序章 強すぎるのも困りもの
魔界
魔族が溢れ
魔王が征服している世界
しかし魔王は勇者によって倒された
『おのれ勇者め!!よくも我が孫を!!』
魔王死す……その報告を聞いた魔王の祖父……魔神デミロゴスは勇者達を殺すために活動を始めた
………そして2年後
魔界
死の山~山頂~
『馬鹿な……この我が!!』
「はいはいそういうのはもういいから」
魔神デミロゴスは全ての腕と足をもがれ
頭ももぎ取られて一人の男に持たれていた
「魔神ねぇ……期待したのにこの程度かよ……」
男はため息を吐く
そこに……
「ルガル!!」
少年が駆けつけた
「よお勇者どの、遅いぞ」
ルガルと呼ばれた男が魔神の頭を振り回す
「それって……」
「魔神……えっと……何て言ったか……忘れた!」
『この、人間、がぁ!』
「倒したの?」
「一時間くらいで決着ついたぞ?お前なら五時間くらいで勝てるだろ」
そういうとルガルは魔神デミロゴスの頭をバラバラにした身体に投げつける
『ぐぉぉぉぉぉ!!』
「じゃあな!」
ルガルは腕を振る
すると青い炎が魔神デミロゴスの身体と頭を燃やす
炎が消えたとき……そこには何もなかった
・・・・・・・
「ルガル……なんで一人で挑むの!心配したんだよ!」
勇者がルガルに向かって怒る
「いや~魔神って言うから少しは楽しめるかと思ってさ……」
ルガルは魔法で土を盛り上げ、腰かける
「お前の出番を奪っちまったな……悪いなヒューゴ」
「そんな事はいいんだよ!!僕は!君が!一人で!無茶したことに怒ってるの!!」
勇者ヒューゴがルガルに怒鳴る
「無茶はしてないぞ?この通り無傷の完勝だ」
ルガルは身体を見せる
服には汚れすらついていなかった
「そういう意味じゃない!」
「はいはい」
ヒューゴに怒られながらルガルは空を見る
真っ黒な空
「はぁ……」
ルガルはまたため息を吐く
「どうしたのルガル?」
「ヒューゴ……俺を殺してくれないか?」
ルガルのいきなりの発言に
「な、何言ってんの!?」
ヒューゴは戸惑う
「もう、うんざりしてんだよ……この人生にさ……」
ルガルは土から降りる
「ど、どういうこと?」
ヒューゴはルガルを見る
「俺さ、何をやっても上手くこなせるだろ?」
「うん、魔法も武術も剣術も誰も敵わないね」
「しかもそれは努力したわけでもなく……見て習得したんだぜ?」
「羨ましいよね……凄い能力だと思うよ?」
「でも……それじゃあ満たされないんだよ俺は……」
ルガルはヒューゴを見る
「ヒューゴ、俺はお前が羨ましいんだぜ?」
「えっ?なんで?」
ルガルはヒューゴの肩を掴む
「お前は初めて会ったときは何も出来ない奴だった……でも会う度にお前は何かを得ていた……一緒に行動するようになってからそれが努力によるものだと知ったときの衝撃……お前が眩しく見えたぞ?」
「あ、あんまり褒めないでよ……」
照れるヒューゴ
「そんなお前だから他の連中もお前を信頼している……頼りにされている……」
「ルガルだって頼りにされているよ?」
「俺のは信頼じゃない……」
「でも……」
「ヒューゴ……俺は努力してみたいんだ、お前みたいに輝きたいんだよ!」
「それはこれからでも出来るんじゃないの?死ぬ必要なんて……」
「魔神を倒したんだぞ?これ以上の敵が現れるのか?俺を楽しませる敵が現れるのか!?」
ルガルはヒューゴの肩から手を離す
「頼むヒューゴ!俺を殺してくれ!そうしたら俺は『転生魔法』を使って記憶を来世に持っていけるんだ!!」
「ぼ、僕が殺さなくても……飛び降りるとか」
「魔力が俺を守るから無理だ」
「魔法を自分に撃つとか」
「何回も試した!」
「何も食べないとか!」
「3年間何も口にしていない!!」
「なんで既に試してるの!?」
「色々と試したんだよ……もうお前に殺されるしか方法が浮かばない!」
「魔力で防がれるんじゃ……」
「お前の実力なら俺の魔力を砕ける!」
「…………」
「お前は、努力で……俺を殺せるくらいまで強くなったんだ!頼む!」
ルガルは頭を下げる
誰かに頭を下げるなんてことはルガルにとっては初めての事だった
「僕に……友達を殺せって言ってるんだよ?」
「わかってる……酷なことだとは思っている……」
「命の恩人を殺せって事だよ?」
「そうだな……」
ルガルとヒューゴ……二人の出会いは突然だった
強者を求めて旅をしていたルガル
そんな彼の前に魔物から逃げていたヒューゴが走ってきた
ルガルは邪魔だと判断して魔物を瞬殺した
それが結果的にヒューゴを助ける事になったのだ
「頼む……ヒューゴ!」
「……」
ヒューゴは悩む……悩んで……悩んで……悩んで悩んで悩んで!
「恨むよ……ルガル……」
涙を流しながら剣を抜いた
「ありがとう……ヒューゴ……俺の……唯一の……友!」
その後
一回の物を斬る音と
勇者ヒューゴの泣き声が死の山に響いたのだった
・・・・・・・・・
それから数百年後
レスカという都に新たな命が芽生えた
「フギャー!フギャー!」
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
赤子は両親に抱かれる
「フギャー!フギャー!………アム……」
「うふふ、可愛いわね」
母親が赤子を優しく抱く
「君との子さ、可愛くないわけがない!」
父親が微笑む
「あなた、名前は決めてるの?」
「ああ!勇者ヒューゴから名を少し貰って『ヒュー』!この子の名前は『ヒュー』だ!!」
こうしてヒューという子供がこの世に誕生したのだ
(おいおい、それは勘弁してくれよ……)
ヒューが自分の名前に不満を持っている事を、両親は知らない