001 流星群を眺めよう
流星群はこの先かなり重要になります。
主人公の名前はまだ出てきませんがちゃんと出てくる予定です。
自分の身長と同じくらいの大きさの天体望遠鏡を背に木の梯子を登る。
五月の夜の冷たい空気が肌を急速に冷やしていく。
一段登るごとに木が軋みぎーーぃ、ぎっぎーと嫌な音を立てる。
年が経つにつれて段々と増えていく体重に加え、さらに望遠鏡の重さが加わっているから梯子にかかる負担は相当なものだろう。
高校に進学の時に父親に頼んで屋根の上に登る為に作ってもらった梯子。こいつとはもう一年以上もの付き合いになる。父は大工というわけではないけれど、割と何でもできる人だったのもあり、梯子は意外としっかりとしたものだ。
-まあ、素人が作ったものとしてはという但し書きがつくのだが。
くだらないことを考えている間に梯子を登り切り屋根の上につく。
屋根の上にはこれまた年季の入ったパイプ椅子が二つ置かれているだけの空間が広がっている。
昼間は大した使い道はないけれど、夜、それも雲一つないくらいに晴れている日にはここは天然のプラネタリウムになる。
今の家に引っ越してきて約一年。晴れている日の晩には毎日といっていいほど星を見てきた。
その成果といえるのだろうか。ここから肉眼で見える星はどんな季節のものでもすべて言い当てることができるだろう。
まあ、そんなことは妹以外には誇れないのだけれど。
屋根の上から見える星は、元々住んでいた東京とは大きく違い綺麗に光る。光を遮る空気中のゴミがない為、東京の空からは肉眼で見ることのできない小さな星も見ることができる。
東京に住んでいた時に一度だけ行ったことのあるプラネタリウム。
あそこから見ることのできる光景が毎晩見れるここは僕にとってはとても良い場所だと感じる。
星を見るためだけにわざわざ引っ越してきたわけではないのだけれど。。。
そんな風なことを考えていると、だんだんと日付の変わる時間が近づいてきた。
今夜は百年に一度といわれる大型の流星群を日本で観測できる日であると一週間前の新聞の隅に小さく書かれていた。
百年に一度。これはどれ程すごいことなのだろうか、人の寿命は個人差はあれど医療技術の進歩により百歳に近づいている。それでも人間が一人生まれて死ぬまでの時間、文字通り一生に一度見えるか見えないかの大規模の流星群である。さらにその日の予定や気分、さらには天気などを考えると、今夜予定されている流星群と同じ規模のものを見ることのできる確率はどれくらいになるのだろうか。
計算して求めるということはできないけれど、きっととんでもなく低い確率だろう。
うちの妹ー柚希も星が好きな僕に似て暇さえあれば一緒に星を見ていた。だが、最近は一緒に見ていない。こう言うと仲が悪くなったかのように取られてしまうかもしれないが、そうではない。
元々体の弱かった柚希の体調が、僕が高校二年生になった途端、急に悪くなったのだ。今はだいぶ安定してきているが、まだ油断はできないからといまだに入院している。かれこれ一か月ほど入院している。今年、僕と同じ高校に入学した自分の妹の制服姿はまだ見ていない。入学式の前に入院してしまったからだ。もうすぐ退院できると聞かされているけれど心配だ。
ちなみに今は心配する気持ちが強くなりすぎて毎日柚希のお見舞いに行っている。
最近友人からの視線の温度が下がったような気がするが気にしない。気にしないったら気にしない。
今夜の流星群は是非、柚希にも見てもらいたかったが、病院から許可は下りなかった。柚希の安全を盾にされたらなにもいいだせない。
気分だけでも味わってもらおうと、僕はスマホのカメラを起動して、もうすぐ始まる流星群に備えた。
シスコンって呼ばないでください(土下座)