第一章 第六話 覚えてろよ竹書房……(関係ない)ジョーカーズ結成!(挿絵もあるよ)
ソーイチが試験受けるだけの回です。つまんないと思う人は挿絵だけ楽しんでください。
月日が流れるのは早いもので、魔導学院入学試験前日になった。
「模試の判定はDなんですよね……俺、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。当日は何が起こるかわかりませんから」
メイベルさんのお陰で、カリキュラムはすべてこなし、ひたすら、赤本的な入試問題集をやっていた。
俺のこのプレッシャーは、メイベルさんに対するものがあった。
彼女は来年もあるから、と言ってくれるけれど、俺としては一刻も早く魔導学院に入学してメイベルさんの負担を軽くしたい。
「ねえねえソーイチ、いいこと思いついたんだけど」
「蚊取り線香の煙でも吸って来いこの蚊女。俺は今集中してんだ」
「そーつれないこと言うなよソーイチ。あのな」
「あたしらで、組織を作らねえかって話なんだよ」
……組織?
「そうさ。あんた、マフィア稼業続けたいって言ってたろ? だったらこの探偵社丸ごとマフィアの事務所にしちまえばいいじゃねぇか」
ふっ。
彼女らなりのねぎらいのつもりなんだろうか。
「言ってみろや、ミハル」
「ちょっと、なんで私は蚊扱いしてミハルの言うことは耳を傾けるのよ!?」
「……ダーティーズ、ってのはどうかな」
ダーティーズ。
Dirty、つまり汚い、ということか。
なるほど、泥臭いやり方をするミハルらしい。
俺とシロナも泥臭く新聞配達のバイトをしたっけ。
「いいんじゃねーか?」
「えー? ヴァルハラナイツとか、ジョーカーズとか、そういうのがいい!」
「シロナ、てめえはデュエマのやりすぎだ」
「私も……いいと思います」
メイベルさんも頬をほころばせていた。
「じゃあ、リーダーはあたしな」
マジか。物語の展開的に俺がリーダーじゃねぇかと延々と思ってた。
「異論ある奴手え上げろ、リボルバーで穴開けてやる」
「こっわ!」
シロナが怯える様を見せる。
もういいよなんでも。俺はスタバでベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノが飲みたい(意味不明)。
「なーんつってな。冗談だよ。リーダーはあんただ、ソーイチ」
「え? 俺?」
「それで最終兵器があたしな」
こいつは人間やめて兵器になりたいというか、最終兵器>>>超えられない壁>>>リーダーと思ってやがるらしいい。
「さあ、ソーイチの前祝いも兼ねて、ジョーカーズ結成の祝杯だ!」
「ちょっとミハルさん、ソーイチさんはお勉強中です、自重してください!」
「脱ぐか?」
「いやです、飲みます」
恥も恥じらう乙女は債権を握られているので完全に着せ替え人形というわけだ。哀れなメイベルさん。
そうして俺は書斎で一人勉強し、ドアの外のプレートは『休業中』にして、ミハルたちは応接間でどんちゃん騒ぎをしていた。うるさいが、我慢してやさしい理系数学をやっていた(全然やさしくない)。
そして夜。
俺がベッドでなかなか寝付けずにいると、寝室のドアが開いた。
言い忘れていたが、探偵事務所はメイベルさんの自宅でもあり、ミハルが人数分のベッドを用意してくれた(当然メイベルさんの借金で)。
「そーいちさん♡」
ん? なんやこれ。
甘いとろけそうな声が聞こえてきた。
かと思えば、バニーガールの恰好をしたメイベルさんが入って来た。
「ちょ、メイベルさん!?」
メイベルさんは相当酒癖が悪いらしく、顔を紅潮させて俺のベッドに潜りこんできた。
「試験なんてどーでもいいです。私とセックスしましょう」
めちゃくちゃ応じたいんですが、言ってることが意味不明で怖いです……。
そして俺のパジャマの襟をつかんできた。
「ちょ……ま……メイベルさん」
まさかの夜這いイベント。ああ、孤児院の養母さん、俺は大人の階段を上ります……。
すると。
まさかのメイベルさんの、額へのキス。
「なーんちゃって」
メイベルさんはほほ笑み。
「試験受かって立派な魔導士になって、私のこと、守ってくださいね」
メイベルさんはそのまま眠りについた。
“私”のこと。
私たち、ではなくて。
その意味を考えていたのと、ナイスバディなメイベルさんに添い寝されて、寝付くことができなかった。
翌朝。
一睡もできなかった俺は、覚えた単語が頭のバケツからほとんど零れてしまっていた。
バスに乗って、会場へ向かう。
魔導学院は巨大な城のようだった。巨大な門を抜ければ、石畳が広がり、校舎の天井を仰げば青空の月がはっきり見えるほど高い。レンガ造りの、伝統のある雰囲気の校舎だ。周りを見ると、ローブにネクタイを締めた生徒ばかり。一応、俺もミハルにネクタイは買ってもらったのだが。
教室に入り、緊張がMAXになる俺。
大丈夫だ。と、言い聞かせる。メイベルさんに、試験前は問題集を広げるなと言われた。返って不安になり、集中できなくなるからだそうだ。
だが頭の中で解の公式を思い浮かべたり、ソロモン国の主要人物と戦争の年月日を思い出したりと、頭がぐるぐる回って、それよりも、寝てないから、卒倒するんじゃないかというぐらい気分が高揚している。
試験開始時間5分前。
全員が着席した。
ローブを纏い、三角帽子を着た講師と思われる魔導士が入ってくる。
続いて、試験官のバイトと思われる、自分とそう年齢が変わらない同じくローブを纏った生徒たちが入ってきた。
