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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

(有)者っていったい何なのさ?

作者: いんふぃ
掲載日:2018/02/11

てんやわんやで異世界転移と同じ世界感で作った作品です。プロットのみしか作っておらず現状では次話を作る予定が無いので短編として出させていただきます。

 心地良い風が吹く午後の時間。甘い花の匂いが運ばれて来る畑の真ん中で、俺は鍬を使い畑を耕している。周りにいる子供達も自分と同じ様に畑を耕している所だ。


「ピャーッ!」


 背中に背負った赤ん坊が泣き出した!ミルクは飲んだしオシメかな?背負い紐を取り外し、赤ん坊を抱えると近くにある木の下で赤ん坊のオシメを外していく。


「んー。小さい方か。オシメの予備はあったかな?」


 最近は使い慣れたアイテムボックスを呼び出して中にオシメがあるかどうかゴソゴソする。側から見ると宙に浮いた黒い穴に手を突っ込んでゴソゴソする変なおじさんだ。


 目当ての物が見つかったので生活魔法でお股を洗い、汗疹用にパウダーを付けて布のオシメをチャチャっと付けて完成だ。この間30秒、何時の間にか慣れてしまった作業に哀愁を感じながら軽くあやして背中に戻す。


「キャッキャ!」


 泣いた子が笑うとはこの事か?背中で上機嫌になった赤ん坊を感じながら畑に戻る。


  「おとーさーん。この石が大きくて取れないよー。」


 子供の1人から助けを求める声がする。この声はジロウかな?声のした方向に向かうと8〜9才程の少年が石の前でへばって座り込んでいる。


  「こりゃ大きな石だな。こいつは俺に任して他の所を手伝ってくれ。タロウのところがいいな。それ、行ってきな!」


 そう言って立たせると尻を軽く叩いてタロウの方に向かわせる。


「わかったー。兄ちゃんを手伝ってくるー」


 そう言うと手と尻尾を振ってタロウの方に走って行った。耳もピコピコ動いているから嬉しいのだろう。




 もうお判りだとは思うが此処は地球ではない。太陽系、いや銀河系ですらない。所謂ファンタジーな世界だ。俺はこの世界に(有)者となり5人のコボルトと4人のゴブリン、そして1人の悪魔と共に生活している。自分でも何を言っているかよく分からない。大体悪魔が勇者を呼ぶなと突っ込みたい。まぁ(有)者なんだけどな。




 真夏の日光が容赦無く降り注ぐアスファルトの道を俺こと加藤 勝(38才)は、次の営業訪問の為に自転車で走っていた。丁度お昼に差し掛かる頃なので、どこか公園で飯を食うことにしよう。お昼にお客の所に行くのはマナー違反だしな。


 丁度お客に向かう途中で公園を発見したので日陰になる所を探して見る。2つある内の1つのベンチには屋根が付いていたので、そこまで自転車を押して行く。公園の中では5,6人の子供が遊んでおり、周りにママさん達がついて遊ばせている。


 元気な親子が遊んでいるのを目の隅に捉えながらコンビニで買った弁当とお茶、そしてシステムキッチンの設計図を取り出して食べ始める。設計図を見ながら説明の順序をもう一度おさらいの為、見直して行く。


 今の俺は水周りのリフォーム会社で働いており日々住宅を訪れながら営業販売をしている。世の中では悪徳リフォーム会社が多い為、玄関口で断られるのが殆どだ。そんな中今回のお客は何度か訪ねて、信頼を得ることが出来た久しぶりのお客様だ。その信頼に応えるべく業者と何回も話し合って出来た設計図だ。これを早くお客に見せてあげたい。


 考え事をしながらの弁当が終わろうとした時、足元に小さなボールが転がってくる。ボールが来た方向を見てみると先程の子供達が不安そうな顔で此方を見ている。出来るだけ怖がらせないよう笑顔で軽くボールを返してあげると、子供達の「ありがとうございます。」と言う言葉と、ママさん達の会釈が帰ってくる。こんな公園で1人で飯を食うおっさんなら警戒されても仕方がないなと思いつつ、残りのお茶を飲み干す。


 先程の光景を思い浮かべながらお客の元へ自転車を走らせる。自分も既にアラフォー世代。あんな子供がいてもおかしくないのだが、現在は独身。どうしてこうなったかなー。やっぱり最初の仕事を辞めたのが原因か?でもあの会社だと精神的にやばかったしな。今の会社はきついけどやり甲斐はあるしな。

 でも子供は可愛いよな。ママさん達もいい笑顔でいたし、田舎に帰って農業を継げって親父からはよく言われるけど、都会の生活に慣れたこの体には小さな島でのネット無し人生なんて無理だしなー。嫁さん候補も田舎じゃ難しいし、商談終わったらペットショップにでも寄って子犬でも見て癒されるか。


  「ってなんじゃこりゃー⁈」


 余計な事を考えていたせいか、目の前で起こっている異常な現象に気がつくのが遅れた。3m程離れた目の前に黒い渦が何故かあるのだ!急ブレーキをかけるが時すでに遅く、勢いのついたまま俺を乗せた自転車は渦の中に入ってしまう。

  渦の中に入ってしまった俺は前後左右すら分からなくなり、登っているのか落ちているのか分からない引き寄せられる力に身を引かれながら意識を失う前に1つの思いを告げる。




「システムキッチンの商談だけはなんとかしてくれー!」




 そうして俺の意識は途切れていった。

 






 何も見えなく、何も聞こえない。そんな空間の中意識は目覚める。体のあちこちを触り怪我がないか確かめるが主だった傷は無いようだ。痛みも感じないのでとりあえずは安心か?いや、何も見えないし何も聞こえないのだから下手したら全身麻痺になっているのかもしれない。現状がどうなっているのか分からない為不安で堪らない。ただまだ何かに引っ張られる力を感じるのでそちらに意識を向けて見る。

 小さな点の様なものが見える!暗闇に閉ざされた空間にたった1つの光明が見えたことに喜びを感じ、引かれる力に逆らわないようその点に意識を向け続ける。


 点が丸に、丸が円に見えだした頃、その円から若い女性の声が聞こえてくる。


「うーん。これでいいはずなんだけど中々出てこないわね。かなり遠い世界から呼び出しちゃったのかしら?それとも呼んでる途中で事故ちゃったのかしら?」


 その言葉を聞いた瞬間、「こいつ」が原因だと分かってしまう。何処の誰だか知らないがこちらの事情をまるっきり無視して呼び出したんだ。絶対に仕返ししちゃる!


