぺが真っ赤。アラ、お目々も真っ赤。ウサちゃん可愛い。」
ニッコリと笑う超美人が目の前にいました!
「寒いでしょ?私のお店直ぐ目の前なの。ちょっと暖まって行きなさいよ。ねっ。」
新手の勧誘?!ってプチッとパニックになっていると、超美人の腕に拘束されたまま連れて来られたのは、駅前ロータリーの道向こうの通り沿いに建った細長い雑居ビルの二階にあるちょっとレトロな雰囲気の喫茶店。
入った途端、暖かい空気とコーヒーの良い匂いに包まれて、それまで胸を重く支配していたモノが少し軽くなったように感じた。
こぢんまりした店内を突っ切って、カウンターのイスの上にちょこんと下される。
「コーヒー飲む?あっ、それともココア?う〜ん雪ウサギちゃんはホットミルクかしら?あ〜んでもぉ気持ちを落ち着かせるためにハーブティーがいいかしら?待って、案外ミックスジュースが良かったりするかしら?ねっ、何がいい?」
着ていたロングコートを椅子の背に掛けると、黒色の胸当てエプロンのタスキを首に掛けながらカウンターを挟んだ向かい側にやって来る超美人さん。
耳下で切り揃えたベリーショートの髪は艶やかな黒色。
ニッコリ微笑む瞳は猫の目のように目尻が切れ上がっていて、スッとした鼻と薄い口。お顔も色白の小顔。
お化粧は何を使っているんだろう?
肌がとっても綺麗。
透き通るってよく聞くけど、実物は初めて見た。
お肌のお手入れはやっぱりエステに行ってるのかなぁ。
「雪ウサちゃん?大丈夫?何だかお顔が難しくなってるわよ。」
そう言って私の眉間を超美人の白魚の指がシワを伸ばすように撫で撫でしてくる。
「「 ・・・・・・・ 」」
暫しその状態で見つめ合う私と超美人さん。
「雪ウサちゃん?」
「…………のぉわっっ?!」
目の前で手を振られて覚醒したらヘンな声が出ちゃった!
ヤダやだ!私ってばなんで大人しくここに座ってるの??
急に酸素が回って物事考えれるようになったら色々不味いんじゃない?!私!
そう思ったらいきなり身体が動き出して、慌てて椅子から降りようとしたらこのイスが高くて足がガクンて崩れちゃってそのまま倒れ込んだら顔面強打ーーーーーっっイタぁぁぁっ!!
「やだ!雪ウサちゃん大丈夫?!」
鼻じゃなくておデコがが痛い!て、鼻がおデコよりも低いってこと?!信じらんない!すっごく恥ずかしいじゃないのぉ!
「大丈夫?お顔打ったの?見せてみて。」
蹲った私の横に跪く超美人さんが顔を覗き込んでくるのがわかる。
でも無理!痛さ半端なくて、息ができないのっ!今動くなんて無理!ムリ!あーーん!痛いヨォーー!
「ケガしてたら大変だから、ねっ、お顔を見せて。」
そう言われたと同時に私の身体が持ち上げられて、何故か超美人さんの膝の上に!
「さぁ、手を退かして見せて、雪ウサちゃん。」
顔を覆う私の手に超美人さんの温かい手が添えられると、痛さで力が入っていた手があさっさりと外れて、心配気な表情の超美人さんと目がガッツリ合った。
美人さんは眉間にシワが寄っていても美人だった。
「まぁまぁ、可愛そうに。おデコが赤くなってる!コレ腫れてくるかしら……ああっ、お目々に涙溜めちゃって!痛かったわよねぇ。待ってて、今冷やしてあげるから。」
超美人さんが私を抱えて立ち上がると、テーブル席に移動して1人掛けのソファーに下ろしてくれた。
「ちょっと待ってて。」
慌ててカウンターの中に戻って行く超美人さん。
「もう………。」
私が自分でしでかした所為なのに、どうして超美人さんがアワアワするんだろう?
