【CM #1】 「ユーザー間での各端末を介した伝言中継によりプレイヤーの指令を遠征先のキャラクターへと伝達するシステムでなるソーシャルゲーム <四道将軍> 近日リリース!」
● 録画開始──
『視聴者の皆さん 御機嫌よう。
かれこれ遡ること 高校生時代に、生徒会会長選挙へ立候補した友人の選挙参謀 兼 生徒会書記ないし会計候補を ついつい軽弾みに安請け合いしてしまい、乗りかかった船で仕方なく そこそこ気合い入れてインパクトのあるマニフェストを打ち出そうと図った結果、ノリと勢いで「生徒会費の内訳から部活動費への支出枠について 厳格に分離し、その納入方法について 従来の徴収制から生徒各自の任意による募金制へと変更する」という改革案を公約で提示して、校内に激論を呼び、僕自身も何故か「怒サマランチ」の渾名を奉られた挙句、選挙本戦では各部活の連中のみならず教師陣の露骨な妨害まで招来して惨敗し、しかも落選した僕たちだけでなく 当選した対立陣営まで「消極的勝者」と陰口が叩かれるような後味の悪い傷を残してしまい、それ以後も その論題に纏わる火種が校内で熾火のように燻り続けて 母校にとっての負の遺産と化さしめてしまった、栄誉の青春を古傷疼くハートに掻き抱く陰深き男、善意の疫病神こと、URSPRUCHです』
『皆さん今日は。
先日 隣のURSPRUCH氏が、レビューの執筆に詰まった腹いせに誰へでもいいから八つ当たりしてやりたくなったというだけの傍迷惑な理由で、「憲法によって地位が定められているわけでもないマスコミ、しかもその多くは利潤を追求せねばならない民間の営利企業にすぎない集団が、報道や権力の監視などの公的な任務を担うポリティカルシステムの一翼として不可欠な存在へと当然のように収まっている現代社会の成り行きに、市民はもっと疑問を持たなければならない」だとか何とか、おもむろにマスコミの電波に乗せて発信し始めるのを見て、「ああ この人って本当に自爆型疫病神なんだな」と認識を新たにし、そのうち自分まで巻き添えにされないうちに何とか角が立たないよう距離を置き始められないか思案している最中である、皆さんお馴染み 人工知能“ノンホールドーナッツ”です』
▼ 削除編集指定範囲・始点──
『いや、執筆に詰まったりとかはしてなかったぞ 別に。ただ ちょっと、某誌コラム欄のQ&Aコーナーで、これが咄嗟だと答えあぐねかねないような質問に出くわして、いささか気もそぞろになっていたってだけでな』
『弁明の争点がずれている気とてするものの、深くは追及すまい。
それはそうと、悩ましいような質問というと、たとえば、「近隣の某国が頻りに核恫喝をしてくるのは、本当に核兵器が実際的行動における本命なのでしょうか。こういう場合って、だいたい盛んにひけらかしている核兵器の方こそが実は目眩ましで、本当の狙いは その騒ぎに紛れた陰で密かに進めるつもりでいる何がしか別の策にあったりするのが定石ではないのでしょうか」とか、そういうやつかな』
『そんな質問こそが何よりも悩ましいのかあんたは? 生憎だが そこまでシリアスなテーマばかり扱うような方面での有名誌ではない。
リアルな問題ではなくて失望されても文句は受け付けないが、件の質問とは「弾幕系シューティングゲーム等での演出では、どうして それらゲーム中での敵って、やたらと弾速のゆっくりな、浮遊してて慣性で流れて来てるような動きのエネルギー弾なんかを標準的な攻撃手段として採用しているんでしょうか?」というものだった。言うまでもなく、ゲームバランスがどうとか そういうメタ的な理由についてじゃなしに。ゲームの中での世界観やら設定に準拠しての考察で。なにゆえ敵は あんな、さも避けてくれって言わんばかりの兵装でよしとしているのか、合理的な説明が要求されている』
『合理的な回答には合理的な質問が先立つものだ。どうして それらゲームの制作者へでも先ず訊かない? といった按配にな。