 円は近くで見ると摩訶不思議な文字が描かれた紋章のような形だった。俺を引っ張る力はどうやらそこが起点であるらしく、ついに体がその円に触れる。触れた瞬間周りの景色は一変し石で作られた部屋の中、幾つかの光る玉が浮かぶ幻想的な景色の中、足元には先程の奇妙な文字が描かれた円が足元にあり、発光していた。


「召喚の儀成功ね!私ってばやっぱり天才ね♪」


 嬉しそうな女性の声が聞こえたが、その声が先程聞いた原因の人物だと分かった瞬間、その相手に向かって走り出す。驚いている女性の顔など関係なくフルスイングした拳を女性の頭に振り下ろ………これ女性というより女の子だ⁈

 仕方が無いので、拳を開き出来るだけスピードを緩めて頭を張り倒す!


「ぐへぇ?ちょっと何なのよ!……痛い、痛い。何だか分からないけど私が悪かったから許してー!」


 張り倒した後、反省が見られないので両の拳でこめかみをグリグリしてやる。


  「人様を勝手に連れてきて何様のつもりだ!子供だからって悪いことをして反省もしないならこうだ!」


 グリグリを加速させ威力をあげる。涙目だった女の子はガン泣きに代わり、謝罪の言葉を口にする。


「か、勝手に召喚してすいませんでしたー!もう2度とこのような真似はしませんので許してください〜」


 とりあえず謝罪の言葉が聞けたのでグリグリは止める。が離しはしない。なにせ変な力を使いここまで連れて来た奴だ。隙を見せるとどうなるか分からん。


「勝手に呼んだことは謝ったのでゆるしてやる。さっさと元の場所に戻してくれ。」


 元の場所に戻りたいのでそう言ったのだが、女の子はガタガタと震え出して何も言わない。お仕置きが足りないのかと頭を挟んでいる両の拳に力を入れると、バタバタと手足を動かして逃げようとする。


「逃げようとしないでさっさと戻してくれ。仕事が途中なんだよ。」


 そう言うと諦めたのか動きを止め、ボソボソと何かを呟きだした。


  「えーすいません。戻す方法って知らないんですよ。」


 女の子はグリグリグリをされながら頭が持ち上がった。その日最大の鳴き声が部屋の中に響き渡った。







「初めまして。悪魔公爵ヴェルザード・ラウ・ハンガの一人娘カナハ・ロウ・ハンガと

 言います。年は540才、今はトナウ領の管理を任されています。……ねぇこれでいいの?」


 涙目で女の子座りをしている少女がこちらに反応を求めている。

 北欧系のような白い肌に青い瞳、金髪の髪を両サイドで纏めている。所謂ツインテールというやつだ。背は120cmを少し越えたぐらいか?服装は黒で統一されたドレスで赤い靴を履いている。

 ここまでは地球にもいる美少女なのだが、両耳の辺りにある小さな羊のように丸まった角と背中でパタパタ動いている羽根、挙句にスカートの後ろから出ている尻尾。

 

 どう見ても悪魔の様な姿である。名乗りの時も悪魔公爵の娘とか言ってたしな。


「ねぇ。返事くらいしてよ!睨まれたまま無言なのは怖すぎるのよ。」


 あー涙目から半泣きになりそうだ。話の内容はともかく返事くらいはしてやるか。


  「挨拶の仕方はそれでいい。……で俺は元の世界に戻れないという悲しい状況なのも分かった。では、質問に移る。どうして俺を呼んだんだ?それが知りたい。」


 どうして俺がこんな所に来なければならなかったのか。まずはそれを知らないと対処が出来ない。こちとら田舎で多少の農作業と山の管理、日常工作くらいは出来るが戦闘だの軍略などは全然出来ないし分からない。


「貴方を呼んだのはこの私の部下としてゾーンマスターの仕事をしてもらうためよ。」


 なぜか誇らしげに胸を張り、得意げなカナハ。既に呼び出した部下に梅干しグリグリをくらって泣いた事を忘れているらしい。両手を拳に変え、近付こうとするとその場でガタガタ震え出した。


  「さて、次の質問だ。ゾーンマスターとは一体何だ?分かりやすく説明してくれ。」


 多分凶悪な笑みになっているだろうなと思いつつ次の質問をした。勝手に部下扱いにも腹が立ったが知らない単語が出て来たのでそれを知ることの方が大切だ。


  「はい!ゾーンマスターとは設定した領域の主人となる事で部下を召喚したり、物を生産したり出来る職業の事であります!」


 新兵みたいな回答の仕方だなと思いつつ、先ほどの会話の内容を考える。部下を召喚ってどういう事だ?俺みたいに攫って来るってことか?物の生産って事は製造業なのか?物の作り方なんてほとんど知らんぞ?


