第一章 第三話 うるさいわね!いい子なんだからお医者様に行くわよ!
風邪の季節ですので。作者もえらい風邪ひきました。メイベルさんみたいな優しくて巨乳なお姉さんに看病してもらいたいどす。
ソロモン魔導学院は名門校らしい。
しかし、この世界の魔導学院の試験は、都合のいいというか、筆記試験のみが課せられる。大学受験のようなものだ。
唯一魔法の適性を試験するのは、血筋調査。
この地域を支配していたのは魔族であり、魔力を持たない奴隷のような人間やエルフ族などの蛮族の血を引いていない血筋ではないか、書類で審査される。
そこんとこは、前回メイベルさんをとことん辱めたミハルが、温情主義でなんとかしてやると言っていたが……あいつのなんとかしてやるはどこまで信頼していいものやら……。
そして、メイベルさんはきつい指導をします、と言っていた。
個人的には夜のご指導も……いやなんでもない、まあそう言っていたので、厳しいものを想像していたのだが……。
「まあソーイチさん、あんなに苦手だった数学が4割も取れるようになりましたわ! この調子なら、合格も不可能ではないかも……」
そんなことを言いながら、ご褒美のクッキーを焼いてくれた。
なんつーか。教え方めちゃめちゃ上手いよこの人! 怖っ!
例えば数学の因数分解。
俺は中卒で多項式も分からないアホだった。
「ソーイチさんは式展開はできますか? 式展開をまず100題やりましょう。簡単です。慌てずゆっくりやりましょうね? 因数分解は展開の逆です。パズルゲームのようなものですが、慣れたらパターンが必ずつかめるのでたくさんこなしましょう」
「面白い話を一つ。数学史上最も偉大な数学者の一人であるガウスの『代数学の基本定理』によれば、n次方程式は重根を含めればかならずn個の根を持つのです。嘘だと思うでしょう。でもソーイチさんはもう虚数を理解していますね? そう、複素数の範囲で考えれば必ずn個に因数分解できるんです」
「さてxの99乗+1を(x-1)で割った余りを求めましょう。大丈夫、こわがらないで。まず何をするんでしたっけ。そうです、商をQ(x)とおいて因数を(x-1)とおき、余りをrとして求めましょう。さあ、考えてください……そう! さすがソーイチさん! xに1を代入すれば1の99乗は1ですからr=1+1=2となって余りは2です!」
恐ろしいことに、俺はこの三つのカギカッコの内容を全部理解できるまで成績が伸びた。高校数学までメイベル女史によってマスターできた俺であった。この人……何者?
そして気に入らないことがひとつある。
「おらドギンダム封印解放じゃあ!!」
「ぎえええええ!!」
ろくに仕事をせずカードゲームで連敗しているシロナと、何故か居座っている闇金ミハルくん。
「おいお前、いつからそこに居座ってんだ? とっとと帰れよ」
「んー。いいじゃん。可愛い女の子に囲まれてまんざらでもないでしょう?」
「自分で言うか……? つーかお前家は?」
「んー。移住生活してたから、車。でもここもいいかなーって」
ははーん。
「お前、友達いなくて寂しいんだろ?」
するとミハル嬢、顔を林檎のように赤らめて、
「ばっ、ばっかじゃねぇ!? あたしゃ悪魔だよ!?」
「ソーイチさん、あんまりいじめるとかわいそうですよ」
「そうよソーイチ。ミハルはあたしたちの友だちよね?」
何気に爆弾を遠まわしに投下していることにこの二人は気づいてるのだろうか?
「ふんだ。帰る! 当面ここには来ないかんね!」
カードゲームを片付け、大きな音を立てて扉を閉めて出て行くミハル。
あいつ本当、何なんだ?
