第一章 第四話 私!アイドルやります!とかいうカモネギ
アウトレイジ系小説書いてるの結構楽しい(任侠モノの知識は北野武の映画ぐらいしか知らない)。
「お前、キャラ薄いよな」
「え……」
俺のこの一言に、ポンコツ天使は相当傷がいったらしい。
そして「不幸」がステータスの俺は、また厄介なことに巻き込まれることとなるんだが、それはまた後程。
「そん……な……私、ツンデレナイスバディメインヒロインじゃなかったの? 私はメインヒロインよ!? それも大衆受けするツンデレキャラよ!?」
「いやさ、もうそういうキャラ、いくらでもいるんだわ。恨むならお前のキャラ設定をしたフィクションにおいて名前を言ってはいけないあの人(作者)を恨め」
「ひ、酷い……ね、ね、ミハルとメイベルはそう思わないわよね? ね? ね?」
「え、ええ……とっても個性的だと思いますわ……」
「ま、まあ、嫁キャラ候補としての条件は十分に果たしているんじゃあないかな……?」
「ねえ、なんで二人とも私の目を見ないのよー! ふんだ、こっちにも考えがあるんですからね!」
そう言ってシロナは出て行った。
なんだろう、すんげえ面倒くさいことになりそう。
翌週になってもシロナは来なかった。
この日、探偵社にとんでもない依頼が入って来た。
事務所に入って来たのは、サングラスにスーツを着たマフィア風の男。
メイベルさんはひどく怯えたが、俺が応対に当たった(マジイケメン)。
「ご用件はなんでしょうか」
「お願いがありやす。こいつを殺してください」
「うちは探偵社であって殺し屋ではないのでホカヲアタッテクダサーイ」
「ちょ……待って、いいんだ、殺さなくてもいい、こいつの身辺を調べてくれりゃいいんだ!」
写真を見ると、でっぷり太った派手なネクタイをしたスーツ姿の男が、立ってこちらを見ていた。
俺はそれをメイベルさんに見せると、
「まあ……ソロモン国の裏社会を牛耳るトップの、《マギカ・ギャング》のボスではないですか!? なんでまた?」
「あっしは、魔法を使うこのマフィアに淘汰されたYAKUZAの生き残りなんでやす。情けねえが、こいつを公安の力を使ってなんとか失墜できないかと……」
「馬鹿だね。ヤクザならヤクザらしく抗争で始末しなよ」
「うるせえなガキ、抗争するだけのチャカがもうねえんだよ!」
するとミハルはリボルバーを向けて、
「一応、あたし、闇金だから。筋はいくらか知ってるよ。《マギカ・ギャング》は厄介だから関わらないようにしてるがね」
「ひ、ひい……ごめんなさい……」
メイベルさんは紅茶を淹れた。
「まあ、そういうわけです。利用料としてそれなりの金額とジェムを用意していただければ、依頼には応じますが……黒い関係の方はそれなりの額を覚悟して……」
「いいえ、所長の私が言います。たとえあなたが黒い関係だろうが、良心的価格で、全力で捜査させていただきます」
ぐう聖にもほどがありますよメイベルさん!
ほらこのヤク〇の人涙流してるじゃないですか。
「ありがたいありがたい……あなたは天使だ……それじゃあ、お願いいたします」
男は出て行き、残された俺らは茶菓子のクッキーを食べながら会議を始めた。
「ミハルさん、何かお心当たりは?」
「まーないこともない。この街のマフィアは一部の黒魔導士が奴隷の子らを集めて形成し、いくつもの派閥に分かれて行ったという経緯がある。ところが純血のマフィアは、魔族の血統を持ったもののみで構成された《マギカ・ギャング》という肥大化を急速に進めている魔導士マフィアに潰されかかっているのが現状だね」
「魔法が使えるマフィアか……厄介だな……」
「なに、奴らは何も戦闘系の魔法で勢力を伸ばしているわけじゃないよ。そうじゃなくて、催眠系や洗脳系の魔術で、女を魔法で言いなりにさせてソープに沈めたり、ヤクの買取人を洗脳して値段交渉を有利に進めたりと、ビジネスに魔法を使っているのさ。戦闘系の魔法はカタギの魔導士のケツ持ちをして補ってるってのが実情。その方が安く済むからね」
「ミハルさん、さすがですね。ソーイチさん、もう一度写真を見させてくださいますか?」
言われた通りメイベルさんに写真を見せた。
