第2話 町、潜入します!
歩く、歩く歩く、そして歩く。
足を前に、そう前に。
「なぁ、くそ妖精」
「なに‥‥‥ツンデレ厳」
「この森、一体どこまで広がってんだ」
「知らないわよそんなの!」
自称神に、転移させられあれから3日。
俺たちは森をさまよっていた。
別に、疲れたわけではない。俺
の忍耐能力を持ってすればあと1年は大丈夫だ。
だが、問題はそこじゃない。
そう‥‥‥問題はやはりこいつにある。
「ねぇ〜!厳ってば〜!ご飯!ご飯は〜!」
「はぁ」
飯がなくなって、はや61時間と30分の時間が流れていた。どこぞのくそ妖精がうるさくてしょうがないのだ。
「まぁ、あと三歩で街道に出るからそれまでの辛抱だよね!」
「あ?そんなわけ!?‥‥‥あるんですね。そうですか!じゃあもう殴っていいですか!」
すると、さっきまで視界を覆っていた木々が見る見るなくなっていく。
「はぁ、お前なぁ!その能力、最初から使えよ!」
「うん〜それがね、ピンチにならないと、使えないみたいなの〜!困っちゃう〜」
その能天気な発言に俺は、心の中で100回ぐらいくそ妖精ならぬオーブを殴ってから空を見上げる。
何故か空を見てしまうと考え込んでしまう。どの世界でもどんなことがあった世界でも。輝きを失ってない世界は、蒼明で限りなく続いていくその、‘空’はやはり、キレイで。
「なぁ、くそ妖精。こんなキレイな星に一体何があったんだ?」
「ふふっ。厳はやっぱり優しいね。空を見ただけでそんなに世界を愛せるんだから」
「これは、違うさ。俺はただ‥‥‥誰よりも世界を愛していたやつのことを愛してるだけだ」
そうやって厳は俯く。誰にだって過去というものは存在する。誰だって生きてく中で培っていき、得ていくものなのだ。
(過去は、誰にも変えられない。だけど、厳には苦しすぎる)
テネリーは珍しく厳を見ながらやるせなさに心を震わせる。それだけ厳が受けた傷は大きかった。人には誰だって過去がある。昔のことを過去という人は、悲しい目をしている。だが‥‥‥
(厳。あなたの目は過去ではなく。思い出って言ってるわ)
厳の心は折れてなどいなかった。
逆に強く。
逆に気高くあろうとしていた。
「まぁ、この世界のことは追い追い話すわ。今は、ご飯のこと考えましょ!」
「よし!じゃあ行くぞ。くそ妖精、俺も飯が食いたい」
「ふふっやっと素直になった」
「なに!」
ムキになる厳をこれは好機と見たテネリーは畳み掛ける。
「さっきからグウグウ鳴ってるよ、厳のお腹の虫さん」
「なっっっ!」
そしてカチンっと厳もキレる。
「こんのぉ〜!待ちやがれくそ妖精!!」
「べーー」
そして、自称妖精と神の使いは、タッケールと言う名の都市にたどり着く。そこで起きる騒動もただニヤニヤ高みの見物をしている、地租王であるゼムリスにとっては1つの物語の片鱗に過ぎない。
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「この街に入りたい。通してくれ」
「いやだからそんなこと言われても」
神の使いである瀬山厳は、苦手なことNo.oneである。人とのコミュニケーションに奮闘していた。
「身分証明書が無い」
「なら、出身地とか‥‥」
「ない」
「はいぃ?」
だが実際に指示をしているのは、自称妖精のオーブであるテネリーだった。
「厳!もっと軽やかに!」
「な〜い〜」
「違う!それじゃあどっかのオーケストラ!もっと優しく!」
「なぁい?」
「なに、無くしたのおばあちゃん!」
その、指示のおかげで苦手なことNo.oneが、only.oneに覚醒しようとしていた。
「あーわかりました。もう通っていいですよ。怪しいものも持ってないようですし」
「すまない」
そうやって謝る厳にテネリーは、自ら地雷を踏みに行く
「やったね!厳!」
「おう!色んな意味でやってくれたよ!」
だが、一番の難所は潜り抜けることに成功した。
あとは‥‥‥
「金だな」
「そうね。金だわ」
そう。どんなことにも金は、必要になってくる。
金さえあれば、ほとんど困ることは無いと言っても過言では無い。
「おい、妖精この世界にもあのモンスターを倒して素材を売れば金をもらえる的な、ハローワークは無かったか?」
「おー。厳くん!鋭いな〜!そうあるのです!この世界にも‥‥‥冒険者ギルドが!」
「立ち話していてもしょうがないだろ。取り敢えずその、冒険者ギルドって奴に行ってみるか」
厳は、地球から転生してきていたが、よく小説に出てくる単語には疎く、他の世界にもあるにはあるが無い世界も多く、それに建物自体が全く違うので、記憶も薄っすらとしていた。
だからこそ、テネリーの案内を下にすぐに着いた、見るからにthe酒場っと行った方が良さそうなその建物に、着いて早々驚嘆していた。
「なんか、これまた見たことあるような無いような」
「まぁ、冒険という概念がある世界は多いし似てるのは当たり前なんだけど」
テネリーは、少し呆れたようにつぶやく。
なにせ、自分より何年も生きている人物がここまで冒険に興味がなかった、あるいは記憶がないのだ。
だが、それが何故なのかもわかる。それこそ何年も生きていればどうでもいい記憶など消えるのは当たり前だ。
「ふっっとうとう厳も冒険者になるのね」
「いや、何回もなったことあるぞ」
「もう厳ったら、ボケは真面目に返しちゃダメなんだよ〜」
「わかったから、早く済ませるぞ。まだ、日は真上にあるが出来るだけ、早く戻らないとそろそろ死ぬぞ俺ら」
その最もな厳の意見もテネリーからしたら、ボケと成りかわるらしく、
「ふっ!飲み物、食べ物。ここにあるわ!」
「なっっ!くぅ〜〜殴りたいけど、今は感謝だな」
そうやって、冒険者ギルドの真ん前でテネリーの特殊な能力で生み出された肉を頬張る厳は、どんな人から見ても心底幸せそうな顔をしていて。
それでいて、先程から独り言が多くどんな人から見ても恐怖でしかなくて。
たまたまそこに居合わせた、Bランク冒険者パーティーである【炎の断罪】から見れば、虫唾が走る存在でしかなくて。
アレイ国誕生から826年たったこの日は、
驚異の二つ名【害人】で有名になる、厳のこの世界に来て初めての戦闘となる日でもあった。