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3:非常識なメイド

 牧師は悪魔の強烈な攻撃によって完全にのびてしまっていた。

 トドメをさすまでもなく、倒れていた大柄な牧師はいつの間にか空間に馴染むように消えてしまった。


 変態牧師との戦いの後、僕たちは自宅に戻ってきていた。

 妹のやくもに見つからないように、悪魔は2階の窓から直接僕の部屋に侵入させた。

 やくもは帰ってきた僕に軽く驚いて

 いつの間に外に出てたの?

 何処行ってたの?

 と矢継ぎ早に質問してきた。


「ん〜……悪者退治?」

「はっ?」


 やくもの外ハネショートの髪がぴょこんと跳ねた。

 それ以上突っ込まれると返答に窮するので、うやむやにして足早に2階に上がった。

 陸上で鍛えられたあの足で追ってこられると帰宅部の僕は逃げようがないが、やくもはソファに寝そべったままで動くことはなかった。


――


「儂の真名はメフィストフェレス。親しみを込めてメフィたんと呼ぶがよいぞ」

「めふぃ……なんだって?」


 メフィストフェレスと名乗った悪魔は腰に両手を当てて”えへん”と胸を張った。

 ―新しいジャージを支給したので露出していたその胸は今は隠されている―

 さすがに不便なので悪魔の名前を聞いたが、何だかややこしい名前が出てきた。


「メフィストフェレス。言っとくが他言無用じゃぞ。この名をご主人以外に知られると儂はそいつに逆らえんようになる」

「聞いたことがある……。悪魔は本名を知られたらまずいんだったな」


 逆に悪魔によっては、人間の本名を知られるとその魂を奪われてしまうとのことだが、メフィストフェレスはその類ではないという。

 なるほど、知られてはまずいのならやはり適当に短縮して”メフィ”と呼ぶしかなさそうだ。


 そして、ここで核心の質問をする。


「メフィ……、お前は一体どうして僕の前に出てきたんだ?」

「ふむ……急に起こされたので儂もはっきりと覚えてはおらんのじゃが」


 メフィは勢い良く僕のベッドにダイブし、大の字になる。

 青みがかった長い髪がベッドに広がり、きれいな半円を描く。

 そしてメフィは天井を見上げながらぽつぽつと語り始めた。


「これは生き残りをかけたゲームなんじゃ。”非常識”同士が闘う、ゲーム」

「ゲームだって……?」

「……そろそろ出てきたらどうじゃ、お前」


 メフィが天井をぼーっと見上げたまま、唐突に言い放つ。


「あ……それでは、この先は私から説明させてもらいますっ」


 聞き覚えがない声が唐突に僕の耳に届いた。

 二人しか居ないはずの部屋にだ。


「えっ……?」


 慌てて部屋を見渡すと、まるで最初からそこに居たかのように僕の背後に立っている女がいた。

 いつから居たのか、まったく気が付かなかった。

 一見してメイドの格好をした若い女の子だが、背中には長い刀を背負っている。

 メイドは背筋をぴんと伸ばした良い姿勢で、腰から丁寧に頭を下げる。


「主命で参りました、ミコトと申します。以後お見知りおきをっ……」

「あ、はい……どうも」


 思わず丁寧な挨拶をされたので、謎の侵入者に対しこちらも会釈で返してしまった。

 ただミコトと名乗ったメイドは深くお辞儀をしすぎたのか、背中の刀がずれ落ちて鋭い刃がむき出しになる。


「わわわ、おっと、これっ佐助! 出てきちゃだめですよ!」


 刀に向かって喋っているのだろうか――。

 慌てて居住まいを正したちょっと痛いメイドはベッドのメフィを一目した後、僕に向かって言った。


「多那葉一翁様ですよね。そして、あそこで寝ているのがあなたの非常識……」

「起きておるわい、無礼者め」


 メフィは上半身を起こしてミコトを睨みつけた。


「ん〜……でもおかしいですね、世界でも屈指の強力な非常識が生まれたと聞いてやって来たのですが」


 ミコトは人差し指を顎にあてて首をかしげている。

 

「ここに居るのはとても平凡な力の非常識……。あなた本当にすごいんですか? 私より弱そう……」

「本っ当に無礼なやつじゃな、なんならここで分からせてやってもよいのじゃぞ?」


 メフィが睨みを利かすと、呼応するようにミコトの背中の刀が光を帯び始めた。

 ミコトは慌てて柄に手を当てる。


「これ佐助! こほん……挑発には乗りませんよ、私は主命をこなすのみです」

「先に挑発してきたのはおまえじゃ……!」


 マイペースにミコトは言葉を続ける。


「さて、多那葉様、このままだとあなたはおそらく殺されてしまうでしょう」

「……へ?」


 あっけらかんとしたミコトからの死刑宣告に僕は絶句した。

 この子、メイドじゃなくて死神だったのか――。

 メフィはムスっとしたまま何も言わない。

 ミコトは笑顔で続ける。


「かんたんに説明しますね! まず具象化された非常識がその存在を維持するには、他の非常識な存在を打ち倒すこと以外にありません。さらに倒した対象が大きな存在であればあるほどその非常識は強く存在を証明できます」


 長々と講釈を続けるミコト。

 僕は自分が殺されると聞いて必死にその説明を理解しようとした。


「非常識な存在が生きていくにはお互いに戦い続けるしかないってことか……」

「はい、そしてやがて世界から存在が認められれば、晴れて常識的な存在として世界に居座り続けることができます」


 先程襲ってきた牧師も己が存在を証明しようとしていたのだろうか。


「そこにいる非常識さんはとても大きな力を持って生まれたので、他の非常識な皆さんから狙われやすいということですねぇ」

「メフィが危ないことは分かった。でもさっきは僕が殺されるって……」

「非常識は強力な力を持っているので、いわば本体であるあなたを殺すのが手っ取り早いということですよ」


 なるほど! とつい納得してしまいかけたがたまったもんではない。


「僕が死ねば僕の非常識であるメフィも消えるということか」

「まあ、具体的に言うとすぐには消えませんが、本体を失った非常識は大半の力を失うことになるので結果的には、はい、そのとおりですね」


「つまりですね」


 ミコトは変わらぬ笑顔で言い放った。


「死なないように頑張って生き残ってくださいね」


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