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前略。栽培スキルがカンストしました。  作者: 軟体悪魔
第1章 出会いと始まり
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第4話 夜の闇と謎は深まる。

「俺だって魔法使いたかったのに…」


ブツブツと文句を垂れる高校生。


「いや…まぁホラ、まだ使えないって決まったわけじゃないんでしょ?諦めるのは早いって」


精一杯慰めの言葉を贈る大学生。


そこには、先ほどとは打って変わった図式が展開されていた。

幾度目かの励ましの言葉を受け取り、残された希望を信じるしかないんだと自分に言い聞かせたところで、横から警告が入る。


「おい…もう話は済んだのか?ジジイをどれだけ酷使するつもりだ」


左隣を見ると、右手をかざしたままのロックさんが眉間にしわを寄せてこちらを見ていた。

そうだった。これ、ロックさんから供給される魔力で動いてるんだった。

魔力は大気中のマナから錬成されるので、魔力切れが起きることはないが、マナの変換は体力を消耗するらしい。

気を取り直して手っ取り早く話を片付けなければ。


「すみません、ちょっと取り乱してました。あと少しで終わるはずです。奏さんも、愚痴に付き合ってくれてありがとうございます」


「あーまぁ、いいってことよ。さっきまではあたしが迷惑かけちゃったし」


どうやら酔いが引いてきたようでーーあるいは、俺をなだめるのに苦労したからかーー奏さんは、いつしか冷静な受け答えができるようになっていた。


「それもそうですね」


「……………」


「それで奏さん、単刀直入に訊きますけど、奏さんは元の世界に帰りたいですか?」


沈黙する奏さんをスルーし、俺は核心に踏み込んだ。

そう。これは確認しておかねばならないことだ。数少ない同胞として、利害の一致は何よりも優先すべきことだと俺は思う。

そして返ってきた言葉は、俺にとって望ましいものだった。


「いや?あたし、この世界で暮らしてくつもりだし」


「奇遇ですね。俺もです」


即同意を示す俺。しかし、納得できない者もいた。


「なに?お主ら、本当にそれで良いのか?」


ロックさんだ。

ロックさんの疑問は、世間一般的に見れば当然のことだ。今は席を外しているが、もしこの場にグラントさんがいたなら、ロックさんと同じ反応を示しただろう。ずれているのは、俺たちの方だ。

俺はまだこの世界で1日と過ごしていないが、それでも、元の世界よりも楽しく過ごせるだろうと確信していた。そして奏さんもそうなのだ。


俺は、元の世界だと、いわゆる陰キャだった。

引きこもっているわけでも、素行が悪かったり学業が振るわないわけでもなかった。

ただ単純に、交流のある人がほとんどいなかったのだ。

両親とは中学生の時に永遠の別れとなってしまったし、兄弟もいない。学校に友人と呼べる友人はいなかったし、バイト先にも、よく行く商店街にも、業務的以上の関係はなかった。


そんな俺だから、普段夢見ていた世界そのものとも言えるこの世界は眩しく、不可思議な転送も運命とさえ思える。

奏さんにも似たような事情があるのだろう。先刻の、名字で呼ばれるのが嫌いだというのは、あるいはその関係なのかもしれない。しかし、余計な詮索をするのは野暮であろう。


「いいんです。ロックさん。心配しなくとも、俺たちはこの決断を後悔はしません」


覚悟を決めた顔でロックさんと向き合う。

しばらく沈黙が続いたが、ロックさんは最後にはうむと頷いてくれた。


「それはわかったがお主、生活はどうするつもりだ?家は?食事は?」


うん。俺もそれだけが心懸かりなんですよね。

キメ顔でかっこいいこと言っといてなんだが、冷や汗をかくのを感じる。


「ちなみに、あたしはグラントさんの屋敷に魔術研究者として置いてもらうことになったから」


思わぬ方向から追撃を食らった。

しかし、気になる単語の登場に意識が向く。


「研究者?」


「ワシが説明しよう。研究者というのは、その名の通り、魔術や物質、植物やモンスターの研究を行う専門職だ。王国の専門機関にレポートを提出し、実力があると認定されればライセンスを得ることができてな、月に1度、研究報告書を送り、それに見合った報酬を得られるのだ。その他にも、申請が通れば研究に使う道具の支給もして貰える。素晴らしい職業だな」


