ぼうしょのできごと(とあるクランの日常)
ピエモンテ皇国皇都トリノン某所 クラン『コボルト』クランハウス内
「ねぇ、そう言えばあのダンジョンってどうなったっけ?」
窓から光でシルエットしか見えないが声から女性だと推測される。彼女こそ、このクランのマスター、運営陣から『解放者』の異名で呼ばれるダンジョン発掘及び攻略のエキスパート、他のプレイヤーからは通称『白犬さん』と呼ばれる女性である。
因みに彼女曰く、ワンコよりもニャンコが好きとの事。何処かで聞いたことのあるフレーズであるが此処では某犬好きのネコの着ぐるみ野郎は思い出さなくても良い。
「ますたー、それって何処のだんじょんの事を言ってるんです?」
答える犬っぽい雰囲気を持つが女子大生のプレイヤーのポチ。
「アレよ、ロンバルディアのヤツ」
「ろんばるでぃあ?始まりのだんじょんの事です?」
イントネーションが怪しいのは彼女がロシア人留学生だからだろう。拾って来た当初はロシア語しか話せなかった彼女も今では日本語でプレイ出来ている。
「違う。アレよ、王都地下のヤツ。って、そう言えばポチちゃんはアレを見つけた時は居なかったっけ?仕方ない、サブマス、サブマスちゃ〜ん!」
「はいはい、何の御用ですか?ユーさん」
メガネのキリッとした女性。彼女こそがこの『コボルト』のブレーン、サブクランマスターのカイである。彼女が居るからこのクランはトップクラスを維持しているのだ。
「ねぇねぇ、私達が本当の意味で最初に発見したあのロンバルディア王国の王都ミラーノの地下ダンジョンってどうなってるの?」
「放置です。敵は雑魚、何処を探してもお宝どころかボスも居なかったじゃないですか」
「そう言えばそうだっけ?でも条件が揃わなかったらボスが出ないってダンジョンもあったからそろそろ条件が揃ったかもって思ったんだけどそこのところはどう思う?」
「はぁ、貴女がそう言うのなら解放されてるかも知れませんね。では新米でも連れて私が行って来ますからマスターはしっかりと次の回層攻略の資金集めをしておいて下さいね」
「え?嫌だけど。私とそこのポチちゃんで行ってくるからその辺の事はサブマスちゃんにお任せします」
「駄目に決まってるでしょうが!あんたがもうちょっとスポンサーに愛想良くしてくれればもっと簡単に資金だって集まるんですよ!」
「このサブマスちゃん、マジで最悪だよ。何で私があんなアブラギッシュなオッサン達の前で笑顔をキープしないといけないのよ。ちょっと愛想良くするとセクハラしようとしてくんよ!それでアゴをカチ割った事の何が悪いって言うのかな?」
「いやいや、一応あのオッサン達はこの国の重鎮貴族って設定のNPCですよ!ハラスメントコードがあるんだからどうせ触る事は出来ないんですから多少は我慢して食事くらい良いじゃないですか」
「嫌。絶対に嫌。アレからは昔の職場に居たセクハラオヤジと同じ感じがしたし、私は接待なんて嫌な事はしません」
「だから三十路なのに結婚どころか恋人も「それ以上言ったらコロス!」アッハイ」
「それを言ったらカイちゃんだって三十路「あ、私は結婚してますから」……クスン、アレガ ワルインダモン。ワタシハ ワルクナイモン アイツガ ムカエニ キテレバ……」
「さぶますがますたーを泣かした~」
「あ〜もう、分かりましたよ!攻略の休憩程度に行って来て良いから拗ねないでよ!」
「やったーカイちゃん大好き。じゃあ、ポチちゃん行きましょう!」
さっと立ち上がってポチを連れてさっさと行ってしまう。
「くっ、あの我儘女王め!はぁ、アレに思われてるあの人には悪いけどさっさとくっついて貰えないかしらね?」
このやたらと勘の鋭いユーさんことユラはとあるプレイヤーがこのゲームに参加しているのでプレイしています。しかし、中々会えません。近付く度にユニーククエストが発生して終わった頃には既に姿が無いと言う状況です。お相手は本拠地をピエモンテ皇国からロンバルディア王国を挟んで向こう側、ヴェネト帝国にある某クランのクランマスターさんです。
サブマスターのカイさんとマスターのユーさんは大学以来の友人です。カイさん自体某クランマスターさんとはリアルでも会った事も無いですがユーさんから何度も話を聞いて知人のように感じる領域です。だからもうさっさとリアルで会ってくっついてしまえと思っています。