 余程難しげな顔になっていたのかカナハはワタワタしながら捕捉を始める。


「部下の召喚は領域の魔素によって作られる為、何処からか呼び出す訳ではありません。物の生産も同じで魔素によって作られる為何かを消費して作る訳ではありません。」


 必死に説明するカナハを見ながら魔素とは何ぞやと考える。とりあえずは万能物質とでも覚えておこう。


「俺は魔素とやらを見た事も聞いた事もないんだがそれでも使えるのか?」


 やれる事なら頑張れるんだがやれない事をやれと言われても困る。営業では誤魔化したりしたら後から困るのは自分自身だったのだ。はっきり出来る事と出来ない事を伝える方がお客にとっても自分にとっても1番良い。……とは言っても営業にはノルマという残酷な現実があるので中々上手く行かない事も多いのだが。


  「大丈夫です。職業による補正によってその辺りは自動的に習得したことになりますから問題ありません。習熟するには経験が必要になりますが。何が出来るかはステータスボード見た方が早いですね。」


 成る程。職業に就けば最低限の技術が勝手に出来るようになるのか。デタラメな世界だな。んで慣れるには経験が必要だと。ステータスボードとか益々ゲームみたいな世界だな。


「じゃあ。ステータスボードの出し方を教えてくれるか?」


「ステータス・オープンと言えば出ますよ。表示で分からない事があればそこを触れば詳細がでます。」


 簡単に出来そうなので試してみる。少しワクワクしているのは仕方がない。これでもゲーム好きで特にRPGは大好きだった。スーファ○の頃が懐かしいな。


「ステータス・オープン!」


  少し大声になったが無事半透明な板状に文字が表示されている物体が出てくる。よし!確認作業だ。







(名前)

 加藤 勝

 人間

 38才

 Level 1


(出身国)

 日本


(職業)

(有)者/ゾーンマスター


(ステータス)

 HP 50

 MP 0


 筋力 30

 知力 150

 敏捷 30

 器用 100

 生命 30

 精神 999

 幸運 5


(スキルスロット)7/10

「レアスキル」

 ・異世界言語

 ・鑑定 Lv1

 ・偽装 Lv1

 ・アイテムボックス


「ノーマルスキル」

 ・農業 Lv1

 ・木工 Lv3

 ・商人 Lv6


(称号)

 ・異世界転移者

 ・悪魔を素手で倒した者

 ・ツインジョブ


(賞罰)

 なし







 言いたい事は色々あるが先ずは職業について調べよう。


 ・(有)者


 この世界の神々である天使長や大悪魔に試練を与えられた者が勇者である。(有)者は異世界に来てすぐさま悪魔を屈服させた貴方専用のジョブである。劣化型勇者とも言う。


 レベル上昇時ステータスアップ(小)

 経験値増加(小)

 鑑定

 アイテムボックス

 偽装




 へーそうですか。そうなんですか。なるほど。この詳細とやらは俺を怒らせたいのか。……まぁ無いよりはマシだし我慢するしかないか。


「ぷっ…何よ(有)者って。あんた面白がられてるんじゃないの?ぷぷっ……痛い!痛い!ごめんなさい。ごめんなさい!」


 途中、変な邪魔が入ったのでガキンチョの頭を脇でロックして絞り上げる。悲鳴が聞こえるが無視だ無視!


 ・ゾーンマスター


 領域を作りその場を支配する者。ダンジョンマスターに似ているが範囲が広く空中・地上・地下に迄効果がある。アンブロア大陸のみに適用されるジョブ。爵位持ちの悪魔がつける。


 魔素操作能力向上

 眷属召喚

 領域操作

 魔素製品作成



 これはかなり強力なジョブだな。しかし、疑問点が2つある。1つ目は領域を作りという所だ。そんなもん作った覚えが無い。2つ目は悪魔がつけるという所だ。ボートを見ても人間と種族はなっている。カナハに疑問点の場所を指差し説明を求める。


「うぅ……痛かった。何ですか?詳細におかしい所でも?成る程、領域は私が作ったものです。あと確かにこのジョブは悪魔がなる事がほとんどですが今回は私が貴方に領域ごと移譲した事になった為、貴方がゾーンマスターになった感じですね。それにしてもツインジョブとは珍しい。」


 ボートを見ながら解説するカナハ。しかしその解説で更に疑問が増える。どうなっているんだ?


「領域を移譲って何時やったんだよ?そんな事された記憶がないぞ?」


 多少問い詰めるような話し方になったのは仕方がない。見る事全てが異常なのだから。

 まぁこちらの常識などは知らないから何が正しいかも分からないのだが。


「えーと。それはですね。カトーさんを召喚したらすぐ私に攻撃しましたよね。それで私が降参した為、領域が貴方に移動してジョブもそれにつられて移動したのではと推測されます。」


 まさかの下克上⁈俺がやっちゃったって事か?これは酷い。


「あれ?でもお前、私の部下として呼び出したとか言ってなかったか?あと、眷属は魔素でつくるんじゃなかったのか?」


 話しの食い違いが出てきたので確認する。するとカナハは嘘がバレた子供のように(500過ぎの悪魔だがな)言い訳を始める。


「あ、あの時は私のジョブがゾーンマスターから召喚師に変わったから、貴方がそれに気付く前に貴方が元からゾーンマスターだった事にしようかと……ぎゃー許してー!そ、それから眷属召喚は魔素から作るのは本当よ。でも私が眷属召喚をした時、どうやら何かが起こって未知の召喚儀式のように違う世界から召喚するようになったみたい。貴方の世界に繋がったのは多分貴方の世界で私達の世界に関わるような何かが起きたとしか言いようがないわ。」


 途中に折檻を交えながら言い訳をさせたのだがどうやら今回は嘘をついてないようだ。


「ふむ。ゾーンマスターのジョブについては納得した。次にステータスに関してなんだがおかしい所はあるか?」


「ステータスね。見てみるわ。………人間のレベル1だと平均値が30前後だからある意味一般人と言いたい所だけど知力と器用は高めね。…あんたなんで精神が999もあるのよ⁈ほとんど人間最強の精神なんじゃない⁈幸運は酷いわね。スライム並み?…魔力0ってあんたどうして生きてるのよ⁈」