「……この方は斬撃系の魔法を得意とするでしょうね。斬撃系魔導士特有の手の形をしています。わかりますか? 中指が異様に折れ曲がっているんですよ。それからスーツを見ると、ブランド名は『アンクル・ノア』。相当羽振りがいいようですね。高級娼婦の贈りものでしょうか……娼婦が好むブランドなんです、これ。香水がきついことでも有名なんですね。なかなか手に入るものではないですよ。そして見逃してはならないのがこのバッジ。『退魔導協会』のメンバーのものです。これは20年前に集結しわずか3年で解散した魔導士のエリートによる協会です。事業内容は不明ですが、名簿があるのでそれを辿ればヒントになるかもしれませんね。まあ、こんなところでしょうか……」
さすがマイクロビキニ名探偵。
そういうわけで、聴取が始まった。
街中を美少女二人に挟まれ、ベレー帽を被って歩く。
メイベルさんが退魔導協会の名簿を調べた結果、どうやらターゲットは「ダグラス・ジョンタイター」という名前で、年は58、西方の都市ピカレスク地方の生まれらしい。得意とする魔法名は、『ジェイソン』と呼ばれる、チェーンソーを飛ばしまくるだけの、大した魔法ではないそうだ。
「香水の匂いがする……多分、アンクル・ノアの香水ですわ。あっちの地下スタジオからします!」
「よし、行こう!」
俺はミハルがタダで貸してくれたリボルバーを携えて、地下の階段を降りて行った。裸電球が暗い室内を照らしたかと思えば、どうやら大盛況。ぎゅう詰めの人々の中を掻き分けると……。
「あれ……シロナじゃね?」
そう。ステージ上には、へそ出しルックの派手な衣装を着た三人組のアイドルグループが歌って踊っていた。
その中にあの馬鹿もいた。胸の開いた衣装から谷間を強調すると、何枚ものラルク紙幣が飛び交う。
お前ら、これストリップちゃうぞ。
「シロナちゃーん! こっち目線いい!?」
「アメリちゃーん、すっごい可愛いよー!」
「ミントちゃん、もう一回谷間見せてー!」
巨乳を売りにしているのか、三人とも胸がデカイ。
そしてかなりの上玉ときた。
歌もダンスもヘタクソだが、サービスタイムに突入すると、三人は色っぽいポーズをとってファンたちの写真撮影のサービスをした。
ん……写真?
「メイベルさん、カメラ持ってますか?」
「え、ええ……」
そう言って渡されたのは、旧式のカメラ。デジタルカメラなど、この文明圏にはないようだ。俺はそいつを使って、倍率を上げてピントを合わせると……。
「いた、いました! ダグラスです! 間違いありません!」
ステージの影で、でっぷり太った金髪の男が腕を組んで満足げにほほ笑んでいた。
事務所に帰ると、シロナがソファにくたびれていた。
「あ、おかりー」
俺は真っ先にシロナのところへ行き、
一発殴った。
「痛った! 何すんのよ!」
「いつからあんな真似をするようになった!」
「だってあんたが影が薄いっていうから、思い切ってアイドルやって目立とうと!」
「いいか? 企業に入社する際は求人広告を読んでそこがミハルのような非合法組織でないかどうかハローワークに行って尋ねてから志願するのがテンプレだ!」
「うちが非合法だってのはいただけないねえ」
眉間にしわを寄せてムッとしてペロペロキャンディーを舐めているミハル。
いや、お前んとこの商売にホワイトな面があったら逆に知りたいわ。
「ちょっとおっしゃってる意味が分からないんだけど」
メイベルさんはまた丁寧な手つきで紅茶を淹れ、
「言いにくいのですが……あなたのスカウトされたアイドル事務所は、マフィアが絡んでいる可能性が高いのです。このままだと……」
「えっ……どうなるの?」
みるみるうちに顔が青ざめていくシロナ。
「まー、残りの二人も可愛そうだが、AV女優デビューさせられるか、ストリップショーに担ぎ込まされるか、最悪ソープ嬢だな。うちの組織じゃそんなん当たり前だぜ?」
「ええ、いや、いや! いやよそんなの! やっぱり連中、私たちの身体が目当てだったのね! どうりで胸を何度か触られたわ、身体測定だって言って!」
その時点で逃げろよ。
「はぁーめんどくせえ。とりあえず打開策を考えねえとな」
「あの……妙案がひとつあるのですが……」
「はいはい、メイベルさんの案ならなんでも採用しますよ」
この言葉が仇になるとは、思いもよらない俺であった……。
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