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前略。栽培スキルがカンストしました。  作者: 軟体悪魔
第1章 出会いと始まり
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第5話 ビギニング・ニューライフ

「お?これはまだ見たことないやつだな」


膝ほどの高さの茂みの中で、ある植物を見つけた。

その植物の見た目は、元の世界のフウセンカズラに似ている。というか、そのまんまだ。

しかし、これが絶対にフウセンカズラではないということを、俺は2日間の探索で学んでいた。

慣れた手つきでウインドウを出す。


「どれどれ…。『炸裂かずら』か…。ええと、ふむふむ、これは使えそうだな」


名前を一瞥しただけで、俺はその植物の特性を瞬時に悟った。いや、思い出した。


3日前、レベル100の栽培スキルという訳のわからない天からのプレゼントを受け取った俺だったが、いきなり頭の中に知識を詰め込まれたせいで、情報の整理がほぼ不可能な状態だった。

しかし、こうしてウインドウを開いて1度名前を確認すれば、その植物の情報はパズルのピースを嵌めるようにきちっと整理されるのだ。

栽培スキルなんて名前の癖して、栽培に関係ないとも取れる植物の知識まで影響してくるのは、何というかガバガバと言えなくもない。まぁ、ありがたいことだが。


そして、この炸裂かずらの特性はこうだ。

春に育ちやすい植物で、種を植えてからだいたい2ヶ月で花を咲かせ、数週間で実を付ける。そこから更に数日経つと、実は本体から切り離され、地面へと落下する。落下と同時に実は破裂し、中の種を四方八方にぶちまける。そうやって個体を増やしていくわけだ。


俺がこの植物に価値を見出したのは、この破裂する特性にある。

一昨日、ニトロ豆という、その名の通りニトロを含んだファンタジー感丸出しの植物に出会ったのだが、それとこれとを交配すれば、なかなかワンダフォーなことができるんじゃないかと思ったのである。


さり気なく言ったが、なんと、この世界では異なる種の植物間で種子をつくることができる。

やり方を説明するのは不可能だ。なぜなら、俺もなぜ自分がそんなことをできるのかよくわからないのだから。

これも知識を一度に詰め込まれた弊害だろう。今の俺は植物に関してなら、理屈ではなく、フィーリングでありとあらゆることが出来てしまうのだ。


まぁ、魔法のある世界だし、これくらい日常茶飯事なのかもなぁ。


「よし、今日はこれくらいにすっか」


今俺は、村から500mほど離れた茂みにいる。

こんなところで何をしているのかというと、植物採集だ。先ほどのように、知らない植物を見つけたらウインドウを開き、情報を整理し、研究に役立ちそうなら少し持ち帰る。

こんなことを俺はここ2日の間も行っていた。たった今終えたこの探索は3回目だ。


当然、暇だからとか、そんなテキトーな理由でやっているのではない。

ロックさんの計らいで住居を手に入れた俺だが、今は食事までロックさんに世話を焼いてもらっており、完全に居候状態だ。

早いところ研究者になって収入を得たいところだが、研究者になるには実力を示せるようなレポートを作成することが必要だ。

そのレポートを作成するための資料を、俺は探していたのだった。


フウセンカズラを1本、茎から千切って手持ちの麻袋に入れる。

脳内でbombの4文字を躍らせつつ、俺は足早に村へと戻った。



「ただいまーっと」


誰もいないのはわかっているが、気分が良いからか、ついそんなことを口にしながらロックさんに与えられた自宅の扉を開ける。


部屋の中は清潔そのものである。元は実験室ということでなかなかにダーティーだったのだが、ロックさんが何やら魔法を使うと、瞬く間に汚れやカビ、ホコリなどは消滅した。聞けば特殊魔法の1つだという。掃除楽になりそうだし今度教えてもらおっと。


間取りはロックさんの自宅と全く同じで、なんと家具の位置までもが同じである。ロックさん曰く、「家は見た目より実用性」であり、この家具の置き方がベストなのだそうだ。

1つ違う点は、こちらは奥の部屋を研究室として使うことにしたので、ベッドが前の部屋に置いてあるところだ。逆に言えばそれだけ。

家具はどこから調達したかというと、村の家具屋に頼んで、給金が入ったら利子を付けて代金を払うと約束して貰ったのだ。そのお願いをするだけでも図々しいと思っていたのだが、なんと家具屋の主人は快諾した上に利子なんていらないとさえ言ってくれた。さすがにそれは申し訳ないので俺が押しまくって利子を付けさせたのだが。


俺は、例の親切なご婦人の勧めで、異世界召喚された翌日に朝の寄り合いで自己紹介をしていた。村民は全員が歓迎してくれて、その後果物や肉や筆ペンなどをプレゼントしてくれる人が続出し、村民の人の良さをよく味わった。

そして今、俺はテーブルの上を見つめ、また同じことを切に思っていた。テーブルの上には木製の可愛らしいバスケットが置いてあり、白い布が覆い被さっている。その上にはメモがあり、「サンドイッチを作りすぎてしまったので、よかったら食べてください。エリンより」と書いてあった。そう、あのご婦人である。