 どうやらステータスも規格外らしい。悪い意味で。カナハが慌てて俺の体を触りまくっているが俺はロリではない。落ち着かせてから体から剥がす。


「どっか痛い所とかない?体に力が入らないとか、脱力感があるとか眩暈とかしない?」


 余りにも必死なので目を瞑り神経を集中する。……問題無いようだ。


「大丈夫だ。何処もおかしい所はない。」


 そう言うと安心したのかその場に座りこむ。ちょっとだけ感動してしまったので頭を軽く撫でて「ありがとな」とお礼を言っておく。


「違うんだから!ゾーンマスターのジョブを持ったまま死なれたら私が困るから心配しただけなんだから!」


  ホッペを真っ赤にして怒り出すカナハ。これが噂のツンデレかと感心していると頭の中で何かが鳴り出す。


『警告します。此処から東に3kmの場所に敵対生物を感知しました。早急な対応を願います。』


「はぁ?敵対生物を感知しただと?なんだそりゃ。」


 思わず聞いた報告をそのまま喋ってしまう。その言葉を聞いたカナハは真っ青な顔になりこちらに詰め寄ってくる。


「方角と距離はなんて言ってた?あと数は?」


 あまりの剣幕に驚きながらも先程の報告を思い出す。


「東に3km。数は…報告に無いな。」


 そう答えるとカナハは難しい顔をして考えこむ。沈黙の時間が過ぎ、意を決した顔でこちらに話してくる。


「とりあえず眷属召喚をしてみて。戦力が足りないから少しでも作らないと!あとは魔素品作成で使えそうな武器を作って!」


 カナハの真剣な顔にことの重大さを感じ言われた通りやってみようとする。眷属召喚を思い浮かべると頭の中で声が聞こえる。


『眷属召喚。現在のレベルではゴブリンかコボルトを選択出来ます。』


 とりあえずその2種類の外見が知りたいと思うとゴブリンの外見が現れる。1m前後の大きさで緑色の体。獣のような歯を持ち、血走った目をしている。そこまで見た瞬間これは駄目だと思いコボルトの外見に変える。


 コボルトの外見は身長は同じくらいだが、体が全身毛で覆われており頭が完全に犬である。手足の爪が長く、口からは狂犬病のように涎を垂らしている。


 これどっちかしか選べないの?と考えると肯定の意志を感じる。時間が無いのでモフモフ出来そうなコボルトを選ぶ。


『現在の領域内での魔素では最大5体の召喚が出来ます。何体召喚しますか?』


 数を聞かれたので最大の5体を選ぶ。


『男3体女2体の名前を決めて下さい。』


 面倒なので、タロウ、ジロウ、コタロウを男名で、オイチ、フタバを女名で選択する。我ながら酷いネームセンスだ。


『登録終了しました。各個体にスキルを1つ付与し顕現致します。』


 おい!スキルは選べないのかよ!そう考えるもすでに反応がない。全く不親切な能力だな。そう考えながら眷属が顕現するのを待つ。光が収まり俺の目に映ったのは小学生ぐらいの子が4人と赤ちゃんが1人、それぞれに頭の上に犬の耳とお尻の方に尻尾が付いているコスプレ軍団であった。

 



「おい。これはどうなってるんだ?コボルト召喚したら子供達が出て来たんだが…」


 カナハの側に行き小声で話す俺。子供達は不安そうな顔でこちらを見ている。誘拐なんてするつもりはなかったんだが…


「何よ?ちゃんと召喚出来てるじゃない。むふ、可愛いわねー。あら、赤ちゃんまでいるわ。魔素が足りない分幼児化したのかしら?

  ………ごめんなさい。ごめんなさい。説明するから許して!」


 子供達を見て目をキラキラさせるカナハ。今にも飛びついて行きそうな気配だったので顔面を手で鷲掴みにして空中に持ち上げている。子供達はプルプル震えている。確かに可愛い。


「多分領域の設定が私の選んだ設定のままだったのね。領域の移譲なんて初めてだから気がつかなかったわ。」


 涙目のカナハをジト目で見ながら赤ちゃんをあやす俺。流石に小学生に面倒を見ろとはとても言えない。他の子供達も何故か俺に懐いており俺の体にしがみついたり、触ったりしている。カナハの側には近寄らないみたいだ。クックックッ…


「最初に表示された外見と違うのはその為か。んで設定を変えたと言っていたがどう変えたんだ?それによって戦略が変わって来るんだが。」


 段々不安になって来た俺。こいつの今までの行動を考えると行き当たりばったりな所が多々ある。運が良ければそれでうまくいくこともあるのだろうが俺の運はスライム並みだ。


「私の領域設定はメルヘンね。眷属は可愛さ重視にしたから運以外のステータスが半減、代わりに運の値は3倍ね。スキルは自動所得。その代わりレア物が出やすくなっているの。領域内は直径20kmぐらいになっていたと思う。動植物や自然に関しては面倒だから初期のままね。これでいいかしら?」


「良い訳あるか!てめぇ人生舐めてんのな?舐めてるよな?眷属のステータス半減ってそれだけでもヤバイのが分かるわ!それにも増してスキルが自動所得だと?ガチャじゃねえんだぞ?人生設計真面に考えろや?」


 取り敢えず赤ちゃんを1番大きい子に手渡して、カナハの元に向かう。 先程まで封印しようかと思っていたこめかみへの梅干し攻撃を遠慮なくしてやる。悲鳴が聞こえるがそんなもんでは許されない。敵対生物が来ていることも忘れてお仕置きをしていると悲鳴のように悲しい声が聞こえてくる。


「おとうさん。もうやめて!ぼくたちなにもできないかもしれないけどがんばるから!おねがいだからみすてないで!」


 1番背の高い少年が涙を流しながら叫ぶ。それを聞いた瞬間、お仕置きしていた手を止めそちらを見てしまう。


 召喚されてすぐだから不安だったのだろう。それでも何も言わず頑張って耐えていたのだろう。そこに考えの無い俺の眷属に対する誹謗中傷だ。役に立たないと言っていたようなものなのだ。俺は阿保だ!俺の方が考え無しだ!床に座り込み頭を床に叩きつける。自分がどうしても許せない!


