第一章 第一話 どーすんの、俺ら
めぐみんは正義(全く関係ない)。
俺とシロナは知らない土地に尻もちをついた。
どうやら石畳の上に落ちたらしく、
「イッ↑タァイ↓シリガァ……↓」
と二人そろって転げまわった。
「もう、全部あんたのせいよ! 帰してよ、あたしを天界に帰してよぉ!」
「つったって、なぁ……」
辺りを見回すと、現代とはまるっきり違う風景で呆気にとられた。
馬車に着飾った紳士と婦人が乗り、子供たちが手から火を出して遊んだり、街並みはヨーロッパ建築風で、エルフやオークなども歩いている。
やばいわこれ、やだこれ、完全に異世界だわ。
「はあーあ、とりあえず俺は財布に200$入ってるけど、絶対使えないだろうからなぁ……」
「ドルルッテナンディスゥカー!!」
「普通に聞けよ。あとドルルじゃなくてドルだよ」
どうやらシロナも天使のくせに一文無しらしく(ジェムを一個も持ってないのが腹立つ、豆腐の角で頭ぶつけて死ね)、俺たちはあてもなく、バイト先でも探そうとした。
だが。
俺はマフィアだ。
そうだった。
俺は汚い金で食ってく人間、真面目に働いたらボスにメンツが立たねえ!
決めた。
働かない、絶対に働かないでござる!
「旅の人」
杖をついた老人紳士に声をかけられた。
「は、はいなんでしょう?」
「マフィアは死ぬぞ。魔法で。なんかヤバい魔法で。あと天使のお嬢さんも、そんなハデな恰好してたら男共に蹂躙されるぞ。えっらいめに遭うぞ。コスプレプレイとかさせられるぞ。魔導学校に行きなされ。ここでは魔法を使わない奴は淘汰されるからの。では、ゲッチュー」
そう言い残し、去って言った。
うん、バイトして服買って、魔導学校に入学しよう(白目)。
そうして始めたのは、新聞配りのバイトであった。
「ちょっとぉ、なんで麗しい天使のあたしが、こんな薄汚れたつなぎを着て新聞配らなきゃいけないのよー!」
とかなんとかほざくのを無視して、俺たちはつなぎを着て、自転車で街を回っている。
ちなみにシロナの自転車は補助輪つきだ。プークスクス。
街中をかけめぐり、最初に工賃をもらえるまでの間に、この街の地理を大体把握することができた。
シロナの話によるとここはキーロック界と呼ばれる現世らしい。そしてここはソロモン国と呼ばれる魔法が支配する国。あのじいさんが言う通り、魔法に疎い奴は狩られるらしい。一応司法機関はあるので、そんな犯罪めいたことはないだろーが、じいさんの話から察するに、ここは治安が悪いらしい。
街の北にはソロモン魔導学院という、国最大の国立魔導学院がある。
そこに行けば、なんと俺のような魔法の素質がないパンピーでも魔法が使えるようになるとか。うーん。俺の厨二妄想だが、マフィアなんだから、ピストルを使った魔法が使えるといいなーとかなんとか。
中央は広場が広がり、行商人などがジェムなどを売っているそうだ。食費も稼がなきゃならんが、ジェム回収も忘れずに。実を言うとヴィーナスさんが、知らない間にジェムが無限に入る魔法の革袋をくれた。革袋には数字が刻印されており、一個ジェムを入れるとそのカウントが一増えるとか。
西の方は官僚や行政機関がある。政治の中心地だ。霞が関をイメージしてくれればそれでいい。
東の方は隣国であるサムエル国の国境がある。エルフが統治する野蛮な国と言われ、領地府が構えているが、むやみに近づかない方がいいらしい。
南の方はソロモン国の王城があり、城下町が広がって賑わっている。ジェムの流通も盛んらしい。奇術を使う大道芸人がそこらやたらにいて、おひねりをたくさんもらっている。俺も魔法が使えるようになったら小遣稼ぎにやってみたいものだ。
そして、給料日。
「ごくろうさん、これ、賃金ね」
新聞屋のおじさんが、耳に万年筆を挟んで帳簿を計算しながら、俺らに封筒を渡す。どうやらここの貨幣単位は、ラルクと言うらしい。俺たちは初任給で5万ラルクを頂いた。これだけあれば、アパートを契約し、ある程度なら家具を揃えられるらしい。食費も一ヶ月はもつといわれた。