ガンガンするおデコにソッと手をかざすと、強打したあたりが熱を発しているのが感じられた。
大きく息を吐き出して目に溜まった涙を拭う。
こんなだから優希君にもフラれちゃったのかなぁ。
顔もスタイルも十人前。気の利いたことなんて緊張で皆無だったし、初めの頃は毎日優希君が会いに来てくれていたのに今月は今日を合わせて三回しか会えてない。つまりはそう言うことだったんだ。
すでに乗換えが成立していたんだ。
頑張ってバイトしてクリスマスプレゼントなんか買っちゃって、ばかみたい。
………一緒にいた女の子、可愛かったなぁ。明るくてオシャレな感じで。
でもこんな私に付き合おうって言ってくれたのは優希君からなんだよ。
私、告白されたこと無いから舞い上がっちゃって、優希君のこと良く知らないのに即効オッケーして香澄ちゃんに怒られちゃったけど、でも直ぐ好きになって、優希君に釣り合うように髪形も、お化粧も服装も話し方だっていっぱい勉強して、自分ではマックス頑張ったと思ってたのに。
………思ってたのに。
「雪ウサちゃん!取り敢えずコレで冷やしてて。私、
角の薬局までひとっ走りして来るから!」
早口で捲し立てる超美人さんに渡されたのは、砕いた氷を入れたビニール袋をタオルで巻いた物。
「あの、私帰りますからーーーー」
何だか申し訳ない気持ちが湧き上がってしまって、ソファーから腰を浮かせたけど、
「ダメよ!ここで大人しく待っていて!直ぐ戻るから!」
ソファーへやんわりと押し戻されてしまった。
「久兵衛!雪ウサちゃんを頼んだわっ!」
「へぇ〜っ、了解。」
いきなりの第三者登場に体が飛び上がった。
えっ?!他に居たの!?
声のした方をみると、ナント!向かい側の二人掛けソファーの端っこに男の人が!!
慌ただしく出て行った超美人さんの騒音を耳にしながら、私はその男の人をガン見していた。
茶色い髪はクセなのか緩くうねっていて肩に付くぐらいの長さ。
縁の無い眼鏡の奥の瞳は切れ長でぱっと見怖そうで、白いシャツにベストとスリムなパンツは少し光沢のあるダークグレーの揃え。
幾つぐらいだろう?男の人の歳ってよくわからないけど、三十ぐらいかなぁ。
………久兵衛って言ってたけど、ホントの名前?
ソファーの縁に身体を斜めにもたれ、新聞を畳んで読んでいる。
えっ!まって!それってまさかの英字新聞?!
「………何ガン見してんだ?」
新聞から顔を上げることなく言った言葉は、その姿とはかけ離れた物言いで。
「何だその顔。失礼なヤツだな。」
だからなんで新聞から顔を上げてもいないのにわかるの?!
「単細胞は分かりやすい。」
「…………ハイ?」
「アンタさぁ、物事深く考えないタイプだろ。」
ここでやっと新聞から顔を上げたけど、私を見る目が怖い。
「どんくっさいって言われんだろ。」
なんだろう。酷い言われようなんだけど私、この人とは初対面だよね?
「初対面ってわけじゃぁ無いな。一度接触してる。」
「ーーーウソ。」
「今日みたいに人待ちして雨に降られたときがあったろ。」
今日みたい?雨に?
「傘、渡したヤツがいたろう。」
「………………………あっ!」
「遅い!」
そう言えばそんなことがあった。
今日みたいに優希君を待っていて、雨がポツポツしてきてどうしようかと思っていたら傘を渡されて、置き忘れだから返さなくていいって言われて。
でもーーーー怖い目で見てくるこの男の人とそのときの男の人が同じ人だとは………ゔ〜〜ん。
「アンタさぁ、人の親切踏みにじる偽善者だろ。」
大きく息を吐いて新聞紙をテーブルに投げる男の人の表情が、私を最低な人間を見るように歪な笑いを浮かべた。
「なっーーー」
「酷いってか?まぁ別に俺は気にしないけど。」
なんなのこの人!
「でさぁ、巳月が戻って来る前に帰ってくんない?そいでもってこの辺ウロウロするのやめてくんない?」
と、言われた途端、私は手に持っていたタオルで包まれた氷入りの袋を思っ切り投げ付けていた。
そしてカウンターに置かれた鞄をひったくるように取って店から飛び出した。
後ろで怒鳴ってる声がしたけどそんなことしるもんか!
だいたい私はあの超美人に運ばれて来ただけで、それも弱っているところでいきなり抱きつかれて!有無も無く!