ロック老人は恍惚の表情でそう語った。

体を電流が走る。これだ、と思った。

そう、俺には膨大な植物の知識がある。それもカンストだ。天職とはこのことだろう。


「よし!俺、植物研究者になります!」


勢いよく叫んだ俺に対し、他の2人はそれぞれ別の反応を見せた。

奏さんはあーなるほどねなんて言っている。彼女の魔法スキルと同じように、俺が高度の栽培スキルを有しているということがわかったのだろう。

一方、ロックさんは怪訝そうな顔だ。そりゃそうだろう。


「お主、この世界の植物の知識があるのか?飛ばされてきたばかりなのに?」


「それがそうなんですよ…。自分でも何故だかわからないんですが、俺の栽培スキルはレベル100なんです」


ドヤ顔で話す俺。案の定、奏さんは100!?と素っ頓狂な声を上げており、してやったりと微笑む。

しかしロックさんの反応は、思っていたものと違った。


「栽培スキル…?ってなんだ?」



訊きたいことは聞けたので、伝言水晶による通話を終了して、俺は再びロックさんとテーブルを挟んで向かい合っていた。


「本当に知らないんですか?スキルですよ?」


スキルの存在を知らないと言うロックさんに対し、何度目かの質問をぶつける俺。


「聞いたことがないな…。お主の言っていた、ウインドウ?というのも初耳だ」


ロックさんが知らないだけということはないだろう。なにせ、会ってからずっと俺の質問に対しすらすらと答えていたのだ。この人には知識人という言葉が似合う。

ならば、ウインドウを出すような動作をこれまでに行った人が1人もいなかったのだろうか。それも考えにくい。俺も奏さんもすぐにウインドウの存在を知ることができたのだから。

ふと思ったが、奏さんも自分のウインドウを出すためにあのヘンテコな格好を探り当てたのだろうか。

まぁ、今はそんなことはどうでもいい。


「ロックさん、左腕をこんな感じで胸の前で固定して貰えますか」


自身のウインドウを出した時のような格好を作りながら言う。


「こ…こうか?」


「そうしたら、左腕の上で右手を左から右にスライドさせてください」


ロックさんの飲み込みは早く、俺が見つけたのと同じ動作をほとんど丸写しのように行った。

しかし、


「出ないか…」


その後、俺はあれこれと実験を試みた。

俺がロックさんのウインドウを出すパターン。

ロックさんが俺のウインドウを出すパターン。

ロックさんがその辺の物のウインドウを出すパターン。

俺がその辺の物のウインドウを出すパターン。


結果、全ての試みが失敗に終わった。


どうやら、「異世界から召喚された人」が「自身や特定の物に対して」動作を行った時のみ、ウインドウは表示されるらしい。

この世界の常識と思っていたものが崩れ、また一つ謎が増えた。


「ところで、そのウインドウというのはどのようなものなのだ?」


興奮した様子のロックさんにそう訊かれ、俺は一通りウインドウ、そしてスキルの説明をした。


「そうか…。魔法にはランクのようなものがあるとは聞いていたが、よもや数値化して見れようとはな」


ロックさんは興奮冷めやらぬようだ。


「そういえば、ロックさんは魔法使えるんですか?魔力の変換はできるみたいですし」


「ワシは攻撃魔法や特殊魔法にこそ疎いが、回復魔法に関しては自信があるぞ。治癒術師という仕事で毎日食っているしな」


マジか。俺の中では、年季のある老人=大魔術師というイメージが根付いていたんだが。


「意外ですね。ロックさん、でっかい火球でもぶっ放しそうな雰囲気ですけど」


「そりゃまた随分なイメージだな」


そんな軽口を叩き合ってから、また話題が逸れていることに気づく。


「そういえば、当分の宿と食事の問題を解決しなきゃいけないんでした…」


ガクンと項垂れながらそう言うと、ロックさんはニヤリと不敵に笑った。

あ、すげー悪役っぽい。


「実はな、ここから少し行ったところにワシの離れがある。魔術の研究に使っていたんだが、ワシももう見ての通り年でな。そこに住ませてやっても良いぞ」


「ぜひお願いします!!」


俺は秒で見事な土下座を成し遂げた。

やっとチュートリアルが終了って感じです!

見せ場もなく、説明パートが思ったよりも長くなってしまってすみません。

次回からはいよいよ物語が動いていきますので、どうぞよろしくお願いします!

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