「エリンさんんんんん!!!!」


バスケットを抱えて泣いた。



サンドイッチをぺろりとたいらげると、時計は14時を示していた。この世界で時計を発見した時は、ひどく感動したものだ。

研究室からサヤエンドウのような形状をした真っ赤な植物を持ってきて、炸裂かずらと共に麻袋にぶち込む。それを肩に引っ提げ、バスケットを手に持つと、ドア付近に立てかけてある杖を腰に掛けて家を出た。


途中、エリンさんの家に寄ってお礼を言ってバスケットを返してから、俺は村の南側へ向かった。

この村の名前はデグフォールといい、面積は1㎢ほどしかない。

ロックさんから聞いたが、この世界の人口は約8000万らしいので、居住地も小さい面積のものが点在しているのだろう。


さて、村の東門から外に出ると、そこには畑が広がっていた。

デグフォールは広大な山林地帯に位置し、南側、つまり俺が3日前に歩いてきた方角には特に何もないのだが、東側には畑、北東から北を回って北西にかけては森林が広がっている。

俺がここに来たのは他でもない、実験のためである。

実験と言っても、植物である以上、そうそうすぐには結果が出ないのがもどかしい。まぁ、多少は何とかなるんだけどな。


麻袋から炸裂かずらを取り出す。こいつから種を出すには、やはり破裂させる必要があるのだろう。しかし、一体どれくらいの勢いで破裂するのかまではわからない。

俺は炸裂かずらをポーイと数メートル離れた場所に投げ捨てた。すると、パァン!という軽快な音と共に破裂し、種が俺の足元まで飛んできた。威力高え…。


種を5粒拾い、真っ赤なエンドウマメーーニトロ豆と共に右手に押し込む。そしてイメージする。

すると、握った右手の内側からパーっと青白い光が溢れ出し、数秒後に収まった。

手を開くと、そこにあったのは5粒の種だ。その見た目は、黒く小さかった炸裂かずらの種とも、さやと同じく赤い色で大豆サイズだったニトロ豆とも違う。そう、これこそが栽培スキルの真髄である。

え?非科学的だって?知ったことか。魔法がそもそもイメージ力によって成り立っているところが大きいらしいし、そういうことなんだろう。

ちなみに、自然界で発生したものではない、つまり、人の手で新たに作られた種に関しては、俺の植物辞典スキルは発揮されない。そりゃそうだ、今作ったんだもの。当然ウインドウを開いても、何も載っていない。


その後、そいつらを土に埋めた。種を作り出すところこそ奇跡の所業だが、基本的には植物なので、普通に育てる他ない。俺は改めてこのスキルの地味さを実感して嘆息する。

しかし、先程言ったとおり、時間に関しては多少は何とかなる。どういうことかというと…


「汝、生命の女神よ、我が願いに応えて今その力を示さん。この小さな命に、生命の息吹を送りたまえ。ーープログレッシオ」


俺は右手に杖を持ってそう唱えた。すると、種を埋めた場所の数センチ上に小さな魔法陣が出現し、くるくると回転すると、中心に向かって一気に収束し、消滅した。これで、植物の成長を加速させる魔法『プログレッシオ』がかかったはずだ。本来なら実をつけるまで2ヶ月ちょいかかるものでも、この魔法を使えば、なんと1週間にまで短縮できる。マジ便利。


さて、これでわかったと思うが、俺は魔法を使えるのだ。初めて魔法にチャレンジしてみて、成功の兆しが見えた時の俺の喜びようたるや。

その時使おうとしたのは、炎属性の低級攻撃魔法、『イグニート』だったが、低級とはいえ攻撃魔法は習得が難しいらしい。案の定失敗はしたのだが、手のひらから少し黒煙が漏れ、これは魔法の素質があるのでは、という話になった。そして次に低級特殊魔法『プルガーティオ』ーーロックさんが俺の現自宅を綺麗にするのに使った魔法だーーに挑戦したところ、見事成功したのだった。


しかし、だからと言ってすぐに魔法使いまくり便利生活とは行かない。前に言った通り、マナを魔力に変換するには体力を消耗する。俺の変換の仕方にはまだ無駄が多いらしく、要は効率が悪いので慣れないうちは人一倍疲れるだろうとも言われた。

加えて、詠唱の存在である。何も、さっきのあれは雰囲気づくりのために言っていたのではない。

慣れれば短縮したり無詠唱でできるらしいが、初めのうちは、その魔法を使う感覚を掴むために詠唱が必要不可欠なのだ。

そして、俺が最初に詠唱を覚えたのが、今使ったプログレッシオなわけだ。この魔法を勧めてくれたロックさんには感謝しかない。なにせ俺にぴったりだ。

ロックさんには、魔法のレッスンの他にも、ありがたいものを貰っていた。それがこの杖である。

格別高価とも見えないこれは、ロックさんが魔術の研究をしていた時に使っていたもので、魔力の変換を助ける効果がある。曰く、マナが体を循環しやすくなるらしい。

そんなこんなで、俺は日夜暇な時には魔法の講習を受けている。


そんじゃま、用事も終わったし帰るかと、俺は空の麻袋を担ぎ直した。

いい天気だなぁと、何となしに遠くの草むらを見やる。そこで、俺はありえないものーーいや人を見た。


そこには、黒髪の少女が、一糸纏わぬ姿で横たわっていた。

前回、物語がいよいよ展開していくぞ!みたいなことを言った記憶がありますが、大きく動くのはまた先送りになってしまいました。すみません。

次回はやっとヒロインが登場します。

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