なんなのあの男!私が超美人さんに近づいたみたいな言い方して!
階段を駆け下りてビルから出ると外はもう真っ暗。
「寒っ!」
身体がブルブルって震えた。
もう、最悪。
そう思ったら鼻の奥がツーンとしてジワっと涙が出た。
好きな人と過ごす初めてのクリスマス・イブだったのに。
地味目の私をより良く見せるために香澄ちゃんにも協力してもらって可愛くできたのに。
「ーーーバカみたい。」
最後には知らない男の人に酷い言いがかりされて………。
ぼーっと前を見てたら横断歩道の信号が変わって青になった。
大きく息を吐いて重い足を動かす。
早く家に帰ろ。
そして思いっきり泣いてやろう。
学校は無いし、バイトも休みをもらってるから目が腫れても顔が浮腫んでも、頭ガンガンしても大丈夫だ。
あっ、そうだ!我慢してたコンビニのスイーツを買って帰ろう!
もう、我慢しなくてもいいんだから。
もう、無理して自分を作らなくていいーーー
「雪ウサちゃん!」
横断報道を渡りきった辺りでさっきの超美人さんの声が聞こえて、
「待って!雪ウサちゃん!」
一瞬振り向きかけたけど、すっごく恥ずかしいネーミングで呼ばれてるのに気が付いて、他人のフリして歩くのを早めた。
いや、真っ赤な他人なんだけどね!
駅まで行けば今の時間人混みに紛れてしまえる。
「待って!」
「ひぃやっ!?」
また抱き上げられたぁぁーーーっ!
「このまま行かないでっ!お願い!」
ギュッと抱き竦められてゔっと息が詰まる。
「強引だったのはわかってるの!でも私、どうしても我慢できなくて!」
待ってまって!何の話しですか?!て言うか!お腹に回った腕外してっ!
「ねっ、このまま帰るなんて言わないで。お願い。」
どうしてこの短時間に二度も羽交い締めに合うのぉ!
内臓が飛び出すんでは?!と思ったとき、
パンパンパン!
と、近くで手を叩く音が響いた。
私と超美人さんがその音に瞬時に反応してほぼ同時に横を向くと、不適な笑いを浮かべたモデル張りの立ち姿の最悪男、久兵衛がいた!( 失礼な男に敬称なんていらないでしょう!)
「ハァ〜イハイ、そーこーまーでっ。恥ずかしいからさっさと戻れ。こんなとこでどんな痴話喧嘩してんだよ。」
「久兵衛!見ていてって言ったでしょう!」
「見てたさ。」
「見てただけでしょう!」
「だから見てただろう?」
「私の言ってることとアンタが言ってることはまったく違うからっ!」
「フン………ホラ、シャツとエプロンだけじゃ風邪引くだろ。」
そう言うと久兵衛が超美人さんの背に優しくコートをかけた。えっ、何?すっごく絵になるシーンじゃない?私が余分だけど。
「おら、戻るぞ。」
と、鮮やかなターンで去っていく久兵衛。
身長高いし外面はイイんだけど、言葉は悪いし人間歪んでるよね。
天は二物を与えずってよく言ったもんだ。
「………雪、ウサちゃん?」
頭上から聞こえるちょっと低めの優しい声に身体が跳ねてしまった。
「あっ!やぁっ、ごめんなさい!あの、あのね、私としてはこのままお店に戻って欲しいのだけど………イヤ?」
………じゃない。
私が首を横に振ると、抱き上げていた身体をその場に下ろして拘束していた腕を解いてくれた。
「ありがとう。雪ウサちゃん。」
超美人さんが私の左手を取って手を繋いだ。
それも巷で言うところの恋人繋ぎ。
エッ?まさか超美人さんはそちらの方ですか?
「さぁ、ゆっくり行きましょうねぇ。」
満面の笑みで歩き出す超美人さんがとっても眩しくて、私そっちの人じゃ無いけどま、いっかぁって思ってしまったあたり、悔しいけど久兵衛が言っていた通りかもしれないなぁって、大きく溜息を吐いて超美人さんの後ろを手を引かれて着いて行った。
次は明日投稿します。
じつはほとんど仕上がっているのですが、一話づつ投稿しようと思いますのでよろしくお願いします。
読んでいただいてありがとうございます。