表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
就活市場と嘆き  作者: ずんだ
1/2

俺は試しているのか試されているのか

今日もダメだった。何が駄目だったのか俺には何となくだが分かる。


だけど苦しい。自分が否定されたような気持になる。


面接官の言葉なんてくそくらえだ。本当に俺の人間性を見る気があるのか?

もしそうならこんなくだらない茶番で俺を測ろうとしないよな。


分かってる。


全て実はお前らの主観で選んでるんだろうってことも。

それを紛らわせるためのESや筆記試験だってことも。


でも、そうなら初めからそう言え。

「面接」だとか。「適正」だとか。

適当なこと言って形を取り繕うんじゃねぇ。






俺は6月を目前にしてほとほと疲れ果てていた。

毎日茶番をやっている。しかも結果が伴わない。


今日もそうだ。

志望理由?俺が本気で働きたいと思っているのか?

安全を支えたいと思った根拠?そんなもん命あっての人間だからだろうよ!!


しかしその声を面接官にぶつけた俺は今日も何故か笑われていた。

「あ、そうなんだ(笑)君の身内が事故に遭ったからとかじゃなくて?(笑)」

正直泣きそうになった。

自分の志望動機の甘さは認める。安全を守りたいっていう理由の根拠としては弱いよな。

信憑性が薄いとか言われてもしょうがねぇ。

でも、何故笑った?



俺は自分の気持ちを正直に面接官に話したつもりだった。

安全を支えたいと思ったことも、命あっての物種だということも自分がそう考えていたことに違いはなかったし、別段身内が事故に遭っている訳でもなかった。

でも、笑われた。


嘘をつかない就活はこんな弊害が生まれるのか。

おれは茶番が嫌で本音を言ったつもりだった。

お前も行ったよな?「正直な気持ちで答えてくださいって」




帰りの電車ではどうしても普通の顔ができなかった。

泣きそうだったからだ。


隣のギャル風のお姉さんがちらっとこっちを見た。

すみません、普段はこういう顔ではないんです。そんな弁解の念を心に唱える余裕すらなかった。

むしろ気にしてくれてうれしいとすら感じる、そんな孤独で辛い心境だった。


おれは電車に揺られ、とうとう最寄り駅についた。

一刻も早く家に帰りたかったけど、飲料水を切らしていたのと晩御飯がなかったのとで仕方なくスーパーに寄って買って帰った。


帰り道でも笑顔は造れなかった。

というか笑顔を作るという作業がもう心の底から辛かった。




家に着いたらまず泣いた。

自分の甘さもそうだ。面接官のせいにしなくても結局おれは大したことない人間だという自覚もあったのだ。


その日はなぜか、一人暮らしを始めてから一度も頼ったことのないかあちゃんに電話をしようと心に決めていた。

簡単だ。俺には嘆きを聞いてもらえるような友達がいない。

いや、もしかしたら聞いてくれるかもという友人はいるがそいつも就職活動中だ。

俺の嘆きなんかに付き合わせてられない。

それに、弱みを見せるのはつらい。


ただ、かあちゃんに泣きながら電話するなんて御免だ。

恥ずかしいし、心配もかける。

俺なんかが東京に行くのに背中を押してくれたかあちゃんだ。神様よりも大切な存在だ。

その母ちゃんを悲しませるようなことがあってはいけない。



そう、かあちゃんを心配させないためにいい大学にいったのに。

就職活動で大手の良い企業に行くために東京まで出てたのに。


そんなことを考えていると涙が止まらなくなった。

晩御飯にはレトルトのおかゆさんを買ってきて正解だった。

食欲なんてまるでわかない。

吐き気すらする。


企業は賢いのだろう。俺が学歴以外何もない人間だってことなんて少し面接したら暴いてしまう。

でも、そこに情はない。

当たり前だ。俺も多くの就活生の屍の上に立っている。

二次選考に進めば、一次選考のGDなんかでみた彼らを見かけることは一切なかった。

心の中で「日程が違うだけで彼らも頑張っていてくれ」なんて祈ってもみた。


当たり前だ。たった一回選考を共にした仲だが、彼らは素晴らしい人間に思えて仕方がなかった。

話していると楽しいし、画期的なアイデアも出してくれる。俺に劣っているところなんて一つもない。


つまり、企業は賢いようでやっぱりバカなんだ。あんな優秀な人材を逃した日には、大した躍進なんてできない。俺なんかを二次面接に通してる暇があるなら彼らの私生活や友人との会話などに耳を傾けている方がよっぽど有益だ。


人間性を知りたい?馬鹿を言うな。

たかが15分や20分でわかるような人間性を彼らは持っていないし、そんな人生も送ってきていないだろう。

つまり、どれだけアピールがうまいかを競う戦いなのだ。就活は。


いい年したおっさんが学生をいびって遊んでいる。

志望動機は?学生時代力を入れたことは?


ふざけるな。そんなもの嘘で塗り固めたものに決まっていることはお前らも分かっているだろう。

でもあえて気づかないふりをしてるんだよな?

その茶番から「人間性(笑)」や「適正(笑)」をはかろうとしているんだよな?


じゃあもう開き直って最初から、「プレゼンの上手い人を採用します!特に自分の人生について!」!って募集要項にかけバカ。



わかるよ。企業だって一度雇ってしまったらそいつをクビにするという選択肢を作ることは難しいことも。

そいつが一生働いたりなんかした日には何億という出費になることも。

だが誠意を示せよ。



「企業と学生は対等」

就活サイトはそんなことをいう。様々なニュースで偉そうなコメンテーターが「学生はもっと会社側に強く出ていい」とか言う。

そりゃおれたちだって強く出られるならそうしてる。


でも、無理だ。俺たちは人生をかけて就活しているんだよ。

終身雇用はもう日本に求めることは無理だとニュースで見た。

それでも俺たちは人生をかけているんだよ。


仮に転職を前提にした就職だとしても、前職が大手かそうでないかは大きな意味を持つ。

そんな事お前らも分かっているんだろ?




ぐるぐる独り言のようにやりようのない愚痴が頭の中を回る。

就活ドラフト制にしろよとか。言いたい。

いや言ってもいい。ただ誰も聞く耳を持たないだろう一学生の苦し紛れの言葉なんて。

ましてや就活失敗気味のやつの声なんて。




あぁ、このまま電話したら泣いてしまう。

とりあえず風呂に入ろう。

副交感神経を刺激すればマシになるかもしれない。

今日は湯船にお湯を張ろう。肩までゆっくり使って100まで数えればすこしはよくなるかな。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