彼らは問題用紙と解答用紙を配り、辺りは沈黙に包まれた。
そして静寂の時間が流れる。
心臓の鼓動がガチでMAXになるくぁwせdrftgyふじこlp;。
「始め!」
ボロボロだった。
国語、外国語、史学、数学、理科、魔法基礎、すべてにおいて緊張でペンがほとんど動かなかった。
肩を落とし、事務所に帰る。
「ただいまー……」
「おかりー!!」
シロナがに晴れやかな顔で出迎える。本当に苦労を知らねえ奴はいいよなぁ……。
「どんな気持ち? ねえ、どんな気持ち?」
「質問の仕方が間違ってますよ、シロナさん」
メイベルさんは苦笑していた。
ああ、この人は分かってるんだ。
夜。ダーティーズ全員で無言の食事を取る。
俺が暗い表情をしているのを見て察したのか、誰もろくに口を開かない。
「ソーイチさん。食後、少しお話しませんか」
メイベルさんが、誘いかけてきた。
書斎に連れられ、二人っきりになった俺とメイベルさん。
意味もないのに、音を立てないように腰を掛ける二人。
「この間は、ごめんなさい」
「いや、いいんですよ。お酒に酔ってたんだし」
「そうじゃなくて」
「私が、言った、あの言葉がプレッシャーになったんじゃないかと思って」
『魔導士になって、私を守ってくださいね』
……別にプレッシャーじゃない。
メイベルさんを守りたいという気持ちは、当たり前のようにいつも持ってるから。
といっても、ダグラスの囮になったときは、守られてしまったけれど。
「……まあ、俺はジョーカーズのリーダーですからね……その……」
「……俺も、メイベルさんを守りたい」
「だから、落ちても来年は、自分で勉強します。メイベルさんに負担はかけません」
「ソーイチさん……」
はっきり言ってやった。
“メイベルさんたち”でなく“メイベルさん”と。
俺はどこまで邪な奴なんだろう。
だけど、彼女の前だけでは、それくらいカッコつけたい。
合格発表の日、俺はきっと、後悔だけは絶対しないと思う。
そして、合格発表の日。
掲示板を見たが、俺の番号は載ってなかった。
事務所に帰って、そのことを告げたら、
「まーしょーがないでしょ。眠れなかったんでしょソーイチは」
「ああ……あたし、ちょっと調子に乗り過ぎたよ」
お調子者コンビも、珍しくしゅんとしていた。
そして、メイベルさんは。
「ソーイチさん」
「……はい」
「来年も、私、あなたの隣で勉強教えていいですか?」
この人は……。
「なにいってんすか。まだ補欠合格があるかもしれないでしょう?」
なーんて、開き直ってみた。
するとメイベルさんは、
「そうですね。まあ、ソロモン魔導学院を蹴る人はいないでしょうけど」
「手厳しいですね」
俺とメイベルさんは苦笑した。
数日後、依頼と思しき電話がかかって来た。
「おい、シロナ、出てくれねえか」
俺は受験疲れを癒すべく、漫画を読んでいた。
シロナは電話を取った。
「はいメイベル探偵事務所です。 ……はい、はい、 ……え?」
シロナは受話器を落とした。
「ど、どうしたのさシロナ」
「ソーイチ、あんた、補欠合格だって」
ん?
「マジ?」
「うん、マジ」
「「いよっしゃあああああ!!」」
その夜、俺たちはみんなで抱き合い、ダンスを踊って、朝まで飲み明かし、デュエマ大会で盛り上がった。
深夜。
俺が外で煙草を吸っていると、メイベルさんが歩み寄って来た。
「まさか本当に合格するとは……」
「ええ。『不幸』がステータスの俺からしたらありえないっすよ」
「ソーイチさん」
「はい」
「学費は出せそうにないので頑張って奨学金取ってください」
……え。
厳しいなオイ。
すたすたとメイベルさんは去り行こうとした。
ビルに戻るとき、振り返りざまに。
「私のために、合格してくれて、ありがとうございます」
悪戯っぽい笑みで、そう言い残した。
学費は出せないというのは、さすがに冗談だったらしく、メイベルさんは制服をあつらえてくれた。
黒いローブに、三角の帽子を被り、ネクタイを胸もとにぶら下げ、完全に見習い魔導士の恰好になった。マフィアの面影はどこにもない。
「なんだか学生時代を思い出しますわ」
「メイベルさんは学生時代からEカップぐらいあったんですか?」
「さあ次は学用品を買いに行きましょう」
見事にスルーされた。当然か。
そして、入学式。
「うお……」
横浜アリーナぐらいありそうなだだっ広い教室の長椅子に俺たちは腰かけ、生徒たちは半円状に座り、中央の教壇をみんなが凝視した。
すると。
「君、名前何て言うの?」
隣にいた女子生徒が話しかけて来た。
「え……ソーイチだけど?」
「まじ? あたしはミネルヴァ、一緒になったらよろしくね!」
赤い髪のミネルヴァという明るい少女が話しかけて来た。
入学式あるある。ガイダンスで知り合った友達とはその日を境に疎遠になる。
「それでは、学園長の祝辞です。起立!」
生徒は全員起立した。
幕間からやって来たのは。
3頭身の頭のでかい、サングラスをかけたスキンヘッドの男だった。
「てめえこの野郎、この学校に入学してくるとはいい度胸だなこの野郎、俺の名はタケナカ・ナ・オットーだこの野郎、名前忘れたらげんこつ食らわせちゃうぞこの野郎」
笑いながら怒るオットー学園長。大丈夫すかこの学校。
こうして、俺の学園生活が始まった。
第一章 完
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