 何度か頭をぶつけていると、背中に何かが当たったのが分かる。何かと思い血に濡れた視界を向けると背中にしがみつく子供が見える。先程の子供よりは小さいが男の子のようだ顔は涙と鼻水で濡れているが可愛らしい顔つきだ。その顔がとても辛そうな表情をしてこちらを見ている。


「おとーさん。ちがでてるよ?いたいよ?もうやめよ?」


 必死に止めようとするこの子を見てしまうと先程の激情もすっかり消えてしまう。その子を抱き締めて「大丈夫だよ。心配かけてごめんな。」と言うと緊張の糸が切れたのか泣き出してしまった。優しい我が子の背中をさすり慰めていると他の子達もやって来た。


「おとうさま。わたしたちはおとうさまのためならなんでもしますからそばにおいてください。」


「とーちゃん。ふたばもなんでもするよ?」


「おとうさん。むちゃをしないでください。ひたいがたいへんなことになっています。」


「あー!だー!」


 真剣な顔で自分を見つめる女の子。心配そうな顔でこちらを見ている女の子。赤ちゃんを抱えて俺の額を痛ましげに見る男の子。まだ何も分かって無いのか元気そうな男の子。

 

  この子達は俺の子供だ。俺が望んで生まれた俺の子供達だ。全員を抱きしめて心に誓う。この子達が悲しまないよう、この子たちが笑って暮らせるようにしようと。


「ちょっと額の怪我結構深いじゃない!手当てするからこちらに額を向けなさい。……(ヒーリング)これで大丈夫。急に怒り出したり、頭を打ち付け出したり…今なんて泣いてるし本当に大丈夫?」


 カナハが心配してこちらを見ている。根が悪いのではないのは分かっているんだが…いやそれどころじゃなかった!


「もう大丈夫だ。すまなかったな。迷惑をかけて。それでこんな状況だが敵対生物相手にどうすればいい?この子達を戦闘に出したく無いんだが。」


 俺の言葉を聞いたカナハも思案げになる。確かに人数は増えたが、戦力としては難しい。戦闘経験の無いおっさん1人でどこまで戦えるか不安すぎる。


「取り敢えずこの子達のスキルを見て見ましょう。後は自己紹介もね。」


 そういえばこの子達の名前も知らないな。名前はつけたがどの子についたのかまでは知らないからな。


「それもそうだな。じゃあお前達、お父さんに自己紹介してくれるかな?大きい子からよろしくね。」


 子供達は元気な声で「はい!」と言うと順番に自己紹介を始めてくれた。やっぱりうちの子達は可愛いな。


「ぼくのなまえはタロウといいます。スキルは[飛射]を持っています。」


 1番目はタロウ。140cmほどの背丈でビーグルのような大きな耳が垂れ下がり細い尻尾を持っている聡明な子だ弟妹達への気遣いも良くできている正に長男といった感じだ。茶色の髪に黒い瞳で美少年。隣の悪魔がはぁはぁ言ってるが気にしてはいけない。[飛射]というスキルは飛び道具ならどんなものでも扱えるレアスキルだそうだ。但し能力半減の為今はそこまで重たいものを持たないから注意が必要だ。


「わたしのなまえはオイチともうします。スキルは[家事全般]です。」


 タロウと同じか少し小さいぐらいの背丈。ピンと張った違った耳と小さな小ぶりの尻尾を見るからにドーベルマンのように感じる。隣の悪魔もほーっと感心するほどの佇まいだ。黒のストレートの髪が良く似合っており黒い瞳と合わさるとまるでお人形さんだ。[家事全般]スキルは名の通り家事全般が出来るレアスキルだ。本人は戦闘スキルが良かったらしいが家事全般が平均以下の自分としては嬉しいスキルだ。


「ぼくはジロウ。スキルは[収穫]だって。」


 タロウにスキルを教えてもらいながら話している130cmほどの元気な男の子。ハスキーより少し短いモフモフの耳とクルリと大きいモフモフの尻尾。これはマラミュートかな?髪の毛は薄い黒なのだが耳元付近だけ白くなっている。青い瞳が撫でて撫でてと言っているみたいでついつい頭を撫でてしまう。…

 あ、他の子達がしょげている。みんな集めてなでなでだ。悪魔が一緒にいたが気にしないでおこう。スキル[収穫]は採取した物が高品質になり量も増えるというレアスキルだ。これからの生活ではとても重要になりそうなスキルだ。


「ふたばだよ。スキルは[詳細地図]なんだって。」


 ジロウより5cmぐらい小さいのかな?葉っぱのような耳に細いながらもモフモフな尻尾、何より大きくうるっとした黒い瞳。これチワワだ!髪は金髪で少しウェーブのかかっており肩の辺りで切り揃えられている感じ。すでに悪魔が抱きついているのは仕方がない。可愛いからね!スキルの[詳細地図]は10km四方の地図をステータスボードのように出したり、視覚に表示できるらしい。拡大機能もあるため非常に便利そうだ。これまたレアスキルらしくレアスキルのバーゲンセールだな。


「うー、あぅ。あー」


 俺の胸元で元気にはしゃいでる男の子のコタロウです。大きく三角な耳にふさふさの尻尾。シェパードかと思ったが髪と尻尾が白い。ホワイト・シェパードかな?珍しい。目の色が両方で違う、金銀妖瞳だ!青と黒の2色の瞳は神秘的だなぁ。生後1年未満としか言いようがない。頭や耳を撫でると喜ぶのでやめられない。悪魔はこっち来ないで下さい。スキルは確認した所[皇帝覇気]と言うユニークスキル。俺の[鑑定]では名前しか分からず、カナハの[鑑定]は弾かれるらしい。取り敢えずは素質が凄いということだけ分かった。可愛いからどうでもいいけど。


