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前略。栽培スキルがカンストしました。  作者: 軟体悪魔
第1章 出会いと始まり
2/6

第1話 絶景に響き渡るは絶叫。

目が覚めた。


まぶたを開いたとき、視界に飛び込んできたのは、青く澄んだ空だった。

どこからか小鳥のさえずりが聞こえる。背後には、草原のような柔らかな触感が。


…というか草原そのものだった。


むくっと起き上がって辺りを見渡す。


「……すげえ………」


思わず声が漏れる。

そこに広がっていたのは、ヨーロッパの景勝地かどこかかと疑うような美しい光景だった。

見上げるような高い木々は青々とした葉を茂らせ、地面を覆う植物達は陽の光を受けて輝いて見えた。

見たこともない鳥が空を舞い、遠くには立派にそびえ立つ山脈がある。


俺はその光景に見惚れていたが、しばらくしてハッと我を取り戻した。


そうだ。たしか、夕飯の買い出しに商店街へ出掛け、八百屋で野菜を選んでいたところで不思議な現象に見舞われて……


「気づいたらここ…か」


ここはどこなのだろう。周囲に生える木を見るに、とても日本とは思えない。

ともすれば、あの光のせいで俺は地球の遥か彼方へと転送されてしまったのか。

……いや。もう1つ可能性がある。


「異世界…」


今思えば、あの真っ赤な空といい、ザ・魔法陣といい、世に蔓延る異世界召喚もので何回そんな描写を目にしたか知れない。

何を隠そう、俺は俗に言うオタクなのだ。

それに、ここが海外にしろ異世界にしろ、先刻の現象は完全に超常現象だ。異世界に飛ばされたと言われても今更驚かない。


驚くことに、そこまで思考を巡らせると、俺にもう恐怖はなかった。転送前にあれほどビビっていたのが嘘のようだ。美しい大自然の発する癒しパワーが効いたのかもしれない。

それどころか、ワクワクしてさえいた。


そうとなれば、これからやるべきことは一つ。


「…行こう」


ここがどこか、突き止めに。


俺はよっこいしょと立ち上がり、そして、足元に何かが落ちているのに気がついた。

拾い上げてみると、見慣れたそれは、果たして1つのジャガイモであった。


そういえば、空が真っ赤になり、誰かが叫ぶ直前は八百屋でジャガイモを選んでいたような気がする。

よく考えれば身につけている衣服ーー具体的には無地のグレーのパーカー、よくわからない英文が描かれた白のTシャツ、履き古されたジーンズーーもそのままだ。ポケットの財布と家の鍵も無事だった。

とすると、体に触れていたものは一緒に転送される仕組みだったのか。


しかしこれらの物、何の役にも立たない気がする。ジャガイモは最悪食料にはなるが…。


と、そこでふいに頭痛を感じた。


「いつっ……」


声が漏れるほどの激痛だったが、継続時間は短かった。


「収まった…。何だったんだ…?」


念のため数分待ってみたが、何もなかった。


今度こそ気を取り直して…と思った直後、ハエサイズの虫がプ〜ンというゾクッとするサウンドを発しながら顔面に飛んできた。

さっと右手でそれを追い払う。


やれやれと左手に目線を戻すと、そこにはウインドウがあった。


もう一度言う。ウインドウがあった。


「は…?」


ウインドウ。ウインドウだ。完全にウインドウだよこれ!


眼前のそれは、RPGでよく見るステータス画面に酷似していた。そしてそこに表示される「ジャガイモ」の文字列。

その下にはずらーっと長文が並んでいたが、一目見ただけで俺はそれらの内容を理解した。


いや、元から知っていたというべきか。

言葉に出来ない感覚だった。ジャガイモに関する知識なんて芽にソラニンという毒があるとかそれくらいだったはずなのに、俺は元からジャガイモの全てを知っていたような感覚に陥っていた。


