梅雨の谷間に銀座でティータイム
『おはようございます。今日の褒め言葉…。何でも包み込んでくれる様な包容力。一緒に居るとすごく安心できます。だから、遠慮せずに甘えられる。そんな君のそばに居られるボクは世界一幸せかも』
まあ、私も同じことを思っていたわ。それにしても、世界一幸せは盛りすぎね。
『おはようございます。同じような事を私も言うつもりでした。取られちゃった。でも、世界一幸せはちょっと大袈裟よ』
『だって、君は世界に一人しか居ないでしょう』
ふふふ。
私達は毎日お互いを褒める言葉を交換する。今朝も彼からのメッセージが届いた。
今日はお友達とランチの約束があるの。さて、支度をしなくちゃ。
身支度を整えて地下鉄に乗る。私の前に座っている女の子が人目もはばからず顔を作っている。
「変わるものね。若いからかな…」
そんな事を思いながら、その事を彼にメールなんかしてみる。この地下鉄の沿線の先に彼が勤める会社がある。
『どちらへお出掛けですか? 近くに来られるなら昼休みに抜け出してお茶くらい出来ますよ』
彼からの返信。でも、残念ながら行く先は銀座なの。その事を伝えると思いもよらぬ返事が返ってきた。
『ボクもこれから銀座で仕事の打合せ』
まあ! 何という偶然かしら。でも、女子の食事会はお話が長いのよ。
ランチが終わって解散。彼はまだ近くに居るかしら…。試しにメールを送ってみる。
『こちらも今、打合せが終わったところ。どこに居る?』
どこって…。ここはどこだろう? 私が居る場所を彼に伝えると迎えに来てくれるって。そして、彼はすぐにやって来た。本当に近くに居たのね。仕事中の彼は当たり前だけどスーツ姿。あら、カッコいいじゃない。
「こんにちは」
「こんにちは」
「どうする?」
「どうしましょうか?」
「連れて行きたいところがあるんだ」
「はい。では、そこへ」
彼が連れて来てくれたのはちょっとレトロでおしゃれな喫茶店。席に着いてメニューを開く。
「あら、けっこういい値段」
「銀座だから」
「さすが銀座ね」
オーダーした彼がお店の女性に尋ねる。
「ここは銀ブラ証明書をくれるんですよね」
「はい」
にっこり笑う女性店員。すぐに持って来てくれた。
「なに?」
「うん。銀ブラって知ってる? 銀座をブラブラするって意味じゃないんだよ」
「えっ! 違うの」
「銀座でブラジルコーヒーを楽しもうって意味なんだ。ここはその発祥のお店なんだよ」
そうなんだ…。そうだ、一つ相談してみようかしら…。
「あのね?」
「なぁに?」
「相談があるの」
「どんなこと?」
「お世話になっている人が、今度、結婚するの。そのお祝いに贈るものにメッセージをつけたいのだけれど、どんなのがいいのかなって。その人はね…」
「その人は?」
「その人はレストランに勤めているの。それで…」
「それで?」
「皆んなと相談して包丁を贈ることにしたの。切れるものって縁起が悪いかなとは思ったんだけど、でも、その人にはピッタリなかって」
「わかった。じゃあ、考えてみる」
「よろしく」
楽しい時間はあっという間。雨が降り始めるまでには帰らなくちゃ。洗濯物を干しっぱなし。
不慣れな銀座の街。彼が地下鉄の駅まで送ってくれた。電車の中で彼からのメールが届く。
『新たな旅立ちを迎える○○さん、私たちからの気持ちをどうぞ受け取ってください。そして、これから刻むのは二人で紡ぐ幸せな時間です。素敵な想い出をたくさん作ってください』
あら、さすが、仕事が早いわ。それに、これ、いいじゃない! ステキ。あとは私のスパイスを一振りして仕上げましょう。
梅雨の谷間の一日、偶然だけどいい一日だったわ。でも、もしかして、彼のとこだから、わざわざそうしてくれたのかもね。
だんだん、彼との距離が近づいて行く。また、会いたいな…。
『また、会いたいですね』
『はい。また会いましょう』