「困ったわね。戦闘系は1人。コタロウは未知数だし赤ちゃんだから除外するとして前衛がいないわ。」


 悩ましそうなカナハは放って置いて、俺はコタロウを抱いたまま魔素製品作成を意識する。


『思い浮かべたものを魔素で作成します。現在1000Pの魔素製品ポイントがあります。』


 片手剣、盾、レザー装備一式を思い浮かべる。


『それらを作成すると500P消費します。』


 はいを選択する。


『アイテムボックスにお届けしました。』


 アイテムを意識して先程作った装備品を床に出す。周りの子供達はびっくりするし、カナハは口を開けて言葉が出ないようだ。タロウにコタロウを預けると黒い革で出来たレザー装備を1つずつ装備していく。


「ち、ちょっと貴方、いきなり魔素製品作成なんてどうして使えるのよ?しかも完全に使いこなしているし……」


 動揺しまくりのカナハを無視してレザー装備一式をつけ終える。体を動かしてズレや重さの確認をする。最後に鞘を腰につけ片手剣と盾を持ち、片手剣を振ったり、盾を持って視界の確認をして自分の現在の状態を確かめる。


「加藤、ちゃんと質問に答えなさいよー!」


 カナハが遂に切れたようだ。余り余裕はないのだが仕方がない説明するか。


「眷属召喚で大体のコツは掴んだので魔素製品作成は使えた。製品の武具については映画を参照し作った。銃やロケット、飛行機などは想像出来なかったので制限がある事も分かった。武器防具は使ったことがなかったので今装備して特性を調べている。」


 言い終わるともう一度魔素製品作成を使い、ボーラーとスリング、あと短剣と小瓶を2個ずつ作成する。これで魔素製品作成ポイントは残り100Pになっている。


「タロウこれがお前の武器だ。俺が敵の攻撃を引きつけるからお前が倒せ。」


 ボーラー、スリングそれと短剣に小瓶を1個を渡してやる。瓶の中にはある液体が入っている。タロウに余り負担を掛けたくないのだが仕方がない。


「わかったよ、おとうさん。おとうさんをきずつけるやつはぼくがやっつけるんだ!」


 腰にボーラーと短剣を挟みスリングを持って俺に決意を語るタロウ。コタロウはオイチに預かってもらう事にする。自分も腰に短剣と小瓶を挟み邪魔にならないか調べる。


「何そんなにやる気になってるのよ?来たばかりの頃は滅茶苦茶嫌がってたのに。」


 不思議そうに尋ねるカナハだがそんな簡単な答えは1つしかない。


「子供達がいるからだ。この子たちがいるから俺はここに残ることに悔いはないし、生きがいを感じる。この子達の為なら戦闘なんか大したことがない。」


 きっぱりとそう答える。地球での生活に未練がないわけじゃない。それでもこの子達がここに生まれお父さんと呼んでくれるならこちらの世界で骨を埋める覚悟だ。


「本当に貴方お父さん気質なのね。確かにこの子達は可愛いものね。私もお母さんとして頑張らなきゃ…」


 んん?何か変な単語が聞こえたぞ?気のせいかな?


「おとーさん。おかーさんといっしょにがんばろうね。」


 ジロウが笑顔でそう言ってくる。ジロウがお母さんと認めるなら仕方がない。我慢しよう。


「そうだな。みんなで頑張ってこの危機を乗り越えような。」


 そう言うとみんなが集まって来る。この幸せを守るため出来るだけの事はしていこう。


「カナハ。聞きたいことがあるんだがお前はどの程度の戦力として期待していいんだ?回復魔法を使えるのは分かっているがその他の能力を知りたい。」


 出来ればあてにしたいのだが、カナハ体をクネクネしながら顔を赤らめて答えてくる。


「そんな…私は貴方の妻なんだから協力するのは当然よ?身体的には残念だけど普通の人間と変わらないわ。ただ魔法に関しては防御系、治療系、補助系をかなりのレベルで使うことが出来るわ。…ただし攻撃に関する魔法は一切使えないの。私のユニークスキル[願璽]は攻撃に関するスキルや魔法を使えない代わりにその他のスキルや魔法の効果を3倍にしてくれるスキルなの。サポートならお任せって感じね。」


 願璽……まさか地球のあの人の名前…いや、やめておこう。そんなことを考えても不毛だ。それにしても癖のあるスキルだな。攻撃がどの程度までは含まれるか分からないから不安だか後衛としての能力は高そうだ。


「分かった。後衛としてあてにさせてもらう。タロウと2人で俺をサポートしてくれ。どんな敵か分からないから基本だけ決めておく。前衛は俺1人。苦情は受け付けない。後衛はタロウのカナハ。タロウは敵に隙が出来たら攻撃で。カナハは俺に防御と回復を切らさないようにしてくれ。万が一敵がそちらに漏れたら防御魔法で防いでくれ。出来るな?」


 カナンとタロウは頷く。しかし、ジロウとフタバから異論が出てくる。


「おとーさん。ぼくもたたかうよー。」


「とーちゃん。なかまはずれはだめだぞー。」


 拳をぎゅーと胸元で握るジロウや腰に手を当ててプンスカなフタバを見ると心が挫けそうだが頑張って耐える。


「駄目だ。お前達にはコジロウを守るという大切な任務がある。ここに残ってみんなを待つんだ。」


 俺がそう言うと悔しそうに涙目でこっちを見てくる。精神的ダメージが大きいが俺の精神は999だ。


「おとうさま。おとうさまになにかあればわたしたちはいきていられません。それがけんぞくというものです。せめておかあさまといっしょにこうどうさせてください。」


 オイチが冷静に反論してくる。実はこれを言われるのが嫌で話を早く纏めたかったんだが……ジロウとフタバも期待した目でこちらを見てる。仕方がないか…それにしてもオイチは本当に頭が良く回る。そしてあの決意を秘めた瞳。あの子は俺に何かあれば俺の命令を無視してまで自分を犠牲にする、そんな感じがする子だ。オイチの側にいって頭を撫でる。この健気な子に無理をさせない為にもなんとかしないとな。


「あ、あぅ。おとうさま、はずかしいのですが…」


 オイチが頬を真っ赤に染めて言ってくるが可愛いからやめられない。そんな折頭の中に警告音が響き渡る。


『敵対生物との距離が100mを切りました。ゾーンマスターが消滅しますとこの領域は移譲されます。気をつけてください』


「敵対生物との距離が100mを切ったらしい。カナハ、魔法で探れるか?」


 カナハに尋ねると首を横に振られる。


「出来るけど、それをするとこちらの場所までバレるわよ?それでもいいならするけれど。」


 レーダーみたいなもんで魔力を飛ばすから分かるのか?