実を言えば、ずーっと俺たち二人は、公園のベンチで野宿をしていたのである。食料はぶっちゃけ雑草とかキノコとか食ってた。これだから異世界転移はろくなもんじゃない。異世界転生にも言えるが、ああいうのに憧れるなろう読者は少し目を覚ましたほうがいいと思う。
「ついでにこれも。売るといいよ」
そう言って渡されたのはなんと。五個のジェム。
「綺麗だな……」
「まあ! やったじゃないソーイチ! 1億分の1まで到達したわ!」
はっきり言っていいだろうか? 小学校からやり直せ。あんたのおつむは初等教育レベルだ。
ジェムは紺碧色で、光にかざすときらきら輝いている。
本当に、簡単に手に入るもんなんだなぁ……。
俺たちはほくほくしながら、カフェで昼食をとった。
「まーしかし、女の子と二人っきりでカフェに入るのも、何年ぶりかなぁ」
「ふん。さすが童貞のソーイチね」
「なんとでもいえ。一応お前も、そこそこ可愛い顔してるから、まんざらでもねえな。性格は悲惨だけど」
するとシロナは顔を赤らめ、
「ばっ、ばっかじゃないの!? 童貞風情がこの熾天使様を口説こうなんて、わきまえなさいよ!」
おや、デレたぞこの女。しかもちょろい。おもしろいからときどきたぶらかしてみよー。
そこへ。
「あの……相席よろしいでしょうか……」
見るからに幸薄そうな、コートに身をやつした女性が入って来た。
紫がかった艶やかなストレートロングヘアに、色白で卵型の、端正な顔立ちの、美女。コートを纏い、ベレー帽をかぶっている。
どうぞどうぞと俺たちはスペースを開ける。
そしてその女性はコートを脱ぐと。
「でっか!」
シロナよりもはるかにデカイメロンふたつが、カーディガンに隆起していて、くっきり形を見せていた。
シロナは俺のスケベな目に気づいたのか、頬を引っ張った。
女性は色っぽく、本当に、脅してでも抱いてやりたい。
ああちきしょう。早く童貞捨ててえ。
待てよ。
そうか……。
「ふ……ふふふ、シロナ、俺は重大なことに気が付いた」
「な、なによ」
「魔法を使って包茎を治せば、俺はセックスしまくれあづっ!!」
ウェイターのホットコーヒーが俺のシャツにかかった。
「プークスクス。何かと思えばすごいださいわよ、ソーイチ! まあ応援してあげるわ。なーに、本当に包茎が治ったら、あたしが最初に相手してやってもいいわよ?」
「ヴィーナス様ー、かんたんに貞操を破るビッチ天使がいるんですけどー。つーか口説いてんの?」
またシロナは顔を真っ赤にして、机の下に隠れた。こういうところはしっかり可愛いんだからこの子は。
「あの、すいません……」
女性にも、コーヒーがかかっていた。おっぱいに。そして反応時間0.1秒で俺はナプキンを取り出し、
「あーら大変だ拭かないとー、あいでっ!」
巨乳に手を伸ばした俺の手をシロナがはたく。
女性は苦笑し、
「あなた、マフィアでしょう」
そうぽつりとつぶやいた。
「そうですけど……なんで分かったんですか?」
「ナプキンの畳み方で分かります。あなた以前、スーツ着てましたね。特に大事な会合のときにはタキシードを着るはず、それで上司から正しいナプキンの畳み方を教わっているはずです」
その通りだ。俺はナプキンの畳み方から立ち振る舞いまで、しっかり教育されてきた。
「それにあなたは少しふっくらしていますね。だとすると幹部である可能性も捨てきれません」
「なんでわかるんですか!?」
「やーいデブ」
「あんたは黙りなさい」
すると女性は名刺を出し、
「私、メイベル探偵事務所所長のメイベルと申します、きゃっ」
今度はウェイトレスが彼女に水をかけた。
「どうやら私も、あなたと同じ幸薄体質のようでして……」
と、探偵さんは俺が渡したナプキンで濡れた背中を拭く。
メイベルさんはにこりとほほ笑み、
「うちで働いてみませんか? あなたたち、そうとう貧しいみなりでしょうから、新聞社で働くよりよっぽどましだと思いますよ。でも、あまり賃金については過剰な期待はしないでくださいね」
そうして、俺はマフィアから探偵助手にジョブチェンジしたのであった。
獲得ジェム 5個/500000000個