意味がわからなかった。

頭痛と関係があるのかなーとは思うが、なぜ急にこんなゲーム世界のようなデジタルなブツが現れたのか。なぜ俺はジャガイモマスターになっているのか。


恐る恐る手を伸ばしてウインドウに触れると、冷たい金属のような感触だった。

見ると、右上にバツマークがある。それを押すと、案の定、ウインドウはパチンと軽快な音を発して閉じた。


数秒後、俺は口が開きっぱなしになっていたのに気づいた。次第に思考が明瞭になっていく。

そして思った。


あれ…?今のやつ、もう1度出す方法がわかんねえ。


もしかしたらこれからの探索に役立ったかもしれない貴重な資料をこの手で消してしまったのではないか。そんな考えが頭をよぎり、冷や汗をかく。


しかし、それもいらぬ不安だった。

虫を追い払ったことを思い出し、右手をジャガイモの付近でサッと左から右へスライドさせると、ヴンという低音と共に先ほどのウインドウが現れたのだ。


もう一度それをパチンと消滅させた俺は、ひとつ思いついたことがあった。


これ、自分のステータスも表示できんじゃね?


俺はあれこれとポーズを変えながら右手を振り回してみた。

結果。左手を体の前で横向きにし、右手をその上でスライドさせることで、俺は自分のステータス画面を表示することに成功したのだった。


我ながらなぜこんなポーズを思いついたのかはわからない。何となくかっこいいポーズを意識してみたらこうなったのだが。


「どれどれ…」


気になるステータスチェックの時間である。

今更だが、こんなものが出るということはここは現実世界ではない。異世界と断定して良いだろう。

そして過酷な異世界で生き残るためには、ステータスが良いに越したことはないーーー

と相場が決まっている。



俺は一通りステータスを確認した。項目ごとに一喜一憂しており、その時の心境は特筆に値するが、話し出すと止まらなそうなのでここでは事実だけを報告しよう。



武器スキル(剣、斧、槍、弓の4種類)…全てレベル0


攻撃魔法スキル(火、水、氷、風、土、光、闇の7種類)…全てレベル0


治癒魔法スキル…レベル0


特殊魔法スキル…レベル0


鍛治スキル…レベル0


調理スキル…レベル53


栽培スキル…レベル100


開発スキル…レベル26



…………おわかりだろうか。


え?HPとか攻撃力とかは無いのかって?

俺も最初はそれらの項目があると思っていたが、どうやらそこまでゲームのようにはなっていないらしい。元の世界と変わらないだろう。


つーか、そんなことはどうでもいい。


わかる?レベル0、レベル0、またレベル0、ついでにレベル0………。


「何だこれ!!!!」


そりゃ絶叫もする。どうやらこの世界には魔法があるらしい。それに、武器スキルを細かく見ると、レベルを上げれば必殺技のようなものが使えるようだ。

それがだ。俺はオール0。才能?そんなものはない。


…かと思いきや。


「栽培スキル100って!!100って!!!!」


説明すると、スキル毎の最高レベルは100だ。

つまり俺は栽培スキルをカンストしていた。


「…え?何これ?意味がわからない」


調理スキルと開発スキルを見るに、これらのスキルは元の世界の実力とリンクしている。俺は一人暮らしで料理はそこそこできたし、開発スキルが高いのは恐らくここが剣と魔法の世界だからだろう。

それなら武器や魔法のスキルレベルが0なのも納得だ。

だが、俺は元の世界で農家を営んでいたわけでも、研究職に就いていたわけでもない。しがない1人の高校生だった。

その俺が栽培スキルカンストとはいったい何の悪戯か。


………………。


俺はジャガイモを見つめた。

ウインドウを開かずとも、ジャガイモに関する知識がどんどん思い起こされる。


ゆっくり深呼吸をして、ちょうど真上で輝く太陽を見上げる。


「………農家にでもなるか」



かくして、俺の野菜片手の異世界生活が幕を開けた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

書き溜めがここまでなので、次回からのペースがどうなるかはまだわかりません。

ただそんなにハイペースにならないことは確かですので、気長に待っていただけると嬉しいです。

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