「それなら無しで。俺がまず1人でここを出る。俺には魔力が無いから気づかれにくい筈だ。扉を開けておくから俺の合図が聞こえたら出て来てフォローに回ってくれ。いいな?」


 そう話すとみんなが頷く。良し、防衛線の始まりだ!







 地下室から部屋に上がる。小さな小屋のような建物だったらしく窓から2つしか無い。窓の下まで這って行き、携帯用の鏡を窓に向けて外の様子を探る。辺りに動くものは見えないな。窓を開ける為立ち上がりもう一度周りを確認する。問題なしっと。窓をゆっくり開け外に出る。周りの音で異音がないか確かめるが特には聞こえない。壁を背にして角まで動く。角にくるとまた携帯用鏡を使い辺りを確認……いた!玄関になるのか扉の前に2mをはるかに超える人型の何かがいる。しかも扉を壊そうとしているようだ。こちらを向いていないようなのでそっと覗いてみる。なんだあの筋肉の塊は…取り敢えず人型なので予想はしやすいが知能の高さも分かってしまったので気が抜けない。携帯を取り出してアラームをセット、最大音量で3分後。これを先程の窓の下に置き反対側に回る玄関が壊れる音がする中で、反対側に回った俺はその時を待つ。


「ピッ!ピピピピピピピピピピピ」


 かなりの大きな音が響き渡る。巨人もそれに気づいたらしくそちらの方を見る。早くそちらに行ってくれと願いながらそのまま見守る。


 巨人は少しだけ躊躇したもののそちらに向かい歩き出す。背中をやっと向けた!10mもないこの距離ならこいつをぶつけれる!


 全力で巨人に小瓶を投げる。割れるかどうかだけ不安だったが[鑑定]で相手にぶつけると効果が発生するとあったので信じるしかなかった。小瓶は巨人の背中に当たると光の粒子を放ちながら中身を撒き散らした。


「グゥオオオオッ⁈」


 巨人が悲鳴を上げのたうち回る。俺は倒れた巨人の足を狙って剣を振り下ろす!


「ザグッ」


 鈍い音を立てて剣が太ももに当たるが2cm程度しか切れない。すぐに剣を引き戻しまた足を狙い振り下ろす。


「うおおおおおおぉ!」


 叫ぶことで合図とし、少しでもダメージが上がればと考えていたがやはり同じ程度のダメージしか与えられない。逆に振り回した手が俺に当たる。


「ぐはあぁ⁈」


 今まで生きていて1番の苦痛が体全身を襲う。カナハに地下室から出る前に防御魔法と継続回復魔法をかけてもらっていたが、無ければ確実に死んでいただろう。


「とーちゃーん!」


 フタバの悲鳴が聞こえる。先程の叫び声か、その前のアラームで出てきたのかどちらか分からないがタイミング的にはバッチシだ。振り向かずに作戦を叫ぶ。


「タロウ!石だとダメージがいかない。渡した小瓶が確実に当てれるなら当ててくれ。カナハ、済まないが回復を頼む。他の3人は待てだ。こら、オイチ。ステイ!」


 オイチがこちらに来ようとしたので止める。やっぱあの子は予想通りすぎる。痛む体を無理矢理立たせて、巨人の様子を見る。背中の傷が少しずつだが治っている⁈嘘だろ。あれ王水だぞ⁈


「き、貴様。名乗りも上げず不意打ちとは恥知らずめ!我は悪魔男爵ネガル様が腹心のバーモン。此度は…ウギァァァァ⁈」


 巨人の顔面にタロウの投げた小瓶が当たる。王水が皮膚を溶かし、骨すらも溶解させていく俺の知る限りで想像出来た最強の薬品だ。1つ100Pもしたが安い買い物だ。…それにしてもタロウめ。言われた通り躊躇無く口上中にぶつけたな。頼もしい限りだ。倒れてビクビクしている巨人の元に慎重に近づき、動かないのを確認して喉に片手剣を突き刺す。今度はすんなりと刺さり巨人はピクリとも動かなくなる。


「ふぅ。やったか?」


 溜め息をつき、ようやく緊張を解く。子供達とカナハがこちらに向かってくる。…カナハの背後の景色がおかしい?そう感じた瞬間俺は無意識に走り出しカナハを抱き締めて転がる!


「な、何よ?そんなにうれしかったの?まだ昼間なんだから駄目よ。せめて子供達が寝てからに………勝?…背中から血が出てる⁈」


 背中から血を流す俺を見て動揺するカナハ。駄目だ周りを見ろ!そう言いたいのだが声すら出ない。毒でも塗っていたのか?次の瞬間タロウが吹き飛ぶ!それを見た瞬間、動かない体が立ち上がりタロウに攻撃した相手に剣を振るう!


「まだ動けるのか?バジリスクの毒だぞ?こいつ本当に人間か⁈」


 姿が見えるようになった相手はまさに蜥蜴人間だった。いやカメレオンだから少し違うか。上半身がカメレオンの男は短剣をこちらに向けながら嘲笑っている。確かに俺は体がボロボロだし、背中からは大量出血で毒に侵されている……だが息子に手を掛けたお前の魂も一緒に逝ってもらうぞ!