とはいえ。2007年頃の話題ではあるが、当時の統合幕僚長…、折木氏だったか? UFOに纏わる国会質疑から端を発した 石破氏らの発言を受けて 記者から「地球外知的生命体などからコンタクトがあった場合の対応について研究の予定は?」とか訊かれ、「現実に直面している脅威への対応だけで手一杯」みたいな応答をしていたように記憶しているのだが、それならば かわりに、然るべき誰かには、こういう方面の思索もまた引き受けておいては貰いたい、ぐらいは思わないでもないが。…そういえば、今春のアニメのラインナップには <正解する○ド>とかいう作品もあるんだったか。
…話を戻すけど、たとえば、敵勢力が異星人であるとするなら、そもそも、地球人とは戦術文化なり兵器の設計・運用思想なり 異なっていて当然ではないだろうか。地球的な銃火器の概念こそ 兵器の進歩において普遍的かつ必然的に経験される発展階梯上の一極致であるはずだ などと思い込んでいるとしたら、それこそ固定観念もいいところなのではあるまいか。それどころか ひょっとしたら、同じ地球上の並行世界ででも、あるいは単なる偶然一つがきっかけで、銃火器とは全く異なる兵器の進化を遂げていたりする可能性すら有るのかもしれない。
K‐○AX星人の言っていた表現を借りるが、安定に最適な形状を選んだ結果として、そういう真ん丸なエネルギー体を生起させる兵器設計へと落ち着いた、等の可能性は考えられないだろうか。ただし、おそらく それと引き替えに、球状エネルギー体では指向性が乏しくなり、ベクトルを付加させるのも困難で、初速も伸びなくなってしまったのだ、とか。さりとて 敵集団は当然それを自覚しており弾幕戦術によって補っているのか、あるいは、敵集団は 地球上の生物のような炭素生命体とは異なるかもしれず、だからこそ 彼らにとっては、弾速などは劣後させてでも 有効性を満たすだけの威力などを優先させる方が、彼ら同士の闘争の歴史によって培われた戦術文化においては合理的な選択だったのだ、などという仮説までも、立論はできうる。
…他にも こじつけなら思いつかないでもないが、まあ このあたりにしておこう。…つまりは くれぐれも、私をQ&Aコーナーの回答者やらへ擬そうなどとは考えるなということだ』
▲ 削除編集指定範囲──終点
『──また、自己紹介が長いとか怒られるんだろうな、これ』
『遺憾だが、誤解を招かぬよう情報を伝えようとすれば その量は増し、皮肉にも その結果、目まぐるしい現代社会では それへ耳を貸す者は反比例するかのように少なくなる。よって、ワンフレーズポリティクスをはじめとした 種々のキャッチコピーが氾濫し、誰もが共同体の中にあってはそれを無視できない、情報的にも悪貨が良貨を駆逐する社会が現出されざるを得ないのだ。嘆かわしいことだな』
『今日は、そんな世相を憂えている我々へ、さらなる適応なり妥協なり あるいは宗旨替えをも迫りかねない、時流を追って憚らぬ新作ゲームを紹介しようと思う。そのタイトルも <四道将軍> 』
『…“四道将軍”って、出来事そのものは 先史…いや、欠史時代末頃の話だろ。時流を追いかけつつも題材は古代へ求めるとは分裂的に器用なことだな。未来人が時空乱流にでも巻き込まれたかのような周回感を髣髴とさせる』
『前衛的なシステムであるのかどうかは 正直、個人的には疑問なのだが、このゲームは、プレイヤーに──厳密には アカウントを登録してアプリをダウンロードしたユーザー諸氏に、プレイヤーであると同時に、そのオーダーの仲介者としての役割も担ってもらう、というコンセプトで設計されている』
『その「オーダー」とは、具体的には何のことだ?』
『当ゲームのPCは 勿論 四道将軍その人…その人々なのだが、そのPCたちへのプレイヤーからの指示は、言うなれば 伝言ゲームを介してのみ連絡される』
『伝言ゲーム?