「それじゃソーイチさん、魔導法律学の科目に移りましょうか」
「はいはい。お手柔らかに」
二日後。
「正解です。代表作『尖った耳を甘噛みして』を書いて受賞したノーウェル文学賞作家は、ルーテル・ケンブリッジです。エルフと人間の種族を超えた愛は、当時の文学と社会に大きな影響を与えました。異世界からいらしたソーイチさんにはこれは難問だったでしょう?」
「いや、数学とか物理学とかよりは楽勝っすよ」
シロナは眉間にしわを寄せて書類に目を通し、整理している。
そんななか。
とつぜん、ドアが開き、
ミハルが倒れ込んできた。
「ミハル!」
俺たちが駆け寄り、そっと頬に触れる。
熱い。
「風邪……ひいた……」
メイベルさんはミハルのおでこに氷嚢をつるし、水銀で測るタイプの体温計でミハルの熱を測ると、39.5度あった。
「ひどい熱……どうしましょう……」
「なぁ、メイベル……借金を特別に1割減らしてやるから、あんたの魔法でなんとかしてくんない?」
「ええ? メイベルさん、魔法使いだったんですか?」
「ええ……いちおう一介の魔法使いではありますが……。ですが、風邪治療には専門家に任せた方がよっぽど得策かと……」
「はあ!? 1割も借金減らすってこっちはカード出してんだよ!? 治せんだろ!? あんたソロモン魔導学院首席で卒業したエリートなんだろ!? 風邪ぐらい治せないで何が魔導士探偵だよ!?」
「あのさぁ……ミハル……」
「お前、医者行くの怖いんだろ……?」
俺の言葉にひどく泣きそうな表情になりつつ、口角をひきつらせ、
「ば、ばっかじゃねーの!? あんたメイベルの肩持つんだ、へーメイベルのこと好きなんだ」
「うん好きだよ」
「へぇ///!?」
メイベルさんが一気に顔を赤らめる。俺はこういうことはためらわず言うタイプだ。
「だが今の論点はそこじゃない。お前、注射嫌いだろ? まあお前ほど重症なら抗生物質を注射しねえと治らねえだろうな。メイベルさんに教わったんだが、強力な細菌を殺す治癒魔法はないんだと。道理でこの界隈でも医院がちらほらあるわけだ。自転車走らせながら、なんで魔法があるのに病院がこんなにあんのかと疑問だったぜ。ほらシロナ、一緒にミハルを業務用テープで縛り上げて病院に担ぎこむぞ」
「ふざけんなー! むきー! おにー! あくまー!」
「悪魔はてめえだろうが!」
するとミハルは指をパチンと鳴らすと、テープが金貨に変わった。
「なっ……!?」
「フハハハハ!? これがあたしが悪魔だと呼ばれる所以だよ! あたしは金を担保に、担保を金に換える能力を持つのさ!ただ、一度担保に変えられた金も、金に換えられた担保も一度きりしかチェンジできないがね、あばよ!」
みはるは全速力で廊下に走り出した。
「追うぞ、シロ……ナ……」
俺たちは後を追って駆けだしたのだが。
ミハルが廊下でぶっ倒れていたので、手間が省けた。
ミハルが意識を取り戻すと、そこは町医者の革製の待合室で、俺とメイベルさんがミハルを挟んでいた。
「き……きさまらー! なんだこれはー! はずせー!」
俺はミハルにげんこつを一発喰らわせて、
「いい子なんだから静かにしなさい!」
「父親気取りかてめー、いいご身分だな!?」
メイベルさんがちょっと顔を赤らめてるのがちょっとだけ嬉しかった。
こんな美人でグラマーな奥さん、もったいねぇぜ。
ミハルを拘束しているのはメイベルさんの魔道具のベルト。
これは特殊な魔法をメイベルさんがかけているので、ミハルの能力は通用しない。
「ほら番が来たぞ、大丈夫、注射終わったらお菓子買ってやるから!」
「本当だな? ……って子供扱いすんなー!」
でっぷり太った髭メガネの医者の前にミハルを座らせる。
「お子さんはどういった症状で……?」
「いえ……お子さんというわけでは……」
ちょっとだけショック。
「まあそうっすね。熱が高くて、身体がしんどそうで。食欲もなく、頭痛もするとか言ってました」
「じゃあちょっと胸の音を……その、ベルトを外してもらえますか、奥さん?」
「いえ……ですから奥さんではなくて……」
そのやりとりもういいから。
しかし、ここで事件が起こる。
メイベルさんがベルトを外すと、何とこの女。
「きゃあああああ!」
メイベルさんが叫んだ。
ミハルはあろうことか、胸もとからリボルバーを取り出した。
「ふははははは! 悪魔を甘く見るなよ!? いいか? この医者を殺されたくなければ、今すぐこの町中のなかから最も優秀な治癒魔法のプリ―ストを呼びな!」
ったく、手間のかかるガキだ。
「早くしろ、パトカーでもなんでも呼ぶがいい! さあ早く優秀なプリ―ストをうぐぅ!」
俺はリボルバーをはらいのけ、ミハルの腕を締め上げ、そのままひねり、アームロックの状態に持ち込み、
「お医者様、なんかもう診察とか無駄だと思うんで、とっとと注射したってください」
「いやああああああ! いやああああああ! 注射はいやああああああ!!」
そしてベッドにメイベルの魔道具でぎちぎちに拘束されたミハルは、泣きわめきながら、看護婦にいないいないばあをされながら、赤ちゃんことばで「いたくないでちゅからね~いい子いい子」とあやされながら注射をされた。
放心状態のミハルを連れて事務所に戻ってくると、シロナが一人で紅茶を飲んで新聞を読んでいた。
「あーおかえりーおみやげは?」
「まずそれかい」
「店番ご苦労様でした」
メイベルさんは街で買ったミルフィーユを四人分広げた。一応、ミハルの分も入っている。ミハルの拘束を解き、目が死んでいるミハルを待合用ソファに寝かせ、三人でテーブルに向き合って食べた。
と、そこで俺が常々思っていたことをひとつ。
「シロナ、お前さぁ、ずっと思ってたんだけど」
「なに? 褒めてくれるの? なら有り難く頂戴するわ?」
「いや、なんつーか、お前のキャラって薄くね?」
「え……?」
シロナはフォークを落とした。
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