 片手剣を腰に構え体当たりするつもりで突撃する。蜥蜴人間は驚きはしているものの俺を殺す為に短剣を構えている。声なき声を上げ続け意識を繋ぐ俺の背中にカナハの呼ぶ声がかすかに聞こえる。


『召喚者カナハより[願璽]のスキルが一時的に貸し与えられました。ユニークスキル[願璽]はユニークスキル[父性勇者]に変換され発動します』


 体の痛みが一時的に消え身体能力が増す。スピードが跳ね上がった俺の攻撃は相手の体の中心を貫き、相手の短剣は空をきる。


「ふ、ふざけるなこの野郎?!」


 蜥蜴人間の短剣が俺の頭を狙う。先程の力はとうに消え去り俺はただ短剣が目に映るのをただ見ていただけだった。


「ビャーーーーーーー!!!」


 ものすごい鳴き声がこちらに届く。白い閃光のような波動が辺り一面に広がる。コタロウがこちらを向いて泣いている。泣き声そのものが力のようになって蜥蜴人間を弾き飛ばす!


「フタバ!コタロウをおねがい。」


 オイチはコタロウをフタバに渡すと俺の体に近寄り短剣を取る。やめろと言いたいが声が出ない。蜥蜴人間は逃げようとするが動かないのかその場に片膝をついたまま……舌を伸ばした!その先には紫色に濡れた針のようなものがある⁈


「しゅーかーく!」


 ジロウの声が響き渡ると同時に舌の先の針が消える。収穫?収穫で取れちゃうのそれ⁈


「あなたはわがかぞくのてきです。ちなみにとかげはしょくりょうですよね。しょくにくならばかいたいできますよね?[解体]」


 オイチが短剣を振るうと、蜥蜴人間はバラバラに解体され肉と内臓、それに骨に仕分けられる。オイチちゃん⁈それ半分人間よ?ボロボロの体がパニックのせいで踊り出しそうだ。


「みんな無茶し過ぎ!勝大丈夫?(ヒーリング)(キュアポイズン)」


 カナハが涙を流しながら魔法をかけてくれる。体の痛みが少しずつ和らぎ楽になっていく。周りを見る余裕も出来、タロウを探すとヨタヨタしながらもタロウがこちらに歩いてきた。


「おとうさん。ほんとうによかった。」


 ポロポロと涙を流すタロウを撫でてやる。タロウは俺の胸に顔を埋めると声を殺して泣いていた。


「よくやった。さすがはお兄ちゃんだ。」


 王水をこれしかないというタイミングで当ててくれた長男には頭が上がらない。


「とーちゃん。わたしかつやくできなかった。」


 悲しそうに俯くフタバの頭をガシガシと強めに撫でてやる。


「そんなことはないぞーお前が呼んでくれたからとーちゃんは立てたんだ。フタバのおかげだぞ?」


 フタバにそう言うとぱっと明るい顔に戻り撫でられるがままになる。あれがなければ本当に立たなかったしな。


「コジロウもありがとな。お父さんびっくりしたよ。」


 そう言って頬をプニプニするとキャキャと喜ぶ。この子は本当に未知数の塊だな。


「ジロウ。お前よくあんなこと考えたな。おとーさんの予想外だったよ。」


 離れた所で座り込んでいるジロウに呼びかける。生き物からも収穫なんて普通考えないしな。


「ねーさんがあぶなそうだからとりあえずがんばった。でもいまはちからがはいらない。」


 やはり無理をしたスキルの使い方だったのだろう。完全にバテている。もう2人無理なスキルの使い方をしてる子がいるな…


「オイチ。助かったけど無理しすぎだ。お前もジロウ同様疲れているだろう?休みな。」


 側にまで来ているオイチに話しかける。


「いえいえ。それほどつかれていませんよ。あのおにくはどくがありそうなのでまとめてやいておきますね。おおきいのといっしよに。」


 にっこり微笑みながら肉の処理をする少女…怖すぎる。まぁ家族思いの子だから仕方がないよね?


「カナハもスキルを貸し与えるなんて無茶して大丈夫なのか?」


 心配して聞いて見るが本人はあっけらかんとしている。元気そのものだ


「んー何かあの時は無我夢中だったからよく覚えてないの。疲れてないし多分大丈夫でしょ。」


 笑顔でそう言われたらどうしようもないな。頭を撫でてやるとくすぐったそうにするが嫌がる様子はない。


「ピピピピピピ…」


「あ。タイマー忘れてた。止めないとスマホの電池が切れちまう。」


 タロウやカナハを脇に下ろしてスマホを止めに歩き出す。やっぱり勇者なんて柄じゃないな。(有)者で十分だ。暖かい風が汗と血で濡れた体を冷やしてくれる。………いい天気だ。







 あの後レベルが上がったのでゴブリン達を召喚したり、魔力が出来たので生活魔法をとったり、攻めて来たのはカナハの父親の政敵の部下で父親が起こって酷い事になったりと色々な事があった。




 今はみんなで畑を作っている。魔素製品では食べ物が作れないので苦肉の策だ。畑を作りながら森で山菜や獣を捉え、毎日を過ごしている。


「みなさん。ごはんができましたよ。」


 オイチとカナハがみんなを呼びにやってきた。タロウとジロウが走ってくる。


「おとうさん。ごはんたのしみだね。」


「おとーさん。きょうはいったいなんだろうね。」


「だーだー!あー」


 子供達が楽しそうに話し掛けてくる。それに返事をしながら今まであった事を思い出し、思い出したかのように呟いてしまう。


「(有)者っていったい何なのさ?」


 夕暮れに周りが染まる頃、誰もその問いの答えを知る者はいなかった。







 終わり。



















































 







 




 




 


 


読んでいただきありがとうございました。

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