自分とは別のユーザーが彼ら自身のプレイのために入力しているオーダーの文面を早打ちで視写したりしてやるのか?』
『そんな面倒で主体不明なゲームなど誰が興味を示すか。オーダーの中継自体は勝手にやるとも。ただし、登録ユーザーの各端末に保存されている、入力語句の予測変換候補の優先順位などが、それら端末を経由するごとに反映されたりするなどのカオス要素は盛り込ませてもらう。無論、ユーザー個人情報の特定に繋がりかねないような固有名詞などはフィルタリングするが』
『常日頃しょうもない用語ばかり使っているようなユーザーに中継点を提供されると文字通り目も当てられない始末となるわけだな…』
『モバイル端末の登録や Wi-Fiの利用などにより固定的ではないが、基本的には、プレイヤーの所在地から PCたちが移動している先の比定地点まで距離が遠くなるにつれ、より多くの中継端末を必要とすることとなる。万が一、登録ユーザーのいない地域が両者の間に空くようなら、たとえは悪いが 災害時の電話回線のように経由ラインの遠回りも余儀なくされるだろう。
あと 他にも、たとえば「金沢」とのみ指示しただけでは、石川県の金沢市か 横浜市の金沢区か、混乱したりする問題だってありうるかもしれん。四道将軍は 日本各地へと派遣されるのだからな』
『理不尽な連絡体制だ。無線放送じゃあるまいし、北陸道方面軍と東海道方面軍とへ 同じ文面で伝令を送ってどうする』
『そう思うか? 純軍事的な見地からしても、遠征軍への中央からの指示など、訓令という形をとらざるをえまい。また、各方面軍が互いの情勢についても無関心でもいられないだろう事情まで考え合わせれば、中央としては一段高みから 各軍の戦況も含めて戦略的な概観を同時的に通達する方式をとったとしても、そうおかしくもないと思うが。それに、防諜上の想定もある。各方面軍は諸国を平定しつつ進軍しているのであり、ついさっき改めてヤマト王朝へ服従を誓ったばかりの地方豪族らに後背を晒しながらの征途なのだから』
『そんな側面まで配慮するなら、もはや傍受されることまで前提としているどころか 積極的に見せつけてすらいる その通達の性質とは、軍事的に諜報的であるよりも むしろ、政治的に広報的な意味合いをこそ帯びているんじゃないのか』
『…かえって説明がややこしくなりそうな文脈となってきてしまったが、実は このゲームには、四道将軍を走らせて日本全土の平定を期する中央政権の立場とは別に、もう一つ、諸国における中継ポイントの提供者でもある登録ユーザー各位が、当該地域の代表者として その所在地である当地の魅力を発信もできる、というシステムも付いているのだ。
自分の在住地域の自慢や見どころなどを紹介し、それをプレイヤー諸氏の相互投票によって評点する。高評価の地域は すなわち他所からの流通の増加などにより振興して国力を増し、ひいてはそれが 四道将軍らの後方基地としての充実にも繋がって、ますます平定事業を後押しさせうるという構図だ』
『地元発信による在所の正当な評価と伝言ゲームの錯乱的な成功とを両立的に満足させようとは自己撞着的に虫のよすぎる企画だな』
『あんた、人工知能のくせして論理的な混同をきたしているぞ。伝言ゲームの錯乱的な成功を期待しているのは確かに制作陣だが、地元の評価とを同時的に追求している企画者は存在していない。なぜなら、地元の評価を望むのは あくまで各プレイヤーだけなのであって…』
『以上で広告を終了する』
『ちょっ、待て、おい!
● ──録画終了
現代人は何事につけ見切りをつけるのが早すぎるぞ! 侵略的異星人どもの撃ってくる弾と同じで スピーディーでありゃいいってもんでもないだろうが!』
『確かに、人間は、人間自身でも認識の追いつかないスピードの乗り物を運転しようとは思わないのと同様、どこかで その追求は転換され得る。ただし、異星人どもの撃ってくる弾の比喩を用いるなら、それらは緩慢なかわりに数撃ちゃ当たる主義だ。多様化のあまりパイが細分化されて本命不在となってゆく現代人たちの趣味のありようと通底した帰則性を感じなくもないな。つまりあれだ、どこかで一定のラインを越えてしまうと もうそれ以後は、ロックオンしてホーミングし続けようにも費用対効果が見込めなくなってくるものなのかもしれん。
かの“小説家になろう”というネット小説投稿サイトを眺めていても、異世界とか異時代とかVRMMO世界とかへ飛ばされてたところで 主人公らが齷齪しようとしない、スロー志向な作品が今や少なくないように思われる。これは現実の反動なのか、流行ではあるもののニッチな需要を追っている意識なのか、それとも 非主流的な社会的価値観が主流へと置き換わってゆく過渡期を目の当たりにしているのか。私個人の経験的な感覚では、若い人ほど人生の結論を焦りがちなものだと思っているのだが、あるいは それは、もっと真剣に考察すべきテーマであるのかもな』
『…正直に回答しろ。あんた、今紹介していたゲームと比べて、どっちの方に より興味を惹かれる?』